[7号車]
電車はおよそ時速40キロくらいで走行している。
血のように赤い空、そして荒野という表現がピッタリの原っぱの中にポツンと建つ小さな駅。
電車はそこに差し掛かった。
愛原:「窓にせよ、ドアにせよ、飛び降りるのは危険です!やめてください!!」
高橋:「せ、先生……。すいませんでした……」
敷島:「……ここは愛原さんに任せますよ」
高橋は私の勢いに気圧されて窓を閉めた。
敷島さんは肩を竦めた。
そして、電車はホームを通過した。
敷島:「何だ、あれ!?」
ホームには乗客と駅員らしき者達の姿があった。
だが、その様相は異様なものだった。
ホームを歩く乗客達は、まるでバイオハザードのゾンビのようだった。
電車の中だと聞こえないが、恐らく呻き声を上げながら歩いているのだろう。
ホームに立っている乗客も、ボーッと立っているだけのゾンビに見えた。
そして、駅員。
制服は明らかにJR東日本のものではない。
まるで、かつての旧・公共企業体国鉄の制服……よりももっと昔、詰襟の旧・運輸省直轄の国有鉄道の制服のようだった。
昔、テレビで見たことがある。
そしてその制服に身を包んでいるのは、ガイコツだった。
愛原:「今の……何だ?」
高橋:「霧生市の電車ですかね?」
愛原:「んなわけないだろ!」
敷島:「そ、そうだ。昔、見たことがある。“ゲゲゲの鬼太郎”の幽霊電車!あれだ!」
山根:「ということは……」
敷島:「やっぱりこの電車、あの世に行く電車だったんだ……」
山根:「やだよ!死にたくないよ!勉強なんか嫌だとか、逃げたいとか思ったけど、あの世まで逃げる気は無いよ!」
高橋:「先生と御一緒なら、地獄までもお供します!」
愛原:「待て待て待て!確かに今、変な駅を通過したけど、まだあの世に行くと決まったわけじゃないでしょ!もしかしたら、まだこの世に引き返せる……あれ!?」
私まで何を言ってるのやら。
とにかく、この電車から飛び降りる選択をしなくて良かったと思う。
やはり、冷静に対処するのが1番だ。
と、電車が再びスピードを上げ始めた。
そして、また漆黒の闇の中へと包まれた。
山岳トンネルなのか地下トンネルなのかは分からない。
愛原:「オホン!とにかくです。少なくとも、運転室には運転士がいるのでしょう。さっきの減速と、今の加速を見れば分かります。205系……でしたっけ?この電車、自動運転機能は付いていないんでしょ?」
敷島:「聞いたこと無いですね。自動ブレーキを搭載した自動列車制御装置は搭載していますが、自動で加速する機能は付いていないはずですよ」
愛原:「てことは、やっぱり運転室に運転士はいるってことです。私はやっぱりこのまま先頭車に行って、運転室を確認するべきだと思います」
高橋:「先生の仰る通りだと思います」
敷島:「分かりました。そうしましょう」
山根:「僕もついてく……」
愛原:「うん。そうと決まったら、早く行きましょう」
私達は8号車へのドアを開けた。
敷島:「8号車か。ここも誰もいないな……。あ」
8号車は7号車と同様、無人だった。
化け物が潜んでいる気配も無い。
敷島氏が何かに反応した。
それは、グリーンの7人掛けシートの上に置かれているメモ。
敷島:「そうか。俺は8号車に乗ってたのか。このメモを書いている人を見ましたよ」
愛原:「へえ……」
メモを見ると『イ・ウォ・ナ・ズゥム』『ムェ・ガ・ンテ』『パル・プ・ンテェ』と書かれていた。
何じゃこりゃ?
