報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

原案紹介 12

2013-10-15 22:25:49 | 日記
[15:00.長野県内の都市にあるホテル 威吹邪甲]

 どうも、妖狐の威吹邪甲です。えー、何か大変なことになっちゃって……。あれから、3日が経ちました。順を追って説明しますと、ユタは宣言通り、死生樹の葉を煎じたものを飲みました。するとユタは激しい頭痛を訴えて、倒れ込んだんです。この魔女達にハメられたと思いました。ですが、マリアンナなる者は無表情で、その師匠のイリーナなる者は悠然とした表情で……まあ、想定内といった感じだったんですね。本当に、腹の立つ女達でした。肝心なことは説明しない。全く、困った連中です。
 ユタが意識を無くしたら、ようやく説明してくれましたよ。その後で、同じ信州にある大きな町のホテルに移動して、ユタはそこで休ませることにしました。
 イリーナが瞬間移動の魔術を使いまして、どうもこのホテルも奴の息が掛かっているようでして……。んでもって、
「この町なら電車1本で、東京方面に帰れるでしょう?」
 ということですが、意味が分かりません。
 しかもユタは昏睡していて、全く目を覚まさないのです。ボク的には病院に運んだ方が良かったんじゃないかって思いましたけどね。
 あー、もうっ!結局ボクは振り回されただけかよ!これがユタの為で、ユタにだけされたのならまだ我慢できます。だけど、得体の知れぬ魔女達に、ああもしてやられるとは……。
「うう……」
「!」
 その時、ユタが目を開けました。緊張の瞬間です。
「ユタ。どう?体の具合は?」
「威吹……。ここどこ?」
「ここは信濃の国……長野県○○市のホテルだよ。『卒業旅行に、乗り鉄で長野へ行こう』ってことで、ここまで来たはいいものの、ユタったら体の具合悪くして休んでたんだよ。もう、すっごい高熱でさ。大変だったよ」
 ボクはそう嘘を言いました。癪なことですが、イリーナ達からそういうことにしておけって言われたもので。
 ……そうなんです。つまり、ユタが魔女に会いに信州に来たという旅の目的すら『なかったこと』にしてしまおうという魂胆なんです。目的自体を、ユタの趣味である“乗り鉄”にすげ替えようというのですね。その途中で体調不良を起こして、まあ休んでいたと…半分無理のある理由です。
「そうかぁ……。ゴメンね。迷惑掛けて。もう大丈夫だよ」
 しかし、ユタはまるで偽の記憶が吹き込まれているかのように納得しました。いや、実際もしかしたら、本当にあの魔女はユタに偽の記憶を吹き込んだのかもしれません。
「まあ、ホテルは明日まで泊まるようにしてあるから。今日はゆっくり休もう」
「うん」
 もうお気づきでしょう。あの死生樹の葉の効果、『悲しみを無くす』というのは、そもそも悲しむこととなった原因である“大切な人”の存在の記憶を根底から消すというものだったんです。その通り、ユタはすっかり忘れ、偽の旅の目的とその経緯を信じ込んでいるようでした。
 人を騙すことすら厭わない妖狐であるボクが、何故かこの時はやるせない気持ちになったのを覚えています。ボクが立てた作戦ではないからでしょうか。それとも……。
「とんだ道草をしちゃったな。ここが○○市なら、次の路線は……」
「ユタ。帰らないの?○○駅からなら、電車1本で東京方面に帰れるよ?」
 ユタはケータイの日付を見ました。
「いや、まだ春休みはある。もう少し、遊んで行こう。体の具合は良くなったし。お金もまだある」
「…………」
「そうだな……。△△線で××駅まで行こう」
「えっ!?」
 ボクは驚きました。その路線で行く目的地は、あの魔女の屋敷がある森の最寄り駅だったのです。
「この路線も、首都圏じゃ乗れない車両が走ってるからね。このまま長野県を脱出してもいいんだけど……」
「そうしないの?」
「言ったろ?まだ時間があるって。鈍行乗り継ぎの“乗り鉄”なんだから、ゆっくり行こうよ」
「う、うん……」
 ボクは何故か嫌な予感がしました。しかし、彼の計画を差し止める権限も理由も無かったのです。
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原案紹介 11

2013-10-15 00:16:39 | 日記
 ユタはある夢を見て目が覚めた。それは、断片的な絵が現われては消える変な夢だったが、とにかくその主人公はマリアだった。キリスト教会で行われている葬式と思しき映像、墓の前で泣き崩れるマリア、その後で飛び降り自殺を図るも、地面に叩きつけられる直前に光に包まれ、一命を取り留めた映像。その後ろには、イリーナがいて……。
「……変な夢」
 そこで目が覚めた。ユタの異能の1つである。

