報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「束の間の息抜き」

2015-10-03 19:17:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月11日12:00.天候:晴 東北工科大学・南里志郎記念館 平賀太一、平賀奈津子、3号機のシンディ]

「あら、シンディ?どうしたの?」
「ああ、これはこれは奈津子博士。お久しぶりです」
 平賀奈津子は太一とは別の大学で専任講師をしている。
 これは太一が大学生時代から卒業後も大学院にて南里に師事し続けたのに対し、奈津子は大学卒業後、海外へ留学した為。
 シンディはエントランスに入ってきた奈津子を認識すると、ペコリとお辞儀した。
「何か社長が、『エミリーを気晴らしに外に連れてやる』ということで。私が代わりにここで留守番をすることになりました」
「そうなの。あの人のことだから、嫌がってなかった?」
「地下研究室に籠もって、ドアロックを何重にも掛けております」
「今のシンディは、もう暴れたりしないのにねぇ……」
 奈津子は眼鏡を押し上げて言った。
「私ではロックが解除できませんが……」
「いいよ。私なら解除できるから。何かあったら呼ぶから、ここで待ってて」
「かしこまりました」
 奈津子はそう言って、地下研究室へ向かう階段を下りて行った。
 シンディは奈津子を見送ると、また暇そうに受付の椅子に座り込んだのだった。
(姉さんみたいにピアノでも弾けたらなぁ……)
 エントランスの片隅にあるグランドピアノをチラッと見てシンディは溜め息をついた。
(しゃあねぇ。セキュリティ・ロボットでもイジってくるか……)

[同日15:00.宮城県仙台市青葉区・スーパーホテル国分町 敷島孝夫、アリス・シキシマ 1号機のエミリー]

「ホテルに荷物を置いて、それからまた大学へ向かおう。そろそろ何か分かるかもしれない」
 ということで、まずはチェック・インする。
「エミリーは後でシンディと交替するから」
「かしこまりました」
「本当はシンディと一緒にいたいだろうけど、シンディの整備もしないといけないし、まだ不安な所があるからね。悪いね」
「いえ……」
 ホテルに入ってチェック・インする。
 因みに敷島とアリスの部屋はダブルである。
「男女入れ替え制だが、大浴場もあるみたいだ。後で入ってみる?」
「いいね!」
 というわけで、今度はタクシーを拾って大学まで向かった。

[同日15:30.同区 東北工科大学・南里志郎記念館 敷島、アリス、平賀太一、平賀奈津子、エミリー、シンディ]

 シンディに跪いて、彼女のブーツを磨くバージョン4.0がいた。
 シンディは足を組んで、ふんぞり返って座っている。
 この記念館は何も、南里の生涯を顕彰するだけの記念館ではない。
 ウィリアム・フォレスト(通称、ドクター・ウィリー)との戦いについても紹介され、その研究の負の遺産として、バージョン・シリーズも展示されている。
 普段はバッテリーが抜かれて動けなくなっているが、シンディは暇なのでバッテリーを装着して相手させていた。
 設定上、マルチタイプの命令を聞くことになっている。
 で、今はシンディのブーツを磨かせているという女王様ぶりだ。
「バージョン1000のこと、何か知ってる?」
「……何モ存ジマセン。データニ有リマセン」
 4.0はロボット喋りで答えた。
「あ゛っ゛?やばっ、姉さんだ!」
 敷島達が入って来る。
「ん?おい、シンディ!お前はまた勝手に展示品を動かして!」
「ちちち、違うのよ。ちょっと掃除でもしてよーかなーなんて……。ほら、そこ!サボってんじゃないよ!!」
 エミリーはジト目でシンディを見た。
「きれいに・なって・いるのは・シンディの・ブーツだけ・のようだ・が?」
「き、気のせいよ、気のせい!」
「いいから、早く戻して来い!」
「はーい!」
「お前達、元の・場所に・戻れ」
「アラホラサッサー!」
「ホラサッサー!」
 エミリーは配下のバージョン・シリーズ達に命令を出した。
「シンディも落ち着きの無いヤツだ」
「それで、じー様は暴れさせていたからねぇ……」
「後片付けはシンディにやらせるとして、エミリー、地下研究室に行くから案内してくれ」
「イエス。敷島・社長」
 地下研究室へのアクセス権限は、エミリーにも持たされている。
 一応、表向きは『館の女主人』という肩書きがあるからだ(人間の管理者は平賀太一で間違いない)。