敷島:「何かの暗号かな?」
高橋:「魔法の呪文みたいっスね」
山根:「僕にも見せてー」
敷島:「あれ?この字……」
愛原:「?」
敷島:「愛原さん、さっきの酔っ払いのメモ、見せてくれませんか?」
愛原:「はい」
私は酔っ払いが落としたメモ帳を渡した。
敷島:「やっぱり!ほら、筆跡がよく似ていますよ」
愛原:「本当だ。じゃあ、敷島さんが見たのはあの酔っ払いですか?」
敷島:「いや、もっと若い人でしたよ。そこの高橋君くらいの……」
高橋:「あ?」
敷島:「高橋君よりはもっと大人しい感じだったけど……」
高橋:「ナメてんのか、コラ?」
愛原:「やめろよ。どんな人だったんですか?」
敷島:「うーん……あんまり特徴の無いコだったなぁ……。イケメンでもブサメンでもなく、でも、どことなくオタクっぽさはあって……?」
愛原:「今は高橋みたいなヤツでも、平気でコミケに同人誌を買いに行く時代ですからね」
敷島:「あ、そうそう。何か、杖みたいなものを持ってました」
愛原:「杖?松葉杖か何か?」
敷島:「いや……。何だろう?あー、“ハリー・ポッター”が持つようなヤツ!」
愛原:「魔法の杖!?」
高橋:「やっぱりこれは魔法の呪文ですか。ほお……」
高橋がやけに興味を持つのは、仕事の無い時はゲームをよくやっているからだな。
敷島:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ』と言ってから、これを言うのかな?」
愛原:「何だかよく分かりませんねぇ……」
とにかく、8号車にはメモ以外何も無かったようだ。
敷島:「じゃあ、次は9号車ですな。このまま何も無く、10号車まで行ければいいんですが……」
愛原:「そうですねぇ……」
だが、世の中そんなに甘くは無かった。
大男:「わあーっ!!」
9号車から血相を変えた男が飛び込んできた。
身長は180cmを超える大男だ。
ガタイも良く、最近流行りのバケットシートに座ると、明らかにその窪みからはみ出るであろう体型である。
肥満体というわけではなく、むしろ筋肉質のプロレスラーかと思うような男だった。
その男が血相を変えてこっちの車両に飛び込んできたものだから、私達は立ち止まるしか無かった。
男は急いで9号車側のドアを閉めると、それを押さえ込んだ。
大男:「お、おい!何やってんだ!あんた達!早いとこ、押さえるの手伝ってくれ!このままじゃ、ヤツが来ちまう!!」
愛原:「や、ヤツ!?」
すると、ドアが向こうから大きくドンッ!と叩かれた。
確かに、ドアの向こうに何かいる。
だが、私達が目を凝らしてもよく見えないのだ。
プロレスラーみたいな体格の男がドアを押さえても、向こうからドンッと叩かれる度、男の体がドアから弾き飛ばされそうになる。
高橋:「た、タイラントでもいるんですか、先生!?」
愛原:「か、かもしれんな……」
そういえば、日本人版リサ・トレヴァーは元気にしているのだろうか?
恐らく今は政府のモルモットにでもされているのだろうが……って、そんなこと考えてる場合じゃない!
タイラントが相手なら、私達は全滅だぞ!
どこかに、コルトパイソンかロケランは無いのか!?
敷島:「ちょっと、あなた!一体、この向こうには何がいるんですか!?」
大男:「鬼だよ!鬼!」
敷島:「鬼!?」
高橋:「先生、やっぱりタイラントかネメシスですかね?」
愛原:「くそっ!やっぱあの駅で飛び降りた方が良かったか!?」
ついにドアが破られた。
大男:「うおっ!!」
男はうつ伏せに倒れ、その上に破られたドアが覆い被さって来た。
鬼は透明な姿をしていた。
照明に反射して一瞬、牛頭(ごず)のような姿が見えた。
牛頭と馬頭、どちらも地獄の獄卒として有名な者達だ。
大男:「た、助けて……!」
透明な牛頭はドアの上から男を踏み潰そうとしているかのようだった。
しかし、プロレスラーみたいな男を足蹴にできるような相手だ。
私達に何ができるというのだ!?
せめて、ハンドガンやショットガンでもあれば……。
そうだ!
①高橋のナイフを使おう!
➁幸太郎君の参考書を使おう!
③敷島さんのメモを使おう!
④後ろの車両に逃げるしかない!
