[11:00.JR仙台駅 敷島孝夫&エミリー]
「“はやて”だって?よく直前で予約できたな。いくら閑散期だからって……」
「イエス。敷島さん」
エミリーの愛の力は凄い。というか、ただの偶然だろう。敷島達は東京駅までの新幹線特急券と乗車券が1枚になったキップを手に、新幹線改札口へ向かった。
「11時26分発じゃ、昼過ぎに東京着だ。全く。マイペースな爺さんのせいで、東京くんだりだよ」
敷島がぶつくさ文句を言っていると、エミリーがビニール袋に入った駅弁を買ってきた。
「昼食です」
「ああ。弁当かよ。寂しいなー」
それでもこういう所を見ると、昔、初音ミクと行動していた頃を思い出す。ミクもこういう時には、よく弁当を買いに行ってくれた。
「あっ、おにい……敷島さん!」
「ん?」
仙台駅2階から3階へのエスカレータを昇ろうとすると、若い女性の声がした。聞き覚えのある声だ。
「おっ、由紀奈ちゃんか。久しぶりだなー」
エミリーはメモリーを検索した。20歳前後の黒いロングが特徴の女性。名前が由紀奈……。
(池波由紀奈。初見201×年10月○×日。当時14歳。仙台市泉区中吉台団地……)
エミリーが自身のメモリーから掘り起こしたものは、紺色のブレザーの制服を着たショートの少女だった。
(鏡音レンにより、衝動的自殺を阻止する。その後、鏡音リンと友好関係を築く)
「これからどこ行くの?」
「急に東京出張が決まってさー。しかも、行ってすぐ帰ってくるムチャぶりプランだよ」
「へー。エミリーさんも気をつけて」
「サンキュー。ミズ池波」
受け答えしている間でも、エミリーのデータのダウンロードは続く。
(その後、敷島さんとも交遊あり……)
由紀奈が親しく敷島と接しているのは、そこに理由があるようだ。
「敷島さん。急がないと・列車の・到着する・時間です」
エミリーが促した。
「おっ、そうか。それじゃまた」
「気をつけてね」
[11:30.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]
「いやー、びっくりしたなー。まさかあそこで、由紀奈と会うなんて」
「イエス」
「もっとびっくりしたのは、“はやて”、直前の予約で2人席が確保できたことだ。どういう功徳だ?」
「イエス」
「……キールのことで頭がいっぱいか、お前は」
「の、ノー……」
敷島は紐を引っ張ると温まる牛タン弁当に箸をつけていた。
「それにしても、平和になったなぁ……。ウィリーがいなくなって、シンディもいなくなった。ベタな法則だとそれに変わる悪役が出てきそうなものだけど、そういうこともないし」
「イエス」
「悪は栄えず。必ず最後に正義は勝つ、だな」
「イエス」
列車が東京駅に着くまでの間、敷島とエミリーの関係について軽く説明しよう。
南里志郎亡き後、遺言に従って遺産を相続した弟子の平賀太一。当然、南里の私有物であるエミリーも相続することになった。しかし、あまり広くない家で、平賀には既にメイドロボットの七海がいる。そしてそれから2年後、平賀はめでたく赤月と結婚した。既に長男がいて、今年中には長女も産まれる予定とのことである。
エミリーをベビーシッター代わりにする案もあったが、実際問題それ以前に、整備に手が回らなくなる(更にその前に、維持費も掛かる)ことが判明した。そこで、オーナーはあくまで平賀とした上で、財団にエミリーを管理してもらうことにした。しかし事務所内にも置き場所が無い為、敷島が管理者という名目で預かっているわけである。無論、維持費は全て財団持ちで。
幸い学会(創価ではない)からも注目されているエミリーは“お荷物”になることもなく、ここ最近は科学技術省や防衛省からも目を向けられている。
従って今は、敷島と生活を共にしている状態である。
[13:05.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]
〔♪(あのチャイム)♪。「まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番ホームから19番ホーム。……」〕
「やけに展開が早いな」
「作者の・都合と・思われます」
そうそう。って、コラ!……あ、いや、失礼。列車は定刻通りに、都内の都心部を走行していた。出迎えるかのように、車窓には山手線や京浜東北線が並走している。
「そういや東京来たの、5年振りだな。向こうで事務職してると、フケッぱなしだもんなー」
「イエス」
「ボーカロイド・プロデューサーやってた頃は、それこそ回数券使うくらい新幹線乗ってたのになー」
「イエス」
「東京も5年経てば、相当変わってるだろーなー。もはや右や左も分からないくらい……」
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。到着ホーム20番線、お出口は同じく左側です。……」〕
「……取りあえず、右か左かは分かったわ」
「イエス」