 地下研究室に行くと、既にエミリーの前のボディは片付けられている。
「どうですか、平賀先生?解析の方は順調ですか?」
「ああ、敷島さん。もう少し、ゆっくりなさっても良かったんですよ?」
「会社とのやり取りで、それどころじゃなかったですねぇ……」
「何か問題でも?」
「いや、おかげさまで、何も問題は無いんですがね。シルバーウィークに行われる『ボカロ・フェス』への調整も順調ですし……」
「それは良かったですね。……まあ、こちらも一応、解析は進めてみました」
「で、どうなんですか!?」
「まあ……何というか……」
「えっ?」
「一応、伝助博士も年齢が年齢なので、パスコードを紛失してしまった時の為に、保険は掛けていたようです。キールのメモリーが正規のパスコードだったんですが、一応、予備のパスコードも用意していたらしく、それでアクセスしてもOKな設定になっています」
「で、その予備のパスコードとやらはどこに?」
「うーん……それが、何だかよく分からないんですよ」
「え?」
 奈津子が続いて答える。
「『3号機の鍵』って多分、シンディの前のボディから出て来た鍵のことじゃないかと思うんです」
「ああ!あれ、どこにやったっけ?」
「ここの記念館で保存していますよ。あれ、鍵のイミテーションかと思っていたんですが、本当にどこかを開ける鍵のようですね」
「なるほど。で、どこかって、どこかが分からないと……?」
「そういうことです。その情報も、警察が持っていった方に入ってるのかなぁ……?」
「シンディの前のボディの中から出て来たってことは、シンディやウィリーに関係する場所だってことでは?」
「例えば?」
「ウィリーの……隠れ家とか?」
「それ、もしかして藤野にあった十条達夫博士のお宅のことですか?」
「う……爆発して無くなっちゃった。あそこには、変なロボットなんていなかったぞ。……人間の動く死体のようなものはあったけど」
「ケンショーレンジャーみたいに、サイボーグの可能性がありますね」
「伝助博士がオリジナルで研究・開発していたのかな?でもその研究資料も、警察が押収しちゃったみたいだし……」
「何だかよく分かりませんねぇ……」
「もう少し詳しく解析してみますよ。すいませんが、打ち上げはまた別の日ってことで」
「あー、そうですね。じゃあ、シルバーウィークの『ボカロ・フェス』が終わった後でというのはどうでしょう?」
「それなら解析も終わってるでしょうから」

[同日17:00.同場所 敷島、アリス、エミリー、シンディ]

 毎日17時になると、エミリーはエントランスの片隅に置かれているグランドピアノを何曲か弾く。
 今日はシンディもいるので、フルートを持ち出し、合奏した。
 エミリーのピアノにはファンもいるらしく、学生達がよく聴きに来る。
 今日はシンディもいるということで、いつもより人数が多い感じがした。
 エミリーの識別信号を戯曲化した『人形裁判』、シンディの識別信号を戯曲化した『千年幻想郷』、アルエットの識別信号を戯曲化した『竹取飛翔』、そしてキールの識別信号を戯曲化した『明日ハレの日、ケの昨日』を演奏中に、エミリーは涙を流した。
 最後に『未知の花、魅知の旅』を演奏して終わると、学生達から拍手が起きた。
 エミリーは涙を拭いて、シンディと一緒にお辞儀をする。