 同じ頃、同じ屋敷の別の部屋では……。
「どうしたの?怖い顔して。マリア、低血圧だったっけ?」
 不機嫌そうな顔をして起き上がるマリアに、同室で寝ていたイリーナが話し掛けた。
「……あの男に、過去を覗かれた……!」
「あの男って?」
「私の師匠なら知ってるくせに」
「稲生君ね。魔道師の素質があっていいわね」
「男が魔道師なんて……」
「いやいや、おかしくないでしょ。だったら、“ハリー・ポッター”の立場、無いじゃんよ?」
「魔道師のくせに見てたのか……」
「映画も全部見たし、原作小説も全部揃えたわよ。新しい魔術のアイディア出しにいいね」
「さすがは師匠」
「ま、魔法学校みたいなものはちょっと無理だけど……」
「まだ起床時間まで先なので、もう1度寝る」
「はい、お休みー」
(師匠ぐらいの大魔道師になれば、睡眠だって強い魔術を使った時くらいしか必要無くなるだろうに……)

 翌朝……。
「おはよう!よく眠れた?」
 ユタと威吹が屋敷の食堂に向かうと、もう既にマリアとイリーナが席に着いていた。
「おはようございます。……イリーナさん、元気ですね」
 ユタは苦笑にも似た笑みを浮かべた。
「そう?いつもこんなもんよ」
「師匠は馬鹿に元気で、弟子は鬱か。面白いな」
 威吹は嫌味を言った。それほどまでに、マリアはユタ達の方も見ずにトーストを齧っていた。
「何かね、低血圧気味なのよ。気にしないで」
「そうですか。そうですよね」
「それで、どう?葉っぱを飲む気になった?」
「その前に1つ質問させてください」
「なに?」
「その死生樹の葉、マリアさんは飲んだ事あるんですか?」
「!」
 マリアはこめかみに努筋を浮かべた。
「そんなこと聞いて、どうするの?」
「夢を見たんです。マリアさんのことで」
「人の過去の記憶を勝手に……!」
 イリーナはそんな弟子の怒りを抑えた。
「あなた、何と言うか……魔力が付き過ぎてるわ。魔道師の修行なんてしてないわよね?威吹君の影響にしても、不自然だし……」
「ユタは生まれつき、霊力が強かったんだ。オレもそのおかげで、封印を解いてもらえたんだからな」
「修行と言えば、顕正会で仏法はやってましたよ」
「ああ、そのせいだ」
 イリーナは確信を持って言った。
「ヘタに変な修行をすると、魔力が贅肉のように付いちゃうからね。気を付けないとあなた、魔力が暴走して大変なことになるわよ?」
「ええっ!?で、でも、もう顕正会は辞めました」
「あ、そう?まあ、それならいいんだけど……」
「宗教をやると、霊力だか魔力だかが付くんですか?」
「一概に全部がそうとは言えないけどね。でも、ちゃんとした聖職者もいない新興宗教だと、変な力が付く傾向にあるみたいね」
「そうだったのか……」
「で、さっきのあなたの質問。マリアは飲んでないわよ」
「えっ?」
「確かにあなたが見た夢の通り、マリアもまた大切な人を失って悲しみに打ちひしがれたわ。だけど、大きな違いがあるの」
「大きな違い?」
「あなたは普通の人間で、マリアは魔道師だってこと」
「えっ?ちょっと仰ってる意味がよく分からないんですけど……」
「つまり、マリアが魔道師になる為には、逆に飲んじゃいけなかったのね」
「はあ……」
「あなたは魔道師になる気はある?」
「いえ。ちょっとそれは……」
「でしょ。じゃあ、飲んでも大丈夫」
「ユタ。無理しなくてもいいんだよ?」
 威吹が心配そうに言った。
「まず間違いなく、命の保証はするから。それと、普段の日常生活も大丈夫」
 イリーナは大きく頷いた。威吹はイリーナの言葉の真意を読み取ろうとした。が、できなかった。言葉の感じからして、嘘を言っているようには見えなかったが……。
「……飲みます。この為に、ここまで来たんです。飲ませてください」
 ユタは意を決したように答えた。
「あなた達、紅茶を入れてくれない?死生樹の葉っぱも、そこに混ぜてね」
 イリーナは給仕をしている人形達に命じた。
「紅茶?」
 ユタは目を見開いた。
「そのままで飲むより、紅茶に混ぜて飲んだ方が飲みやすいよ?」
「そういうもんですか」
 
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