星新一さんの『ボッコちゃん』という作品集の中に、「来訪者」というのがあります。
空から円盤がやって来て、「金色のスマートな服をつけた人物がひとり」地球に到着します。
何にもしゃべらないで、ただ yes なのか、 no なのか、返事みたいなのをしてくれるだけで、それならばというので、いろんな人たちがこの来訪者の前でそれぞれのパフォーマンスを繰り広げます。
とにかく、この宇宙人にうまく取り入って、有名になりたいし、自分の手柄にしたいし、人間たちの欲望も見え隠れします。
純粋な? 若者が、そうした人間たちの姿を許せなくて、ハンマーでこの他星人をたたいてしまいます。すると、簡単にその人は倒れてしまい、手当てを担当した医師たちは、これはロボットですと報告します。
そのあと、緑の太陽に照らされたある星では、これが「地球」という星からの実況中継でした、というテレビ番組の終了が告げられるというオチがあるんでした。
これはまあ、友好的な宇宙からの使者でした。
さて、いろんな星からの来訪者がありますけど、H・G・ウェルズ原作の宇宙からの使者といえば、「宇宙戦争」になるわけですね。
1953年に90分足らずの映画が作られます。監督はバイロン・ハスキンという人で、他では見たことがありません。この50年代、いろんなSF映画が作られたから、その流れの中のB級映画だったと思うんだけど、わりと切実感があって、小さい頃に見た時には、「ああ、人類は滅びてしまう」と思ったものでした。
宇宙人の力は圧倒的でした。当時の人類の最高の武器である原子爆弾をぶつけても、目玉のついた攻撃船はスイスイと空を泳いでいました。
もう全く歯が立たないし、向こうがやりたいように地球人をズタズタにしていました。
教会も破壊され、人々は逃げ惑い、意味もなく殺されていく。
と書いてきて、それは別に宇宙人だけではなくて、地球に住む人々が、同じ人々にやってきたことでもあったのかもしれない、とは思えました。
架空の話として無敵の宇宙人の侵略が描かれてたけれど、人類そのものもそれと変わらないとんでもないことをしでかす時があるものだ、と、ふと思います。なにしろ、1953年ですから、つい何年か前には、そういうことが世界で起きてたはずでした。
さて、人類は滅亡したのか?
昨日の「マーズ・アタック」は変てこな音楽とおばあちゃんとオタク系の青年が活躍しました。
この「宇宙戦争」では、地球の細菌が宇宙人の体を蝕み、宇宙人たちはバタバタ倒れていきました。
宇宙人が、ちゃんとワクチンを作って、地球でも耐えられる体になったら、ふたたび侵略されるかもしれないけど、宇宙人に負けないすごい武器を作らねばならないんでしょうか。
そんなことよりも、今あるしあわせを大事にして、たくさんの命を無慈悲に奪う嵐みたいなのは、自分たちから起こさないようにしなくちゃ、という教訓なのかな。
2005年に、トム・クルーズさん主演で、S・スピルバーグ監督でリメイク作品が作られてて、見事に再現されてたけれど、オッサンとして見ていると、そんなに切実感はありませんでした。
私が年を取ったからなんだろうか。わざわざそんなの見なくていい、というところなのかな。
深夜の廃屋での変てこな男との対決、あそこはスピルバーグさんらしかったけれど、後味は悪かったしな。やはり、カラッとした1953年版がよかったかな。