甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

ものすごい約束 中歴71

2019年06月25日 17時16分39秒 | 中国の歴史とことば

 もうしばらく趙の国にいます。ここはエピソードの宝庫なんです。さて、ことばを紹介します。

82【刎頸の交わり】 … 友人のためなら首をはねられても後悔しないほどの親しい交わり。「刎頸」は、首をはねるという意味です。さて、この「刎頸」のよみは?

 趙王さんと藺相如さんは、澠池(めんち)の会が終わって、国に帰ってきました。王様はどっと疲れていたはずです。でも、とにかく藺相如(りんしょうじょ)さんの功績はものすごかった。もう秦の国に人質になるかもしれないと会見場所に出向いたのでした。

 それが、人質にもならず、相手にバカにもされず、どちらかというと、相手の鼻をあかしてやったんですから。ここは、藺相如さんに褒美をあげなきゃいけないくらいです。

 そして、「相如の功の大なるを以って、拝して上卿となす。位(くらい)廉頗(れんぱ)の右にあり。」となります。どこの馬の骨だか分からない流れ者が、国の重要ポストについてしまった。

 もとからいる人たちは、それはもう穏やかな気分ではいられません。

 猛将・廉頗さんは言います。
 「私は趙の将軍になり、攻城野戦において多大な功績があった人間だ。

 しかるに藺相如は、ただ口舌(こうぜつ  おしゃべりのことです)だけで仕事をして、位は私の上にいる。しかも相如はもとはいやしい身分の人間だ。私は、自分がいやしい人間よりも下にあることに耐えられない。これは大いなる屈辱であり、許せないのだ。 」と。

 さらにみんなに宣言します。「私は、相如に出会ったら、あいつを辱(はずかし)めねばならない。絶対にそうしてみせる。」と。

 さあ、大変なことになりました。相如さんはこの話を聞いて、廉頗さんと同じ空間にいることを徹底して避けるようになりました。王様のおそばにお仕えしなくてはならない時でも、仮病をつかって出席しないようになりました。

 ある時、相如さんは街中で、遠くの方に廉頗さんの車が来るのを見つけました。すると、自らの車を道の端っこに隠れるようにさせたそうです。

 そうなると、人というのは不思議なもので、相如さんの家来たちがご主人に文句を言ったそうです。
 「私どもがご主人さまにお仕えすることになったのは、ご主人さまが高位に就かれ、国を切り盛りされていて、その方のおそばに仕え、お支え申し上げることに喜びを感じ、私どもの生きがいとしてきたのです。

 ところが、ご主人さまは、廉頗様と同じ位におられるというのに、あの将軍様からとんでもない言葉を浴びせられ、ご主人さまは廉頗様を恐れ、いつも逃げておられます。どうしてそんなにみっともないくらいに逃げてばかりなのですか?

 私どもとしては、恥ずかしいばかりで、もうあなた様にお仕えすることを辞めてしまおうかと思っているのです。」

 家来なのに、大胆です。そこはこの主人にしてこの家来あり、という感じでしょうか。とうとうそんなことを話してしまいました。

 藺相如さんは怒ったでしょうか?

 芝居っけたっぷりの彼のことですから、どんな顔をして話したのか?

 真面目なふりだったのか、ニコニコしながら話したのか、それとも当たり前のことを話して聞かせる雰囲気なのか、どっちにしてもみんな納得させられるんだから、この人の人間的な魅力は感じます。

 「あなたは、廉将軍と秦の王様、どちらが恐ろしいと感じますか? どっちがムチャなことをする人でしょうか? この質問に答えてください。」

 「それはもう、恐ろしいのは秦の王様でございます。」

 「そうですね。秦の王様は、私たちにはなかなか言うことを聞いてもらえる相手ではないですね。」

 「あなたたちもご存じのことかと思いますが、秦の王様が私たちの国に仕掛けてきた横暴にもくじけず、彼らの宮廷の中に私は単身乗り込んで、彼らを叱りつけてきたことがありましたね。楚の国に伝わる宝玉を奪われそうになった時のことでした。

 私は、それだけの人間であり、それ以上でも以下でもありません。

 さて、その私が廉将軍を恐れているとでも思っているのですか? どうなんです、君たち! あの強引でムチャを承知で嫌がらせをする秦という国、あの国が私たちのいる趙を攻めてこないのはどうしてか、それは分かっていますか?」

 「ご主人様、それは、たぶん……。」

 「それはおそらく、私と廉将軍がいるからなのですよ。二人がいるからこそ、簡単に秦は攻めてこられないのです。

 今、この二匹の虎ともいうべき二人が争ったらどうなりますか? 二人がともに趙の国に立っていることはできないでしょう。

 だから、私は廉将軍と争ってはいけないのです。二人が争えば、秦の思うツボにはまります。秦の軍隊は喜んで私たちの国に押し寄せるでしょう。二人が争うことは国が滅びるということなのですよ。だから、私は絶対に争わないし、争いのタネになるようなことは徹底的に避けるようにしているのです。」

 藺相如さんの考え抜かれたお話であり、やがてはそれが広がって将軍の耳にも届くと予想しての言葉だったでしょうか。

 廉頗(れんぱ)さんはノウノウとしておられなくなりました。それくらい個人的なことを捨てて、みんなのことを考えている藺相如さんに、おわびをしなくてはいられない立場になってしまった。

 立派な将軍様である廉頗(れんぱ)さんもろ肌脱いで、自らにムチ打ち、トゲトゲの草を巻いて、おわびをしようとやって来ました。少しわざとらしいけど、それくらいのパフォーマンスは必要です。それでみんなも納得してもらえるのです。個人的な関係ではなくて、政治的な立場にある二人なんですから。

 「私は本当にバカ者でした。あなたが私の上の地位に着いたということで、小さな意地を張り、あなたをバカにしようと、つまらないことを考えてしまいました。

 私は世の中が見えていない、大バカ者でした。どうか、私のバカさ加減を笑っていただいて、どうか、このみっともない私を見ていただき、お許し願いたいのです。

 本当に申し訳ありませんでした。お許しください。」

 それからの二人は、ともにお互いにいつ首を切られてもかまわない、お互いのためにお互いの命を投げ出してもかまわないという、心からのつながりを作りました。

 この二人の関係を「刎頸の交わり」と言うことになったそうです。
(「史記、廉頗藺相如列伝」などより)

 しばらく、二人がいる間は安泰だったそうですが、やがて藺相如さんが亡くなり、廉頗さんは楚の国に流れていき、趙という国はやがて消滅します。

 国って、武器ではなくて、人で守り、維持していくしかありません。こんな単純なこともわからないで、米国もイランも、イスラエルも、北朝鮮も、みんな核兵器を持ちたがっている。交渉に使う分にはいいけど、それで戦争は絶対にしてはならない。

 だったら、人間がそれを避けるために奔走するしかないのです。トランプさんのところに奔走できる人はいるんだろうか。ただ追い詰めるだけしかできないのでは、トランプさんも終わりだなあ。

★ 82・ふんけい


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