報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京から大宮へ」

2017-07-08 19:34:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日21:06.天候:晴 JR東京駅日本橋口→東北新幹線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪……。長い間のご乗車、大変お疲れさまでした。まもなく終点、東京駅日本橋口、東京駅日本橋口に到着致します。……本日は富士急行の高速バスをご利用頂きまして、真にありがとうございました〕

 バスの最初の降車場は用賀パーキングである。
 但し、こちらは常時降りられるとは限らず、パーキングの出入口に直結した料金所のブースが閉鎖されている場合は停車できない(もっとも、その確率は低く、作者は1度もパーキングの閉鎖を見たことがない)。
 正式な降車場としては、首都高速の霞ヶ関出口を出た先の霞ヶ関バス停である。
 霞ヶ関出口の交差点は本来右折禁止だが、高速バスだけは許可されている。
 都営バスの経済産業省前バス停辺りに高速バスは停車する。
 そこで数人の乗客を降ろすと、そこから東京駅に向かう。
 JRのガードを潜ると、左手には解体工事中のビルが見えてくる(JXビル。旧称は新日鐵ビル)。
 何を隠そう、作者が数年前に勤務していたビルである。ビル解体に伴い、警備契約が満了になった。
 そこに東京駅日本橋口への出入口がある。

 稲生:「そろそろ先生を起こした方がいいかと」
 マリア:「そうだな。師匠、起きてください」
 イリーナ:「ん?……ああ、着いたのね」
 稲生:「先生のおかげで、ダイヤ通りですよ。ありがたい」
 イリーナ:「いやいや、アタシゃ何もしてないよ」

 バスが駅前のロータリー内に止まる。

 運転手:「はい、ありがとうございました」

 ぞろぞろと乗客達が乗降ドアの所へ進む。

 マリア:「ユウタ、杖!」
 稲生:「あっと!」

 傘みたいに見事に忘れるところだった稲生。
 因みに、それまでの見習用の杖はズボンの腰ベルトに下げていた。
 今も伸縮性があるとはいえ、縮ませても傘の長さくらいある。

 稲生:「威吹やキノの刀みたいに、差してみるかな?」
 マリア:「横着しないでちゃんと持ちなって」
 稲生:「はーい」

 バスを降りると、湿気を孕んだ生暖かい風に包まれた。

 マリア:「日本の夏はジメジメして過ごしにくい。夏の間だけでも、師匠の故郷に移動するかな……。ねぇ、師匠?」
 イリーナ:「ん?何か言った?」
 マリア:「……何でもないです」

 イリーナがローブを羽織っているのを見て、マリアはそれ以上言うのを止めた。
 ローブには防熱性があるので、羽織れば確かに涼しい。
 要は、それで何とかしろということなのだろう。

 イリーナ:「マリア。それこそ、“魔の者”の思うツボよ。日本はマナの純度が低い国だからね。“魔の者”が大きな力を出せず、対岸でこっちを見ているだけで済んでいるのはそのおかげなんだから」
 稲生:「マナの純度が低いだけで、どうして安全なんですか?」
 イリーナ:「“魔の者”はマナをエサにしているみたいなのね。その純度が低いと言う事は、向こうもそんなに力が出せないということよ」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「だから、日本は安全地帯だよ」
 稲生:「その割には北海道で苦戦がありましたが……」
 イリーナ:「“魔の者”も狡猾だから、色々と考えを張り巡らせたみたいだね」
 稲生:(何だか他に先生は知ってそうな感じだけど……)

 あまり教えてくれなさそうなので、それ以上聞くのはやめた。
 とにかく、マリアの意見は却下だということだ。

[同日21:24.天候:晴 JR東京駅東北新幹線ホーム→“なすの”275号1号車内]

〔21番線に停車中の列車は、21時24分発、“なすの”275号、那須塩原行きです。グリーン車は9号車、自由席は1号車から7号車です。……〕

 稲生:「さすがに近距離なので、自由席ですがよろしいですか?」
 イリーナ:「もちろんよ。昔は貨物列車で移動したものさ」
 稲生:「“シベリア超特急”の時代は、もうそこの1等車には乗れてたんですよね?」
 イリーナ:「シベリア鉄道にも色んな列車が走ってるから」

