[3号車]
愛原:「俺はなるべく濡れていない所を選んで、慎重に進んだ方がいいと思うんだ。さっきの高橋君の行動からして、そう思った」
高橋:「まあ……先生がどうしてもと仰るのでしたら従います」
山根:「ぼ、僕は引き返した方が……」
高橋:「あー?だったら、自分だけ戻れ。俺は先生に付いて行く」
愛原:「まあまあ。俺が先に行く。言い出しっぺは俺だからな。キミ達は後からついて来てくれ」
高橋:「了解しました」
山根:「は、はい……」
私は早速、3号車に足を踏み入れた。
なるべく乾いている所に足を付ける。
もちろん床だけを進もうとすれば無理がある。
床全体が濡れている箇所もいくつかあるからだ。
そういう時は行儀が悪いが、座席の上に乗ってそこを進むことになる。
幸い電車は少し低速になったことで揺れも小さくなった。
線形も良いらしく、それ故の大きな揺れなどは無い。
だが、油断はできない。
今どこを走っているか分からない以上、突然のポイント通過や急停車などで体が持って行かれる可能性がある。
吊り革や手すりに捉まりながら行けばいいと思うが、濡れているのは床だけではない。
さっきの化け物が通過したことで、吊り革や手すりも濡れているのだ。
愛原:「いいか?無理するなよ。慎重に、ゆっくりでいい」
高橋:「はい!」
山根:「は、はい……」
そうして車両の真ん中辺りまで来たが、化け物の現れる気配は無い。
愛原:「よし。ここまで来れたな。次に行くぞ」
高橋:「本当に、大丈夫っスか?」
愛原:「心配すんな。幸太郎君、ゆっくりでいいからね」
山根:「はい」
高橋:「モタモタしていたら置いて行くぞ」
愛原:「だから、そういうことを言うなって」
私は高橋に苦言を呈すと、すぐに進行方向に向き直り、後半戦へと進んだ。
元々化け物は4号車寄りに潜んでいたこともあってか、4号車に近づくほど濡れていた。
愛原:「ああっ、くそっ!」
私が悔しがったのは、正にヤツが潜んでいた場所。
一番4号車寄りのドアの前、左右のドアの間くらいの広くなっている場所には一面に水たまりが広がり、これでは濡れずに進むことが困難だった。
愛原:「どうしよう、これ?」
高橋:「ロープでも使いますか」
高橋は自分の荷物の中からロープを取り出した。
愛原:「お前、そんなもんどうしたんだよ?」
高橋:「先生が、『今度の仕事先は仙台市内の山の中だ』と仰るんで、一応持って来たんですよ」
愛原:「それでお前、屋敷の裏手の崖下に下りたのか!?犯人が捨てた証拠品拾いに!?」
高橋:「そうですよ。言いませんでしたか?」
愛原:「い、いや……そうか。まあ、よくやった。よし。このロープを反対側に引っ掛けて……」
私の作戦はこうだ。
幸い、連結器の前の3人席は濡れていない。
要はそこに着地すれば良い。
7人掛けの席に私は立ち、そこからロープを3人掛け席の上の手すりに投げた。
そのロープの先にはフックが付いている。
フックは見事に吊り革を吊っている手すりに引っ掛かった。
後はそれを伸ばして、頭上の網棚の前の手すりと結び合わせる。
ピンとロープを張った。
愛原:「これにぶら下がって、斜め向かいの3人席に着地する」
高橋:「さすがです」
私はロープにぶら下がり、足が地面に付かないように進んだ。
まるでアスレチックだな。
こんなことなら、もう少し運動をするべきだったよ。
それでも何とか、私は数メートル先の3人席に着地することができた。
高橋:「さすがです、先生。よし、俺も……」
高橋の場合、運動能力については申し分無いのだが、いかんせん私よりも背が高い。
ただ単にぶら下がっているだけでは、地面に足が付いてしまう。
ぶら下がりながら、足を付けずに進むという結構高度な技を披露しなくてはならなかったのだが、彼は見事にやり遂げた。
高橋:「チョー楽勝です。フフッ……」
愛原:「おお〜!」
とは言いつつも、高橋の額には汗が浮かんでいたから、けして余裕というわけではないようだ。
愛原:「幸太郎君、ゆっくりでいいからね!」