(※この4つのうち、3つがバッドエンド直行の上級コースです)
電車はおよそ時速40キロくらいで走行している。
血のように赤い空、そして荒野という表現がピッタリの原っぱの中にポツンと建つ小さな駅。
電車はそこに差し掛かった。
愛原:「窓にせよ、ドアにせよ、飛び降りるのは危険です!やめてください!!」
高橋:「せ、先生……。すいませんでした……」
敷島:「……ここは愛原さんに任せますよ」
高橋は私の勢いに気圧されて窓を閉めた。
敷島さんは肩を竦めた。
そして、電車はホームを通過した。
敷島:「何だ、あれ!?」
ホームには乗客と駅員らしき者達の姿があった。
だが、その様相は異様なものだった。
ホームを歩く乗客達は、まるでバイオハザードのゾンビのようだった。
電車の中だと聞こえないが、恐らく呻き声を上げながら歩いているのだろう。
ホームに立っている乗客も、ボーッと立っているだけのゾンビに見えた。
そして、駅員。
制服は明らかにJR東日本のものではない。
まるで、かつての旧・公共企業体国鉄の制服……よりももっと昔、詰襟の旧・運輸省直轄の国有鉄道の制服のようだった。
昔、テレビで見たことがある。
そしてその制服に身を包んでいるのは、ガイコツだった。
愛原:「今の……何だ?」
高橋:「霧生市の電車ですかね?」
愛原:「んなわけないだろ!」
敷島:「そ、そうだ。昔、見たことがある。“ゲゲゲの鬼太郎”の幽霊電車!あれだ!」
山根:「ということは……」
敷島:「やっぱりこの電車、あの世に行く電車だったんだ……」
山根:「やだよ!死にたくないよ!勉強なんか嫌だとか、逃げたいとか思ったけど、あの世まで逃げる気は無いよ!」
高橋:「先生と御一緒なら、地獄までもお供します!」
愛原:「待て待て待て!確かに今、変な駅を通過したけど、まだあの世に行くと決まったわけじゃないでしょ!もしかしたら、まだこの世に引き返せる……あれ!?」
私まで何を言ってるのやら。
とにかく、この電車から飛び降りる選択をしなくて良かったと思う。
やはり、冷静に対処するのが1番だ。
と、電車が再びスピードを上げ始めた。
そして、また漆黒の闇の中へと包まれた。
山岳トンネルなのか地下トンネルなのかは分からない。
愛原:「オホン!とにかくです。少なくとも、運転室には運転士がいるのでしょう。さっきの減速と、今の加速を見れば分かります。205系……でしたっけ?この電車、自動運転機能は付いていないんでしょ?」
敷島:「聞いたこと無いですね。自動ブレーキを搭載した自動列車制御装置は搭載していますが、自動で加速する機能は付いていないはずですよ」
愛原:「てことは、やっぱり運転室に運転士はいるってことです。私はやっぱりこのまま先頭車に行って、運転室を確認するべきだと思います」
高橋:「先生の仰る通りだと思います」
敷島:「分かりました。そうしましょう」
山根:「僕もついてく……」
愛原:「うん。そうと決まったら、早く行きましょう」
私達は8号車へのドアを開けた。
敷島:「8号車か。ここも誰もいないな……。あ」
8号車は7号車と同様、無人だった。
化け物が潜んでいる気配も無い。
敷島氏が何かに反応した。
それは、グリーンの7人掛けシートの上に置かれているメモ。
敷島:「そうか。俺は8号車に乗ってたのか。このメモを書いている人を見ましたよ」
愛原:「へえ……」
メモを見ると『イ・ウォ・ナ・ズゥム』『ムェ・ガ・ンテ』『パル・プ・ンテェ』と書かれていた。
何じゃこりゃ?
