報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「改めて研究所を捜索」

2015-10-31 21:45:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月21日16:00.天候:晴 宮城県栗原市郊外・KR団秘密研究所 平賀太一、1号機のエミリー、鷲田警視、村中課長]

 数々の罠を回避し、仕掛けを解いて、研究施設へ到着した平賀達。
「ここですか」
「よし。ここまでの道が確保できたのなら、部下達を呼べるな」
 鷲田はケータイを取り出した。
 地下でもちゃんと電波が入るようになっている。
「……ああ、そういうことだ。すぐに捜索を開始してくれ」
「あまり触んないでくださいよ、平賀教授?」
 村中の注意に、
「分かってますよ」
 しれっと答える平賀。
「エミリー嬢なら、指紋もDNAも付かないから大丈夫だとお思いですか?」
「それではダメですか?」
「『現場保存』とは何か?をご存知ですかな?」
「知ってますよ。できれば、私にも研究資料として分け前を頂きたいところなんですけどね」
「それは捜査報償費でお支払いしますよ。教授の研究費の足しにでもしてください」
「研究費は大学から出ているものと、メイドロイドの製作に関わる内容を企業とライセンス契約してるので十分なんですけどねぇ……」
 因みにそれは、デイライト・コーポレーションではない。
「ドクター平賀」
「何だ?」
 エミリーが平賀の服の袖を軽く引っ張って、隣の部屋を指さした。
「隣の部屋に何かあるのか?」
「平賀教授、あまり勝手に歩き回るのは……」
 村中が注意をしようとしたところ、
「まあ、部下達がやってくるまでの間だけ大目に見るとしよう。平賀教授の協力無くして、ここまでは来れなかったのだからな」
 鷲田警視が寛容的なことを言った。
「はあ……」
 上長に言われて、村中は黙るしか無かった。
 平賀はエミリーに連れられて、隣の部屋に行った。
 ここはどうやら映像資料室らしい。
 机の上に1枚の写真が置かれていたのだが、その写真に写っていたのは1人の女性研究員と……。
「これ、井辺プロデューサーと一緒に研究所から出て来た妖精型ロイドじゃないか!?」
 シーが写っていた。
 女性研究員の左肩にちょこんと座り、カメラに向かって笑顔を見せている。
「この研究員は誰だ?」
 平賀には見覚えは無かった。
 学会に出入りしている人間なら、見覚えはあるはずなのだが……。
「……よく分からん」
 平賀はなるべく指紋をつけないように手袋をしていた。
 他に棚や机を探してみると、他にも似たような画像を見つけることができた。
 そして、名前を見つけた。
「吉塚広美……聞いたことないな。まあ、KR団の人間だとするなら、表舞台には出てこないか……。といっても白黒写真だから、結構昔の人か?吉塚……どこかで聞いたこと……あるかも……」
 平賀が記憶の糸を手繰り寄せている間、さすがそこはロイドだ。
 エミリーの方が、自身のメモリーを検索してヒットしたものを更に精査して平賀に投げかけた。
「ドクター南里の・お葬式の・参列者に・『吉塚』と・いう名前の・方が・数名・おみえに・なって・おりました」
「南里先生のお知り合いなのか?それにしては、自分は聞いたことないなぁ……」
 身寄りの無い南里の葬儀、喪主を務めたのは南里に師事し、傾倒していた平賀自身であった。
 あの時は参列者のことにまで、とても気が回る状態ではなかった。
 そんな折、参列者の相手をしていたのは敷島であった。
「敷島さんなら覚えてるかなぁ……?」

[同日同時間帯 宮城県宮城郡利府町・セキスイハイムスーパーアリーナ 敷島孝夫、井辺翔太、3号機のシンディ]

「最後までライブを見たかったのに、残念です」
 会場内がライブ最終日で盛り上がりを始める中、タクシーに乗り込む井辺の姿があった。
「日が暮れる前に、病院に戻るんだ。MEGAbyteのことは俺に任せてくれ。今急げば仙台直通の電車に乗れる」
「分かりました。では、彼女達をよろしくお願いします」
「後でライブの映像は見せてあげるよ」
「それは助かります」
 井辺はタクシーに乗って、利府駅に向かった。
 と、そこへ今度は平賀から着信がある。
「はい、もしもし?」
{「あ、敷島さん、ちょっと電話よろしいですか?」}
「はい、何でしょう?」
{「昔の話で申し訳無いんですが、南里先生のお葬式のことは覚えてますか?」}
「ええ、まあ……。前期型のシンディが焼香に来て、びっくりしましたがね?」
 敷島は背後に控えるシンディの方を見ながら言った。
 そんなシンディ、当時の記憶(メモリー)があるのか、その時のことを思い出して薄笑いを浮かべた。
 シンディは喪服を着て参列した。
 後にも先にも、シンディのその姿を見たことはない。
 当時まだドクター・ウィリーの手先だったシンディに対し、エミリーが右手をマシンガンに換装して、一触即発の状態だった。
 もし南里の死の原因がウィリーにあれば、間違い無くエミリーは、シンディに“仇討ち”を挑んでいたことだろう。
 そんな姉機の警戒にも、シンディは悠然と焼香をして香典を置いていった。
 受け取れぬと断った平賀と押し問答になったことも覚えている。
「……『御霊前』の袋を開けたら、熨斗袋に『祝!成仏』と書かれていて、平賀先生とエミリー、烈火の如くお怒りになったでしょう」
{「ああ、そんなことありましたね」}
 エミリーは体をガクガクと震わせるほどであり、強制シャットダウンが自動で掛かるほどであった。
「……姉さん、まだ怒ってるかなぁ……」
 シンディは風に靡き、自分の顔に掛かる前髪をかきわけながら呟いた。
{「今回はそのことではなくて、敷島さんの記憶の中に、『吉塚』という名字の参列者がいないかってことなんです」}
「吉塚?……うーん……」
 敷島は記憶の糸を手繰り寄せていた。
「……70代のお婆さんとその娘さん、お孫さんの3人よ」
 と、シンディ。
「何で知ってるんだ?」
「……帰り際、参列者名簿、勝手にメモリーに入れたって言ったら怒る?」
「くぉらぁっ!!」
{「し、敷島さん?」}
「何か、シンディがあの時、勝手に自分のメモリーにコピーしたって言ってます」
{「ほお……」}
「やっぱ、姉さん、怒ってるかな?」
{「シンディ。後で・話は・詳しく・聞かせて・もらう」}
「……はーい……」
 電話の向こうでエミリーが両目をハイビームに光らせ、しかし顔は無表情を読み取ったシンディだった。
 かつてマルチタイプが7機フルで稼働していた時も、下の兄妹がヘマした時などは、長姉として厳しくしていたものだ。
 それを思い出した。
 よくエミリーにビンタされていた弟もいたし、レイチェルは説教食らっていた。
 シンディはのらりくらりと交わしていたが。
 さすがに、稼働している実妹がシンディだけとなっては、もはや風除けは存在しない。
「お姉ちゃん、わたしも一緒にエミリーお姉ちゃんに謝るよ」
 そこへ、従妹機のアルエットがやってきた。
「いや……いいよ。アタシの責任だし。多分、2〜3発はビンタされると思うから」
「ええーっ!?」
コメント (4)
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