山根:「は、はい!」
そういえば今、学校の遊具に雲梯なんてあるのだろうか。
要はあれの要領だよなぁ……。
山根:「や、やった!」
幸太郎君もまた見事に3人席へと着地した。
愛原:「皆、よくやった。どうやら、やっぱり水に触れなきゃ大丈夫みたいだな」
私は水に触れないように床に足を伸ばした。
心なしか、若干水たまりが座席の方に移動してきているような気がする。
私はすぐに4号車への貫通扉を開けた。
高橋:「先生の洞察力には感服致します」
山根:「愛原さん、凄いねー!」
高橋:「バカ野郎!先生と呼べ!」
山根:「せ、せんせい……」
愛原:「いいんだよ。好きに呼んでくれ」
私は3号車側の貫通扉を開けると、今度は4号車側の貫通扉に手を掛けた。
愛原:「あれ?」
高橋:「どうしました?」
愛原:「開かないぞ?」
山根:「ええっ!?」
4号車側のドアが何かに引っ掛かっているのか、取っ手は動くが、何故か開かなかった。
愛原:「くそっ!こうしているうちにも、化け物が……!」
高橋:「ちょっと先生、どいてください」
高橋が私の前に出た。
愛原:「た、高橋君、もしかして……」
山根:「もしかすると……」
高橋:「もしかしますよ!」
高橋は貫通扉を蹴破った。
愛原:「やっぱり……」
私は肩を竦めた。
4号車の中に入ると、高橋に蹴破られて外れたドアとその前に新聞紙が落ちていた。
どうやらこれがドアに挟まっていた為、開かなかったらしい。
高橋:「ほお……?先生の邪魔をするとは、一体誰がこんなことを!?」
愛原:「その前に外したドア、直そうな?」
3号車側のドアは閉めたから、もう化け物が襲って来ることは無いと思うが、一応安全の為、4号車側のドアを戻しておくことにした。
愛原:「……!?」
4号車内にも乗客らしき者が1人いた。
それは誰だったと思う?
①稲生勇太
➁敷島孝夫
③女子高生らしき少女
④OLらしき女性
⑤地味なスーツ姿の男性
⑥想像もつかない
(※この選択肢にバッドエンドはありません)
愛原:「俺はなるべく濡れていない所を選んで、慎重に進んだ方がいいと思うんだ。さっきの高橋君の行動からして、そう思った」
高橋:「まあ……先生がどうしてもと仰るのでしたら従います」
山根:「ぼ、僕は引き返した方が……」
高橋:「あー?だったら、自分だけ戻れ。俺は先生に付いて行く」
愛原:「まあまあ。俺が先に行く。言い出しっぺは俺だからな。キミ達は後からついて来てくれ」
高橋:「了解しました」
山根:「は、はい……」
私は早速、3号車に足を踏み入れた。
なるべく乾いている所に足を付ける。
もちろん床だけを進もうとすれば無理がある。
床全体が濡れている箇所もいくつかあるからだ。
そういう時は行儀が悪いが、座席の上に乗ってそこを進むことになる。
幸い電車は少し低速になったことで揺れも小さくなった。
線形も良いらしく、それ故の大きな揺れなどは無い。
だが、油断はできない。
今どこを走っているか分からない以上、突然のポイント通過や急停車などで体が持って行かれる可能性がある。
吊り革や手すりに捉まりながら行けばいいと思うが、濡れているのは床だけではない。
さっきの化け物が通過したことで、吊り革や手すりも濡れているのだ。
愛原:「いいか?無理するなよ。慎重に、ゆっくりでいい」
高橋:「はい!」
山根:「は、はい……」
そうして車両の真ん中辺りまで来たが、化け物の現れる気配は無い。
愛原:「よし。ここまで来れたな。次に行くぞ」
高橋:「本当に、大丈夫っスか?」
愛原:「心配すんな。幸太郎君、ゆっくりでいいからね」
山根:「はい」
高橋:「モタモタしていたら置いて行くぞ」
愛原:「だから、そういうことを言うなって」
私は高橋に苦言を呈すと、すぐに進行方向に向き直り、後半戦へと進んだ。
元々化け物は4号車寄りに潜んでいたこともあってか、4号車に近づくほど濡れていた。
愛原:「ああっ、くそっ!」
私が悔しがったのは、正にヤツが潜んでいた場所。
