[15:00.長野県内の都市にあるホテル 威吹邪甲]
どうも、妖狐の威吹邪甲です。えー、何か大変なことになっちゃって……。あれから、3日が経ちました。順を追って説明しますと、ユタは宣言通り、死生樹の葉を煎じたものを飲みました。するとユタは激しい頭痛を訴えて、倒れ込んだんです。この魔女達にハメられたと思いました。ですが、マリアンナなる者は無表情で、その師匠のイリーナなる者は悠然とした表情で……まあ、想定内といった感じだったんですね。本当に、腹の立つ女達でした。肝心なことは説明しない。全く、困った連中です。
ユタが意識を無くしたら、ようやく説明してくれましたよ。その後で、同じ信州にある大きな町のホテルに移動して、ユタはそこで休ませることにしました。
イリーナが瞬間移動の魔術を使いまして、どうもこのホテルも奴の息が掛かっているようでして……。んでもって、
「この町なら電車1本で、東京方面に帰れるでしょう?」
ということですが、意味が分かりません。
しかもユタは昏睡していて、全く目を覚まさないのです。ボク的には病院に運んだ方が良かったんじゃないかって思いましたけどね。
あー、もうっ!結局ボクは振り回されただけかよ!これがユタの為で、ユタにだけされたのならまだ我慢できます。だけど、得体の知れぬ魔女達に、ああもしてやられるとは……。
「うう……」
「!」
その時、ユタが目を開けました。緊張の瞬間です。
「ユタ。どう?体の具合は?」
「威吹……。ここどこ?」
「ここは信濃の国……長野県○○市のホテルだよ。『卒業旅行に、乗り鉄で長野へ行こう』ってことで、ここまで来たはいいものの、ユタったら体の具合悪くして休んでたんだよ。もう、すっごい高熱でさ。大変だったよ」
ボクはそう嘘を言いました。癪なことですが、イリーナ達からそういうことにしておけって言われたもので。
……そうなんです。つまり、ユタが魔女に会いに信州に来たという旅の目的すら『なかったこと』にしてしまおうという魂胆なんです。目的自体を、ユタの趣味である“乗り鉄”にすげ替えようというのですね。その途中で体調不良を起こして、まあ休んでいたと…半分無理のある理由です。
「そうかぁ……。ゴメンね。迷惑掛けて。もう大丈夫だよ」
しかし、ユタはまるで偽の記憶が吹き込まれているかのように納得しました。いや、実際もしかしたら、本当にあの魔女はユタに偽の記憶を吹き込んだのかもしれません。
「まあ、ホテルは明日まで泊まるようにしてあるから。今日はゆっくり休もう」
「うん」
もうお気づきでしょう。あの死生樹の葉の効果、『悲しみを無くす』というのは、そもそも悲しむこととなった原因である“大切な人”の存在の記憶を根底から消すというものだったんです。その通り、ユタはすっかり忘れ、偽の旅の目的とその経緯を信じ込んでいるようでした。
人を騙すことすら厭わない妖狐であるボクが、何故かこの時はやるせない気持ちになったのを覚えています。ボクが立てた作戦ではないからでしょうか。それとも……。
「とんだ道草をしちゃったな。ここが○○市なら、次の路線は……」
「ユタ。帰らないの?○○駅からなら、電車1本で東京方面に帰れるよ?」
ユタはケータイの日付を見ました。
「いや、まだ春休みはある。もう少し、遊んで行こう。体の具合は良くなったし。お金もまだある」
「…………」
「そうだな……。△△線で××駅まで行こう」
「えっ!?」
ボクは驚きました。その路線で行く目的地は、あの魔女の屋敷がある森の最寄り駅だったのです。
「この路線も、首都圏じゃ乗れない車両が走ってるからね。このまま長野県を脱出してもいいんだけど……」
「そうしないの?」
「言ったろ?まだ時間があるって。鈍行乗り継ぎの“乗り鉄”なんだから、ゆっくり行こうよ」
「う、うん……」
ボクは何故か嫌な予感がしました。しかし、彼の計画を差し止める権限も理由も無かったのです。