 ホテルに戻るタクシーの中、敷島はシンディに聞いた。
「『千年幻想郷』の後で、少し間があったよな?もしかして、『明日ハレの日、ケの昨日』を演奏するかどうかで迷ったんじゃないのか?」
 シンディは苦笑して、
「そうなの。アタシはむしろレイチェルの『上海紅茶館』をやりたかったんだけど、姉さんがどうしてもって言うからね。また泣いちゃうからやめとけって言ったんだけど……」
「ま、エミリーの好きにさせてやりな。さすがにそろそろキールで、懲りただろう」
「……だと、いいんだけどね」
「タカオ!」
「何だよ?」
「ホテルの近くに、牛タン屋があるってよ!?」
 手持ちのスマホでチェックしていたアリス。
「はあ!?食う気か!?」
「当たり前じゃない!せっかく仙台に来たんだから!」
「あー、もう……」

 新たな脅威の名前は出ているが、今のところは何とか平和が戻ったようである。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“新アンドロイドマスター” 「まだまだ終わらんよ、この物語(by多摩準急)」

2015-10-03 10:17:48 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月11日07:00.宮城県仙台市泉区七北田(ななきた)・某飲食店 敷島孝夫、アリス・シキシマ、1号機のエミリー、3号機のシンディ、平賀太一]

 明るくなってから行動することにした敷島達だったが、結局はもう少し後になってから動き出した。
 平賀の大学までは通常、一般道で行くのだが、警察が嗅ぎ付ける前に先にエミリーの前のボディに仕込まれているというメモリーチップを回収する必要があった。
 東北自動車道の泉インターに向かう途中で、モーニングをやっている店に立ち寄る。
「シンディ達はここで待ってて」
「かしこまりました」
 食事のできない(する必要の無い)鋼鉄姉妹は車内に残し、飲食店に入って行く敷島達。
 注文した後で、
「こんなことしてる場合じゃないってのに……。アリスは……」
 敷島は呆れた様子でアメリカ人妻を見た。
「『腹が減っては戦ができぬ』って言うでしょ?」
「もうキールとの戦いは終わったっての」
「ははは……。まあ、いいんじゃないですか。記念館の鍵は自分が持ってますから」
「しっかし、結果的に記念館は吹っ飛ばさなくて良かったですなぁ」
「当たり前ですよ」
「エミリーの前のボディは、よく調べなかったんですか?」
「追々、部品取りに使用するつもりでいましたからね。耐用年数の過ぎた前のボディから、今のボディに移行する作業の方に集中していたもので……」
 もっとも、まだ交換したばかりで、取り出す部品はまだ無い。
「エミリーも今は元気で動き回れるようになったのですから、記念館に閉じ込めておかないで、外に出してあげたらどうですか?うちのシンディみたいに」
「常設展示は表向きですよ。むしろ使用しなくなった前のボディこそが、本来の南里先生の遺品なわけです。そちらをむしろ常設展示させた方が良いとは思ってるんですよ」
「ふむふむ……」

[同日08:00.東北自動車道・泉インター→仙台宮城インター 上記メンバー]

「仙台市内は特段何でも無さそうなのにねぇ……」
 助手席に座る敷島は、時折見える道路情報板を見て首を傾げた。
 今、仙台市内は晴れているのだが、例えば山形自動車道の県境付近や東北自動車道の栃木県内が未だに通行止めになっていることである。
 国道4号線においても、県北部で通行止めになっている箇所があるとのことだ。
「それだけ凄い豪雨だったってことですよ。茨城県常総市では、大変なことになっているようです」
 平賀は車のラジオのボリュームを少し上げた。
 ちょうどニュースをやっていたからだ。
 そのニュースの中に、昨夜の敷島達の戦いぶりは無かった。
 KR団が警察によって掃討されたことが、既に公式扱いとなっている為だ。
 キールのような、人間ではない残党がいたことは内緒になっている。
 それも壊れたわけだから、あとはもう大丈夫なはずなのだが……。
「その雨で、キールが言ってたとされる“バージョン1000”とやらもブッ壊れててくれるとモア・ベターなんですがね?」
「そうは多摩準急が卸さない……あ、いや。世の中そんなに甘くないわけですよ」
「うーん……」
「とにかく、警察が押収したメモリーには何が書かれているのか、エミリーが持っていたメモリーには何が書いてあるのか、それをまずは解き明かしませんと」
「そうですね」