列車は東京駅新幹線ホームに滑り込んだ。
「“はやて”だって?よく直前で予約できたな。いくら閑散期だからって……」
「イエス。敷島さん」
エミリーの愛の力は凄い。というか、ただの偶然だろう。敷島達は東京駅までの新幹線特急券と乗車券が1枚になったキップを手に、新幹線改札口へ向かった。
「11時26分発じゃ、昼過ぎに東京着だ。全く。マイペースな爺さんのせいで、東京くんだりだよ」
敷島がぶつくさ文句を言っていると、エミリーがビニール袋に入った駅弁を買ってきた。
「昼食です」
「ああ。弁当かよ。寂しいなー」
それでもこういう所を見ると、昔、初音ミクと行動していた頃を思い出す。ミクもこういう時には、よく弁当を買いに行ってくれた。
「あっ、おにい……敷島さん!」
「ん?」
仙台駅2階から3階へのエスカレータを昇ろうとすると、若い女性の声がした。聞き覚えのある声だ。
「おっ、由紀奈ちゃんか。久しぶりだなー」
エミリーはメモリーを検索した。20歳前後の黒いロングが特徴の女性。名前が由紀奈……。
(池波由紀奈。初見201×年10月○×日。当時14歳。仙台市泉区中吉台団地……)
エミリーが自身のメモリーから掘り起こしたものは、紺色のブレザーの制服を着たショートの少女だった。
(鏡音レンにより、衝動的自殺を阻止する。その後、鏡音リンと友好関係を築く)
「これからどこ行くの?」
「急に東京出張が決まってさー。しかも、行ってすぐ帰ってくるムチャぶりプランだよ」
「へー。エミリーさんも気をつけて」
「サンキュー。ミズ池波」
受け答えしている間でも、エミリーのデータのダウンロードは続く。
(その後、敷島さんとも交遊あり……)
由紀奈が親しく敷島と接しているのは、そこに理由があるようだ。
「敷島さん。急がないと・列車の・到着する・時間です」
エミリーが促した。
「おっ、そうか。それじゃまた」
「気をつけてね」
[11:30.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]
「いやー、びっくりしたなー。まさかあそこで、由紀奈と会うなんて」
「イエス」
「もっとびっくりしたのは、“はやて”、直前の予約で2人席が確保できたことだ。どういう功徳だ?」
「イエス」
「……キールのことで頭がいっぱいか、お前は」
「の、ノー……」
敷島は紐を引っ張ると温まる牛タン弁当に箸をつけていた。
「それにしても、平和になったなぁ……。ウィリーがいなくなって、シンディもいなくなった。ベタな法則だとそれに変わる悪役が出てきそうなものだけど、そういうこともないし」
「イエス」
「悪は栄えず。必ず最後に正義は勝つ、だな」
「イエス」
列車が東京駅に着くまでの間、敷島とエミリーの関係について軽く説明しよう。
南里志郎亡き後、遺言に従って遺産を相続した弟子の平賀太一。当然、南里の私有物であるエミリーも相続することになった。しかし、あまり広くない家で、平賀には既にメイドロボットの七海がいる。そしてそれから2年後、平賀はめでたく赤月と結婚した。既に長男がいて、今年中には長女も産まれる予定とのことである。
エミリーをベビーシッター代わりにする案もあったが、実際問題それ以前に、整備に手が回らなくなる(更にその前に、維持費も掛かる)ことが判明した。そこで、オーナーはあくまで平賀とした上で、財団にエミリーを管理してもらうことにした。しかし事務所内にも置き場所が無い為、敷島が管理者という名目で預かっているわけである。無論、維持費は全て財団持ちで。
幸い学会(創価ではない)からも注目されているエミリーは“お荷物”になることもなく、ここ最近は科学技術省や防衛省からも目を向けられている。
従って今は、敷島と生活を共にしている状態である。
[13:05.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]
〔♪(あのチャイム)♪。「まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番ホームから19番ホーム。……」〕
「やけに展開が早いな」
「作者の・都合と・思われます」
そうそう。って、コラ!……あ、いや、失礼。列車は定刻通りに、都内の都心部を走行していた。出迎えるかのように、車窓には山手線や京浜東北線が並走している。
「そういや東京来たの、5年振りだな。向こうで事務職してると、フケッぱなしだもんなー」
「イエス」
「ボーカロイド・プロデューサーやってた頃は、それこそ回数券使うくらい新幹線乗ってたのになー」
「イエス」
「東京も5年経てば、相当変わってるだろーなー。もはや右や左も分からないくらい……」
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。到着ホーム20番線、お出口は同じく左側です。……」〕
「……取りあえず、右か左かは分かったわ」
「イエス」
列車は東京駅新幹線ホームに滑り込んだ。