〔「お待たせ致しました。21時24分発、東北新幹線“なすの”275号、那須塩原行き、まもなく発車致します」〕

 3人席に座っている魔道師達。
 荷棚の所に置いてあるマリアのバッグにはミク人形とハク人形がいて、バスの時もそこに乗っていた。
 ジーッと2号車の方を見る。

 稲生:「“なすの”に車内販売は無いんだよ」
 ミク人形:「チッ」
 ハク人形:「チッ」

 稲生のツッコミに舌打ちし、バッグの中に戻って行くマリアのファミリア達であった。
 列車は定刻通りに東京駅を出発した。
 この後に“はやぶさ”37号が出発するが、大宮駅で接続は行わず、この“なすの”が小山駅で通過待ちをするパターンである。
 その為か、この列車は閑散としているが、隣の“はやぶさ”が発車するホームは長蛇の列ができていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は東北新幹線“なすの”号、那須塩原行きです。次は、上野に止まります。……〕

 稲生:「大宮までは結構、夜景がきれいですよ」
 マリア:「へえ……」

 中央席に座っているマリア。
 イリーナはリクライニングを最大限に倒して寝ている上、窓の大きいタイプのE2系1000番台なので、車窓を見るには良いだろう。

 マリア:「山の中に住むのもいいけど、こういう街で暮らすのもいいかも……」
 稲生:「そうですね。アナスタシア組は確か、日本拠点としてタワーマンションの一室を買ったという話ですね」

 恐らく都内だと思われるが、詳しい場所は不明。

 稲生:「あ、どうしてマリアさんは長野の山の中に?」
 マリア:「元々私がここに来たのは、“魔の者”から逃げる為だった。更に身を隠す場所として、山の中にしたらしいよ」

 マリアはチラッとイリーナを見た。
 北海道ではロシアから近いし、九州や沖縄でも中国や朝鮮半島に近い為、大陸から“魔の者”が入りやすい。
 本州太平洋側では追い詰められた際、背水の陣になる恐れがある。
 そこで、中間地点で尚且つ身を隠しやすい現在の場所になったとのこと。

 稲生:「なるほどねぇ……」
 マリア:「師匠のさっきの話では、日本さえ出なければ、都会暮らしでもいいような気がする」
 稲生:「確かに、そんな気がしますね」

 もちろん、今現在ではまだイリーナからの許可は出ないだろう。
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“大魔道師の弟子” 「夜の東名高速を行く」

2017-07-08 11:51:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日18:30.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりヶ丘 富士急静岡バス富士宮営業所]

 
(富士急静岡バス“やきそばエクスプレス”。UDトラックス・スペースアロー。撮影場所、大石寺第二ターミナル)

 営業所前のバス停に1台の高速バスがやってくる。
 富士宮市から東京へ向かう最終便である。
 運転手が降りてきて、床下の荷物室のドアを開けた。

 稲生:「すいませーん、荷物お願いします」
 運転手:「はい、お預かりします」

 乗車券を運転手に渡すと、JRバス時代は改札挟を模したスタンプだったが、富士急では『済』と書かれたハンコが押されるだけである。
 予約制なので、運転手は乗客名簿を兼ねた座席表を持っている。
 後になってからの予約だったのかどうかは不明だが、後ろの席が指定されていた。
 3人で乗り込む。
 営業所からの乗客は疎らだった。

 イリーナ:「じゃ、センセは寝てるね。着いたら起こして」
 稲生:「はい」

 グイイイとイリーナは稲生達の前の席をリクライニングした。

 マリア:「前の席をリクライニングさせなくする『ニーガード』というのがあるそうなんだけど、これを師匠に使ったらどうなるだろう?」
 稲生:「そもそもバスが出発できなくなりますのでやめてください」
 マリア:「分かった」

