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プロ野球の大投手だった江夏豊さんは、いくつか本を出しているようです。私はたまたま話題になった本『左腕の誇り』(2001年の草思社版)の文庫本(2010の新潮文庫)をようやく読み終えました。
波多野勝さんという方がまとめているので、阪神ファンが江夏さんにインタビューして、その内容を当時の記録などを引きつつ、野球人生を振り返るという内容です。正確には自伝としてはいけない気がする。でも、まあ、自伝という方がカッコよかったんでしようか。
今さらどうして江夏豊なの? という感じですけど、江夏さんは一見怖そうだけど、昔からずっと輝き続けた人ではあったし、改めてどんな風に野球界を過ごして来られたのか、それを読ませてもらいました。
江夏が八年間在籍した阪神は、江夏のなかにある指導者の素質を育てなかった。江夏は自らを、孤独に強い人間だと言っている。二年二カ月におよぶ囚われの日々も、たくさん差し入れてもらった本を読んで過ごしていけば苦にならなかった。
ね、語り方としても「江夏は」と第三者的に書いているから違う感じです。そして、江夏さんは薬物か何かで刑務所にも入ったんでしたか。そんな囚人生活でも無駄に生きないで、じっくり本を読むことをしたそうです。なかなか大したものでした。
そんな江夏さんに、だれか、どこか、しっかりとした仕事をさせてくれたら、いいコーチになれたと思うんだけど、オファーはなかったのか。
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そんな彼がもっとも苦手とするのは組織のなかの人間関係と、そこでの駆け引きである。不幸なことに阪神は、その種のゴタゴタを頻繁に起こす球団であり、エース江夏は否応なくその渦中に巻き込まれた。
巨人に勝ちさえすれば優勝などしなくていいというこの狭量な球団は、江夏のもうひとつの資質を引き出すべくマネージメントすることはなかった。しかも、ひどいかたちで彼をトレードに出した。
そこから、江夏さんの見つけた野球人生があったわけですが、阪神という球団にいた間は、監督にこき使われ、左ひじ・肩などの痛みとも戦いながら、ただガムシャラにやってきただけだったような気がします。
後に監督になった村山さんとの間は、いい関係を築くことができたみたいだったけれど、それでも闇雲だったかもしれないです。
江夏さんに言わせると、1985年の日本一になった吉田義男監督はあまり江夏さんには合わなかったみたいで、いろいろと気に入らないことがあったみたいでした。まあ、吉田監督はケチだったそうで、そのシブチン魂で奇跡的に1985年に猛虎打線を爆発できたけれど、それ以外はうんざりすることが多かったそうです。
それに江夏さんは、とっくの昔に南海にトレードされ、ここで現役でやってた野村さんに出会います。この出会いは後の江夏さんを決定づけるもので、江夏さんの才能とその限界を把握し、持てる力を存分に発揮させてくれた。それから、広島・日本ハムなどを渡り歩き、最後はメジャー挑戦をして、やっとキャリアを閉じたんでしたね。
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うちの本棚には残しておこうと思います。1人の天才を世の中はどんなにして消費し、天才はそれにどのように抗ったか、その記録だったのだと思いました。
江夏さんのような才能は、再び出てくるかもしれないけど、その才能がどんな人に出会うかです。今の野球界にそんな、人を育てる人って、いるのかもしれないけど、どこにいるのか、わかりませんね。