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中国と米国の貿易戦争というのか、関税に関してお互いに、「目には目を」、「歯には歯を」でぶつかり合っています。
どちらかというと、中国に余裕があるように見えるのは、習近平さんが国内で圧倒的な政治権力を握っているからでしょうか。米国からどんな不利な条件をぶつけられても、一歩も引かないのです。
焦っているのはアメリカで、このまま振り上げた拳をどこに持っていけばいいのか、失敗すれば政権の死が待っているだけで、トランプさんのわがままな四年間が終わるだけです。
中国から譲歩が引き出せないなら、どうしたらよいのでしょう。持久戦でアメリカは持ちこたえられますか? 世界全体が不景気になったら、トランプさんの責任が問われるでしょう。習近平さんは、すべてあちらが仕掛けてきたことであり、売られたケンカで引き下がるわけにはいかなかったのだ、という大義名分があります。ひっかきまわしているのはアイツです。あの、フワフワヘアーです。
そういえば、昔、象みたいなのとガマガエルみたいなのがベトナムのどこかで会見したことがありましたね。あれは、圧倒的に力の差があります。ガマガエルがいくら国内では絶大だとはいえ、ゾウさんに踏みつぶされたら、すべてが終わってしまいます。
まさか、無意味な戦争をするわけにはいかないし、ゾウさんは平和を好む生き物だから、自分から攻撃することはありません。ただ、むやみに刺激したり、目の前を無視するように歩いてたりしたら、踏みつぶすことはあるでしょう。ゾウさんを刺激はしてはいけない。穏やかに接してあげている分には、ゾウさんは穏やかな生き物です。
こういう時、力の差はあるけど、一歩も引かず、お前さんには負けないぞ、というポーズを見せることも大事です。逃げていたらバカにされるだけだし、せいぜい相手を困らせてやらなくてはならない時もある。
そういう時に、
81・「澠池(めんち、または、べんち)の会」してきたよ。
というふうに表現してみましょう。強い相手に一歩も引かず、相手に気持ちだけでぶつかってきた、という意味で使うのはどうでしょう。
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秦の昭王は、趙の恵文王と約束して、澠池(めんち)で会合をしようという提案をしてきました。これは、強国の秦が、相手を怖がらせて、もし優しくしてほしいなら、攻められたくなかったら、お城のいくつかを提供しろ、という嫌がらせのための会見のつもりです。
秦としては、相手が拒否してきたら、攻撃の口実ができます。また、相手がのこのこ出てきたら、そのまま捕まえて人質にしてしまうとか、その場でお城をいくつか提供させる約束を取り付けたいところです。とにかく相手はびびっていると思っていますし、こちらは完全に相手をなめているのです。ヘビににらまれたカエル状態です。
さて、趙王さんは当然嫌がります。将軍の廉頗(れんぱ)さんと、大臣の藺相如(りんそうじょ)さんは王様を励まして言います。
「王行かずんば、趙の弱くして且つ怯(けふ)なるを示すなり。」と。
(王様が行かれないということは、わが国が腰抜け・負け犬であるというのを認めることになります。ここはどうしても、行かないわけにはいかないのです。)
趙王さんと藺相如(りんそうじょ)さんは出向くことにしました。でも、ちゃんと次の作戦も立てています。見送りの廉頗さんに次のように言います。
「今から出向くとして、往復で三十日はかかるかもしれません。何しろ中国は広大ですから。三十日を過ぎて、王様が帰って来られない場合、ということは、相手に監禁されているという可能性もあります。その時には、太子を次の王様にしてもよろしいですね。そうしないと、国としてまとまりができないですし、新しい王様を立てなくてはいけないと思うのです。」
この提案は承諾され、退路を断って王様は会見に臨みました。
秦の王様は、とにかく趙の王様を辱めなくてはならないので、嫌がらせを提案します。
「あなたは音楽がお好きだと聞きました。私のために瑟(ひつ 太鼓みたいなもの?)を弾いてくれないですか? ねっ、いいでしょ。お願いいたします。イヤなら、こっちにも考えはありますよ。」
この強迫に負けて、趙王さんはポンとたたいてみせました。
すかさず、秦の王様は、記録係に、
「おい、今の事実をちゃんと書いておくように。」と指示します。
もちろん、相手がこちらに負い目があるというのを記録としても残し、広めておくためです。中国って、こういう事実の積み重ねが好きみたいなんです。その事実が世の中を変えてきたということになるんでしょうか。
藺相如さんはこのためについてきましたよ!
「趙王さまは、秦王さまが秦の歌を歌われるというのを聞いておられます。ですから、どうぞ、趙王さまに、秦の歌というのをきかせてあげてください。お願いします。」
こちらも負けていないイヤガラセです。でも、秦の王様が引き受けるわけはありません。なにしろ王様ですから、下々のものに言われたことをしては秩序が狂うというのか、王様としての立場をメチャクチャにされてしまう。当然無視しますし、怒ります。
藺相如さんはどうするんでしょう?
「王様、私と王様との距離は五歩くらいです。ですから、私の首から血を吹き飛ばして王様におかけしましょうか。いかがですか?」
ものすごい提案です。みんなびっくりしたでしょうし、本人も死ぬということは、もちろん、秦の王様も道連れに殺してしまいますよ、という提案でもあるのです。捨て身攻撃です。
秦の王様のまわりの者は、「何するものぞ」と刀に手をかけようとしています。
藺相如さんは? 一瞬の目力でまわりの者たちを制してしまいます。何しろ気合いだけは天下一品で、どこからどんなふうに言葉で相手を呑み込むのか、相手はそれが読めないので、一瞬で度肝を抜かれてしまいます。
仕方がなくて、秦の王様は、ポツンと楽器を鳴らします。ポツンと小さな音です。聞こえたか聞こえないかの小ささです。大国の秦の王様なのに、イヤイヤの態度を示してしまった。もっと正々堂々やればいいのに!
藺相如さんは自国の記録係に命じます。
「某年月日、秦王趙王のために缶(ふ という楽器)を撃つ。」と書きなさい!
もうこうなればイヤガラセの応酬です。やったらやり返せ、です。
秦の群臣たちが言います。
「趙の十五の城を提供して秦王さまの長寿のお祈りをしたらどうだい」と。
「趙の十五の城を提供して秦王さまの長寿のお祈りをしたらどうだい」と。
藺相如さんも言います。
「秦の都の咸陽(かんやう)を趙王さまに差し出して、長寿をお祈りしたらどうです」と。
秦王さんは宴会が終わるまで、とうとう勝ったという時間を持てないまま、ストレスだけをためて、ウツウツとしてしまいました。さすがに宴会で戦うというのは、王様のすることではなかったのです。宴会は、とりあえず、顔を見合って、ことばで戦うだけなのです。
会見の後、趙は万全の守りの態勢を敷き、秦の侵略に備えたので、秦もうかつに攻撃はできなくなりました。下心を見せすぎた秦の負けになりました。侵略したいのなら、会見などせず、丁寧に攻撃の意志表示をした方がよかったでしょう。楽して領土拡張を狙った秦のミスだったというべきでしょうか。