敷島:「何かの暗号かな?」
高橋:「魔法の呪文みたいっスね」
山根:「僕にも見せてー」
敷島:「あれ?この字……」
愛原:「?」
敷島:「愛原さん、さっきの酔っ払いのメモ、見せてくれませんか?」
愛原:「はい」
私は酔っ払いが落としたメモ帳を渡した。
敷島:「やっぱり!ほら、筆跡がよく似ていますよ」
愛原:「本当だ。じゃあ、敷島さんが見たのはあの酔っ払いですか?」
敷島:「いや、もっと若い人でしたよ。そこの高橋君くらいの……」
高橋:「あ?」
敷島:「高橋君よりはもっと大人しい感じだったけど……」
高橋:「ナメてんのか、コラ?」
愛原:「やめろよ。どんな人だったんですか?」
敷島:「うーん……あんまり特徴の無いコだったなぁ……。イケメンでもブサメンでもなく、でも、どことなくオタクっぽさはあって……?」
愛原:「今は高橋みたいなヤツでも、平気でコミケに同人誌を買いに行く時代ですからね」
敷島:「あ、そうそう。何か、杖みたいなものを持ってました」
愛原:「杖?松葉杖か何か?」
敷島:「いや……。何だろう?あー、“ハリー・ポッター”が持つようなヤツ!」
愛原:「魔法の杖!?」
高橋:「やっぱりこれは魔法の呪文ですか。ほお……」
高橋がやけに興味を持つのは、仕事の無い時はゲームをよくやっているからだな。
敷島:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ』と言ってから、これを言うのかな?」
愛原:「何だかよく分かりませんねぇ……」
とにかく、8号車にはメモ以外何も無かったようだ。
敷島:「じゃあ、次は9号車ですな。このまま何も無く、10号車まで行ければいいんですが……」
愛原:「そうですねぇ……」
だが、世の中そんなに甘くは無かった。
大男:「わあーっ!!」
9号車から血相を変えた男が飛び込んできた。
身長は180cmを超える大男だ。
ガタイも良く、最近流行りのバケットシートに座ると、明らかにその窪みからはみ出るであろう体型である。
肥満体というわけではなく、むしろ筋肉質のプロレスラーかと思うような男だった。
その男が血相を変えてこっちの車両に飛び込んできたものだから、私達は立ち止まるしか無かった。
男は急いで9号車側のドアを閉めると、それを押さえ込んだ。
大男:「お、おい!何やってんだ!あんた達!早いとこ、押さえるの手伝ってくれ!このままじゃ、ヤツが来ちまう!!」
愛原:「や、ヤツ!?」
すると、ドアが向こうから大きくドンッ!と叩かれた。
確かに、ドアの向こうに何かいる。
だが、私達が目を凝らしてもよく見えないのだ。
プロレスラーみたいな体格の男がドアを押さえても、向こうからドンッと叩かれる度、男の体がドアから弾き飛ばされそうになる。
高橋:「た、タイラントでもいるんですか、先生!?」
愛原:「か、かもしれんな……」
そういえば、日本人版リサ・トレヴァーは元気にしているのだろうか?
恐らく今は政府のモルモットにでもされているのだろうが……って、そんなこと考えてる場合じゃない!
タイラントが相手なら、私達は全滅だぞ!
どこかに、コルトパイソンかロケランは無いのか!?
敷島:「ちょっと、あなた!一体、この向こうには何がいるんですか!?」
大男:「鬼だよ!鬼!」
敷島:「鬼!?」
高橋:「先生、やっぱりタイラントかネメシスですかね?」
愛原:「くそっ!やっぱあの駅で飛び降りた方が良かったか!?」
ついにドアが破られた。
大男:「うおっ!!」
男はうつ伏せに倒れ、その上に破られたドアが覆い被さって来た。
鬼は透明な姿をしていた。
照明に反射して一瞬、牛頭(ごず)のような姿が見えた。
牛頭と馬頭、どちらも地獄の獄卒として有名な者達だ。
大男:「た、助けて……!」
透明な牛頭はドアの上から男を踏み潰そうとしているかのようだった。
しかし、プロレスラーみたいな男を足蹴にできるような相手だ。
私達に何ができるというのだ!?
せめて、ハンドガンやショットガンでもあれば……。
そうだ!
①高橋のナイフを使おう!
➁幸太郎君の参考書を使おう!
③敷島さんのメモを使おう!
④後ろの車両に逃げるしかない!
(※この4つのうち、3つがバッドエンド直行の上級コースです)