[同日09:00.東北工科大学・南里志郎記念館 上記メンバー]

 インターを降りてから渋滞に巻き込まれ、結局到着した時間はいつもの通りという皮肉。
 それでも平賀は、こんなこともあろうかと今日は自分の講義を休講にしている。
「相変わらず、ホラーチックな佇まいだ。設計者はジョージ・トレヴァーですか?」
「“バイオハザード”じゃないんだから……。でもまあ、外国人建築家であるのはその通りですよ」
「やっぱりね……」
 鍵を開けて中に入る。
「敷島さんはどこか適当な所で休んでてください。あとは自分とアリスで行います」
「あー、そうか。ロイドの体のことだから、私は……ですね」
「社長、応接室へ行きましょう」
 シンディは敷島を応接室へ案内した。
 古い建物で、廃棄された昔の研究棟だが、今は記念館としてリニューアルしている。
 なのでライフラインは使える。
 シンディがコーヒーを入れている間、敷島は事務所に電話した。
 既に一海は起動し、井辺も出勤している。
「そっち、豪雨は影響は無かった?ああ、こっちは大丈夫。本当は今日中に帰りたいんだけど、ちょっともしかしたら……って所がある。……うん。遅くても明日には帰るよ。……ああ。ミク達によろしく伝えておいてくれ。それじゃ」
 井辺に現況を伝え、電話を切る。

 その後、井辺は敷島の状況をボカロ達に伝えたのだが、豪雨で北関東や東北では大変なことになっていた事が報じられた都内では、敷島の無事ぶりに誰もが当然という顔をしていたという。

[同日10:00.同場所 上記メンバー]

 果たして、エミリーの前のボディの体内(というか“胎内”)に、メモリーチップがあった。
 これもまたキールに抱かれた際に仕込まれたものだそうだ。
「てことはエミリー、早くも“処女喪失”か」
「処女……?」
 敷島のツッコミに、エミリーは首を傾げた。
「それで、どうなんですか、平賀先生?」
「2つのメモリーを合わせまして、1つ分かったことがあります」
「それは何ですか?」
「村中課長が持っていった方も重要で、そちらに恐らく入っているであろう、パスコードを入力しないとダメのようです」
「あらまっ!そう来たか……。でも、てことは、村中課長の方も、こっちのメモリーが無いとワケ分かんない状態ってことですよね?」
「パスコードだけ出ても、それはそれでしょうがないですからねぇ……」
「何とかパスコード無しで解析する方法は無いですか?」
「それをこれからやってみるところです。まあ、今日は自分もここに立て籠もることになりそうですな」
「アリス、お前も手伝って差し上げろよ?」
「No!」
「何がノーだ!」
「解析はアタシの分野じゃないし」
 アリスは肩を竦めた。
「はあ!?何がどう違う?」
「タカオは文系だから分かんないだろうけど〜」
「この野郎……」
「後で、うちのナツを呼びますよ。確かアイツ、今日の講義は午前中だけのはずだ」
「おおっ、奈津子先生ですか」
「敷島さん達は、ゆっくりしていてください。多分、今日1日掛かると思いますから」
「すいませんねぇ……」
「武闘派の敷島さんに対し、自分は頭脳派で行こうと思いますので」
「はははは……。やっぱり今日は強制一泊コースかな……。じゃあ、今のうちに今日の宿泊先と明日の帰りの足を確保して来ます」
「その方がいいですよ」

 敷島とアリスは、市街地に向かうことにした。
 天候は晴。
 高台にある大学構内から見れば、とても水害が市内でもあったとはとても思えない状態だった。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする