
商鞅さんって、いろんな言葉をもらい、自らも言葉を発し、戦場にも出かけ、活動しまくった人のようです。
でも、とても大切な自らの人生に関する言葉は聞き入れることができなかった。それが残念です。でも、それでこそ人間らしいというべきかもしれない。
人間は、確かにそうかもしれないと、人の助言を聞き入れた風を装うことはできます。けれども、本質は変わらないし、今まで突き進んできたことはなかなか変えられない。
だから、アホウじゃなかったはずの商鞅さんだって、失敗してしまった。

商君(しょうくん 商鞅さんのことです)が宰相として秦の国で権力をふるって十年が経過していました。たまたま人の紹介で趙良という人と話をする場面がありました。
商君さんは、趙良さんをスカウトしようと誘っています。わりと積極的です。でも、趙良さんは全くその気がないようです。
「孔子さんは、賢者を集めて大事にする人は出世し、不肖(ダメなヤツ)を集める人は没落すると言われたそうですが、もちろん私はダメで見込みのないグータラ人間ですから、とても商君さまのお役に立てそうにありません。」
「何をおっしゃるんです。あなたが不肖なら、だれが不肖じゃないというのです。あなたこそ賢者じゃありませんか。どうです。私を支えるスタッフになってくださいませんか。お願いです。よろしくお願いします。」
「もしあなたのお言葉に従うなら、私は貪位・貪名のそしりを受けるでしょう。ですから、あえて君の命に従うわけにはいかないのです。」
「あなたは、私が秦の国を統治しているのが不服なんですか? そこのあたりをはっきり聞かせてもらいたいですなあ。」
「他人の言葉に反省し、傾聴するのを聡(そう)といい、心服して、ものを見るのを明(めい)といい、自己に打ち克つのを強(きょう)といいます。
虞舜(ぐしゅん)の言葉に『みずから謙遜すれば尊敬される』というのがありました。君としては、虞舜の道を論ぜられるにこしたことはなく、私にあれこれお尋ねになる必要はありますまい。」

「私は、田舎くさい二等国の秦を、法をもって組み立て、国を豊かにすることができました。この国にかつて百里けいという政治家がいて、国を立派に統治したとされておりますが、私と比べてどちらが優れていると思われますか?」
「どんな言葉も、国が傾くときには役には立ちません。どうぞ商君さま、私がどんな失礼なことを申したとしても、それはあなた様を思う発言でありますから、どうぞ私を罰しないでください。」
「昔の言葉では、貌言(ぼうげん うわべを飾る言葉)は華(はな)であり、至言(しげん 適切なコメント)は実(じつ)である。苦言(相手の耳にはイヤな言葉)は薬(くすり)であり、、あなたが私に直言してくださるなら、すべては私の薬となるでしょう。どうぞ、私を支えるスタッフの1人になっていただけないですか。」
「わかりました。あなたが持っておられる土地・地位すべてを返上し、あなたの持っておられるものすべてを放棄されるのなら、私はあなたに従います。それが自然のルールみたいなものだと私は思っています。いかがなさいますか?」
「すべて私が得てきたものを捨てろ、そうおっしゃるのですか。それは無理というものです。私が努力して積み上げてきたものをすべて捨てろと。それはムチャで話にならないなあ。わかりました。あなたを迎え入れたい気持ちはありましたが、あなたとは意見が合わないようで、今回は諦めます。」
かくして物別れになりました。
それからすぐ、商君さんは転がってしまいます。滅びの予感みたいなものはあったのだと思われます。それを阻止するために、新しいスタッフが必要だった。でも、せっかくスカウトしても、寄り付かず、すべてを捨てろとしか言われなかった。
彼にはそんな妄言を聞く耳を持てなかった。すべてを保持したまま、それを永続的にキープしたかったんですから。ああ、ザンネン! 権力者はなかなか捨てられないらしい。
私なんかと比べものにならない。持てる者の悩みなんだろうな。

★ まとめとして、「貪位・貪名」と「甘言は疾」がありました。意識して使いたいことばです。
73 おるべき地位ではないのに、その地位におるのを貪位(たんい)といい、受けるべき名誉ではないのに、これを受けるのを貪名(たんめい)というのを聞いたことがあります。
74 甘言(かんげん 相手がよろこぶ言葉)は疾(やまい)であるというそうです。