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昨日も少しだけ干刈あがたさんの本を読みました。すぐに倒れたんだけど、印象的な場面はインプットしました。
それは夜行急行の「銀河」でした。私も複数回は乗ったことがあったような気がしたけど、一回くらいだったかな。
東京と大阪をつなぐ夜行の急行でした。いつくらいまで走ってたんだろうな。
その急行は、ただ関西に朝着くだけではなかったなんて、それは知りませんでした。
あがたさんのご両親は、奄美大島の少し向こうの沖永良部島の出身でした。そこから東京に出てきて、お父さんは警察官になりました。お母さんは、お見合いをさせられてとりあえず結婚してしまった。
それで、里帰りとなると、大変な旅をしなくてはならなかったようです。
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ユリは夜八時東京発の夜行列車〈銀河〉で、ちょうど十二時間かかって朝の八時に神戸に着いた。夜行〈銀河〉は、東京在住の奄美諸島の出身者なら誰でも、感慨をこめて発音する列車名だった。
ある者は東京の暮しをたたんで一家で〈銀河〉に乗り、ある者は久しぶりに会った肉親といつまた会えるかと思いながら〈銀河〉を見送る。神戸まで行けば、そこはもう島とは海つづき、船で直接島とつながっているようなものだ。
〈銀河〉に乗る人と見送る人は、窓ごしに手を取り合って泣いた。島の人を見送る時、それはかならず展開される光景だった。
神戸は奄美諸島とつながっていたんですね。今は空港とのつながりの方が深いかもしれないけど、昔は飛行機は高かったし、そんな路線もなかっただろうし、船でつながるしかなかったようです。
ついこの間のことなのに、今さら想像できなくなっています。
夜行急行もなくなってしまって、もう何十年も経過していることでしょう。こんなに回転の速い世の中で、そこをクルクルしている人たちはいいけど、その流れの速さにうろたえるような私みたいなものには、昔の記憶の方が近しい気がしたりします。
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東京と島とがあまりに遠かった戦前、そして島がアメリカの占領下に入って自由に往来できなかった八年間の名残りだろうか、復帰して自由に行き来できるようになっても、ユリは何度か東京駅へ連れていかれ、その光景を見た。
そうした盛大で感傷的な見送り風景は、東京生まれのいわば二世たちには気恥ずかしく、とはいってもまだ子供なので行かないとも言えず、仕方なく子供どうし寄ってホームの少し離れたところからぼんやりと見ていた。
大人たちが感情を高ぶらせてお別れを辛がっている、それが子どもには理解できなかったんですね。
私も、そんなことを大阪駅で経験した気がします。でも、私は、もらい泣きするタイプだったし、ああ、この人たちとは何年も会いたいと思っても会えないかもしれないし、ひょっとして二度と会えないこともあるのか、とか、漠然と思ってたかなあ。
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★ 引用は「入江の宴」(干刈あがた)でした。
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★ 確認してみたら、奄美群島は1953年、小笠原諸島は1968年、沖縄諸島は1972年だったんですね。ずっと時間をかけて戦争からの復帰をめざしていた国でした。それから、50年は経ったんですけど、まだ取り戻してないものがあるんでしょうか。
というか、米国とだけはつながっているけど、韓国とも、ロシアとも、中国ともまともに話ができてないのだから、領土問題を語るわけにはいきませんでした。拉致問題も、選挙のネタにはなるけど、まともに取り組む人が出るんだろうか。そんなことしてても、選挙に落ちるだけだから、誰もやらないのかもしれません。本当に政治家の皆さんって、自らの利益のためにしか動かないんですから。