どうも、妖狐の威吹邪甲です。えー、何か大変なことになっちゃって……。あれから、3日が経ちました。順を追って説明しますと、ユタは宣言通り、死生樹の葉を煎じたものを飲みました。するとユタは激しい頭痛を訴えて、倒れ込んだんです。この魔女達にハメられたと思いました。ですが、マリアンナなる者は無表情で、その師匠のイリーナなる者は悠然とした表情で……まあ、想定内といった感じだったんですね。本当に、腹の立つ女達でした。肝心なことは説明しない。全く、困った連中です。
ユタが意識を無くしたら、ようやく説明してくれましたよ。その後で、同じ信州にある大きな町のホテルに移動して、ユタはそこで休ませることにしました。
イリーナが瞬間移動の魔術を使いまして、どうもこのホテルも奴の息が掛かっているようでして……。んでもって、
「この町なら電車1本で、東京方面に帰れるでしょう?」
ということですが、意味が分かりません。
しかもユタは昏睡していて、全く目を覚まさないのです。ボク的には病院に運んだ方が良かったんじゃないかって思いましたけどね。
あー、もうっ!結局ボクは振り回されただけかよ!これがユタの為で、ユタにだけされたのならまだ我慢できます。だけど、得体の知れぬ魔女達に、ああもしてやられるとは……。
「うう……」
「!」
その時、ユタが目を開けました。緊張の瞬間です。
「ユタ。どう?体の具合は?」
「威吹……。ここどこ?」
「ここは信濃の国……長野県○○市のホテルだよ。『卒業旅行に、乗り鉄で長野へ行こう』ってことで、ここまで来たはいいものの、ユタったら体の具合悪くして休んでたんだよ。もう、すっごい高熱でさ。大変だったよ」
ボクはそう嘘を言いました。癪なことですが、イリーナ達からそういうことにしておけって言われたもので。
……そうなんです。つまり、ユタが魔女に会いに信州に来たという旅の目的すら『なかったこと』にしてしまおうという魂胆なんです。目的自体を、ユタの趣味である“乗り鉄”にすげ替えようというのですね。その途中で体調不良を起こして、まあ休んでいたと…半分無理のある理由です。
「そうかぁ……。ゴメンね。迷惑掛けて。もう大丈夫だよ」
しかし、ユタはまるで偽の記憶が吹き込まれているかのように納得しました。いや、実際もしかしたら、本当にあの魔女はユタに偽の記憶を吹き込んだのかもしれません。
「まあ、ホテルは明日まで泊まるようにしてあるから。今日はゆっくり休もう」
「うん」
もうお気づきでしょう。あの死生樹の葉の効果、『悲しみを無くす』というのは、そもそも悲しむこととなった原因である“大切な人”の存在の記憶を根底から消すというものだったんです。その通り、ユタはすっかり忘れ、偽の旅の目的とその経緯を信じ込んでいるようでした。
人を騙すことすら厭わない妖狐であるボクが、何故かこの時はやるせない気持ちになったのを覚えています。ボクが立てた作戦ではないからでしょうか。それとも……。
「とんだ道草をしちゃったな。ここが○○市なら、次の路線は……」
「ユタ。帰らないの?○○駅からなら、電車1本で東京方面に帰れるよ?」
ユタはケータイの日付を見ました。
「いや、まだ春休みはある。もう少し、遊んで行こう。体の具合は良くなったし。お金もまだある」
「…………」
「そうだな……。△△線で××駅まで行こう」
「えっ!?」
ボクは驚きました。その路線で行く目的地は、あの魔女の屋敷がある森の最寄り駅だったのです。
「この路線も、首都圏じゃ乗れない車両が走ってるからね。このまま長野県を脱出してもいいんだけど……」
「そうしないの?」
「言ったろ?まだ時間があるって。鈍行乗り継ぎの“乗り鉄”なんだから、ゆっくり行こうよ」
「う、うん……」
ボクは何故か嫌な予感がしました。しかし、彼の計画を差し止める権限も理由も無かったのです。