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焚書……どうして本を焼くの?

2025年02月08日 17時24分42秒 | 中国の歴史とことば

 ことわざ辞典なども他にあるのですが、今回は平凡社版『中国の故事と名言500選』(駒田信二・常石茂編 1975)からの引用で、始皇帝さんの焚書坑儒を見ていきたいと思います。

 秦の始皇帝の34年(前213)、始皇は咸陽宮で酒宴を催したそうです。博士70人が進み出て寿をことほいだあと、僕射の周青臣(しゅうせいしん)が進み出て次のように言ったそうです。

 「陛下が天下を統一したまい、諸侯の地を以て郡県となされたため、人みな楽に安んじ、戦争のうれいなく、その徳を万世に伝えることになりました。上古より、陛下のご威徳に及ぶものはありません」

 そんなに大したほめ言葉ではなく、当たり前のことを述べた感じです。続いて斉の博士・淳于越(じゅんうえつ)が言います。生意気なことを言ってはいけないのは誰もがわかってるはずです。

 「臣の聞くところによりますれば、殷、周の王たること千余年、子弟、功臣を封じて藩屏としたということでございます。ところが、いま陛下は天下を統一せられながら、ご子弟はなんの位もなき匹夫にすぎません。

 もし突然、斉の田常や晋の六卿(りくけい)のような主家を乗っ取る逆臣があらわれた場合、皇帝を輔佐する諸侯がなければ、どうして救ったらよろしいのでありましょうか。

 すべてのことは古(いにしえ)を師とせずして、よく長久を保ち得たものがあるとは、聞いたことがありません。いま、青臣がまたご前にへつらい、陛下の過ちを重ねようとしております。このような者は忠臣とは申せません」

 なんて言ってしまいます。確かに、始皇帝さんは徹底的な中央集権で、すべての権力を握り、すべてを管理する、とはいっても、それなりに官僚たちがいたと思われますが、部下たちが決められたことを黙々と処理していたことでしょう。

 ひとりの人が、人間世界のすべてを管理するなんて、たとえ一瞬でもできたとしても、それが永遠に続くわけではないし、人間の集団とは、わがままで一人の人間の思惑を越えることばかりしでかすものなのです。

 やはり、だれかに任せなきゃいけないし、社会の運営は、ある程度のゆるさも必要だと思われます。厳しさも必要ではあるんですけど、ゆとりがなかったら、人間の集団ははみ出てしまうものです。

 丞相(総理大臣みたいな人ですね)の李斯さんは言います。

 「いにしえの五帝と呼ばれるもの、および夏、殷、周三代の政治は、いずれも前代の制度を踏襲したのではなく、おのおの独自の施策をもって治績を挙げた。それは政道が相反したためではなく、時代が変わっていたからである。

 いま陛下は大業を創始し、万世に伝うべきの功をお立てになったが、このようなことは、もとより愚儒(ぐじゅ)の知り及ぶところではない。かつ、于越の言は、夏、殷、周三代のときのことを言ったものであり、なんら法度とするには足りない。

 李斯さんが、始皇帝さんの統治は画期的なものであると褒めたたえるのはわかります。確かに新しい国のシステムが生まれたのです。でも、世の中はちょっと心を許すと、下剋上の戦国時代になります。そのために、始皇帝さんは国内を巡行して秩序というものを根付かせようとしたのでしょう。それは正しかったはずですが、国を安定させるのは簡単なことではありません。創業と守成というのは、同じ理屈でやっていけるものではないのでしょう。

 創業というのは、時には大胆に、アグレッシブに外に攻めていかなくてならない。守成とは、できてしまったものを、シンプルにして(すぐにいろんなルールが生まれて複雑化してしまうので)、ディフェンシブにやらなきゃいけない。方向性が違うんですね。始皇帝さんは、最初から最後まで攻撃的だったんだろうな。

 (過去の混乱した社会とは違って今は、)皇帝が天下を統一し、黒白を明らかにして、尊ぶべき唯一のものを定められた。しかるに今、おのが学びしところをもって、相よって法教をそしる者どもは、政令下ると聞けば、おのおのその学問の立場よりこれを議論し、朝廷に入りては、さすがに口に出さず心のうちにこれを非議するのみであるが、外に出ては巷間(こうかん・ちまた)でこれを批判する。主君にたてつくことを誇りとし、異議をとなえることをもって高尚とし、門下をひきいて誹謗する。このようなことを禁じなければ、上は君主の威勢が低下し、下は徒党が勢いを成すに至るであろう。これを禁ずることこそ肝要である。」

 引用が長くなりましたが、国の政策に異議を唱える者は、すべて皇帝様の政治には邪魔なものだから、一切の学問を禁止することが単純でよいことである、と述べてしまいます。ああ、総理大臣がそんな皇帝礼賛では、反対者は何もいなくなるし、諫める者もいなくなります。

 これは、李斯さんによる「始皇帝ハガタの王様」作戦だったのかもしれません。かくして、学問のもとである本が一部の実用書を除いて、すべて焼き尽くされるというものすごい政策が生まれてしまいました。

 この思想統制の流れは、次があるので、また今度書こうと思います。

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