一番4号車寄りのドアの前、左右のドアの間くらいの広くなっている場所には一面に水たまりが広がり、これでは濡れずに進むことが困難だった。
愛原:「どうしよう、これ?」
高橋:「ロープでも使いますか」
高橋は自分の荷物の中からロープを取り出した。
愛原:「お前、そんなもんどうしたんだよ?」
高橋:「先生が、『今度の仕事先は仙台市内の山の中だ』と仰るんで、一応持って来たんですよ」
愛原:「それでお前、屋敷の裏手の崖下に下りたのか!?犯人が捨てた証拠品拾いに!?」
高橋:「そうですよ。言いませんでしたか?」
愛原:「い、いや……そうか。まあ、よくやった。よし。このロープを反対側に引っ掛けて……」
私の作戦はこうだ。
幸い、連結器の前の3人席は濡れていない。
要はそこに着地すれば良い。
7人掛けの席に私は立ち、そこからロープを3人掛け席の上の手すりに投げた。
そのロープの先にはフックが付いている。
フックは見事に吊り革を吊っている手すりに引っ掛かった。
後はそれを伸ばして、頭上の網棚の前の手すりと結び合わせる。
ピンとロープを張った。
愛原:「これにぶら下がって、斜め向かいの3人席に着地する」
高橋:「さすがです」
私はロープにぶら下がり、足が地面に付かないように進んだ。
まるでアスレチックだな。
こんなことなら、もう少し運動をするべきだったよ。
それでも何とか、私は数メートル先の3人席に着地することができた。
高橋:「さすがです、先生。よし、俺も……」
高橋の場合、運動能力については申し分無いのだが、いかんせん私よりも背が高い。
ただ単にぶら下がっているだけでは、地面に足が付いてしまう。
ぶら下がりながら、足を付けずに進むという結構高度な技を披露しなくてはならなかったのだが、彼は見事にやり遂げた。
高橋:「チョー楽勝です。フフッ……」
愛原:「おお〜!」
とは言いつつも、高橋の額には汗が浮かんでいたから、けして余裕というわけではないようだ。
愛原:「幸太郎君、ゆっくりでいいからね!」
山根:「は、はい!」
そういえば今、学校の遊具に雲梯なんてあるのだろうか。
要はあれの要領だよなぁ……。
山根:「や、やった!」
幸太郎君もまた見事に3人席へと着地した。
愛原:「皆、よくやった。どうやら、やっぱり水に触れなきゃ大丈夫みたいだな」
私は水に触れないように床に足を伸ばした。
心なしか、若干水たまりが座席の方に移動してきているような気がする。
私はすぐに4号車への貫通扉を開けた。
高橋:「先生の洞察力には感服致します」
山根:「愛原さん、凄いねー!」
高橋:「バカ野郎!先生と呼べ!」
山根:「せ、せんせい……」
愛原:「いいんだよ。好きに呼んでくれ」
私は3号車側の貫通扉を開けると、今度は4号車側の貫通扉に手を掛けた。
愛原:「あれ?」
高橋:「どうしました?」
愛原:「開かないぞ?」
山根:「ええっ!?」
4号車側のドアが何かに引っ掛かっているのか、取っ手は動くが、何故か開かなかった。
愛原:「くそっ!こうしているうちにも、化け物が……!」
高橋:「ちょっと先生、どいてください」
高橋が私の前に出た。
愛原:「た、高橋君、もしかして……」
山根:「もしかすると……」
高橋:「もしかしますよ!」
高橋は貫通扉を蹴破った。
愛原:「やっぱり……」
私は肩を竦めた。
4号車の中に入ると、高橋に蹴破られて外れたドアとその前に新聞紙が落ちていた。
どうやらこれがドアに挟まっていた為、開かなかったらしい。
高橋:「ほお……?先生の邪魔をするとは、一体誰がこんなことを!?」
愛原:「その前に外したドア、直そうな?」
3号車側のドアは閉めたから、もう化け物が襲って来ることは無いと思うが、一応安全の為、4号車側のドアを戻しておくことにした。
愛原:「……!?」
4号車内にも乗客らしき者が1人いた。
それは誰だったと思う?
①稲生勇太
➁敷島孝夫
③女子高生らしき少女
④OLらしき女性
⑤地味なスーツ姿の男性
⑥想像もつかない
(※この選択肢にバッドエンドはありません)