 バスは数人の乗客を乗せて、次の停車場所である富士宮駅に向かった。
 他の季節ならもう暗い時間であるが、夏場の今はまだ少し明るい。
 営業所の前の狭い道を潜り抜けて、坂道を下りる。
 その道すがら、右手には浅間大社が見えてくる。
 また、最前列(特に1A席か1B席)に座ると、その坂の向こうの富士宮市街の夜景がかなり綺麗に見える。
 大石寺の境内からでも一応夜景が見えないことも無いが、この辺は遮る物が無い上、更に街に近いということもあって、より鮮明に見えるのである。

 稲生:「両親には夜に到着する旨、伝えてあります」
 マリア:「いつも申し訳無いな」
 稲生:「いえいえ。『宿泊代』として、先生の予知・予言がありますから」
 イリーナ:「んん……それじゃ、今度はロト7の予想でもしようかねぇ……」
 マリア:「師匠。ロト7の当選は、私達の生活費に使うのでは?」
 イリーナ:「いや、そんな高くは要らないでしょ。稲生君がこっそり買ったミニロトの当選金で十分さね」
 マリア:「は!?」
 稲生:「すす、すいません……。この前のお使いの時に買っちゃいました……」
 イリーナ:「うんうん。稲生君の予知能力も、少しずつ高まって来ているようだねぇ……」
 マリア:「それ、当たるのか?……当たるんですか、師匠?」
 イリーナ:「クカー……」
 マリア:「いや、都合良く寝るなっての!」

[同日18:50.天候:晴 同市内・国道139号線上]

 バスは富士宮市内全ての停留所に停車した。
 次は最後の乗車場所である東名富士である。
 その間はずっと国道139号線を突き進む。
 途中、西富士道路を走ることになる。
 これは国道139号線のバイパスで、2012年3月31日までは有料道路だった。
 そういうこともあってか、並行する旧道も国道指定のままであったが、同年4月1日より無料開放されてからは、国道指定はこちらのバイパスに統一され、旧道は県道に降格されている。
 とはいうものの自動車専用道路であることに変わりは無く、歩行者等の立ち入りはできない。
 また、一部区間を除いて時速80キロ制限という点も変わっていない。
 尚、タクシーでここを通る際、運転手は料金メーターを『高速』に切り替える。
 高速道路に入った際に使用するもので、時間制がカットされ、距離制のみとなるものである。
 一般道なら渋滞にハマっても抜け道を利用するなどの手があるが、高速道路ではそうはいかない。
 また、高速料金は乗客負担なのだから、渋滞による時間料金加算はサービスしようという趣旨である。
 この慣習は西富士道路が無料化されても続けられているようで、どこでまた通常または深夜帯だったら割増に切り替えるかは運転手の判断らしい。
 当バイパスを抜けて、最初の赤信号などで止まった際に切り替える運転手もいる。
 厳密に言えばバイパスを抜けた時点ですぐに切り替えなければならないが、表向きは『運転中に操作すると危ないから』ということになっている。

 稲生はバスを追い抜いて行ったタクシーを見ながら、そんなことを考えていた。
 それより稲生が思い出すのは西富士道路カーチェイス事件である。
 ケンショーレンジャーが戦闘員(顕正会男子部調査室員)を使った正証寺支部登山妨害事件のことであるが、漁夫の利を得た“フェイク”と創価新報が大変喜んだ事件であるから、割愛しておこう。
 『日顕宗と顕正会の醜い争い!』『修羅道サトーと畜生道坊主の悪道ぶり!』『西富士道路を半日通行止めにさせた迷惑集団!』なんて……。

[同日19:40.天候:晴 静岡県御殿場市深沢 足柄サービスエリア]

 東名富士バス停で、だいたい窓側席が全部埋まり、稲生達のようなグループ客が通路側にも座るといったくらいの乗客数でバスは東名高速に入った。
 最初は何も無い真っ暗な道路を進むといった感じだったが、しばらく走ってバスは唯一の休憩箇所に入った。
 日本でも指折りの大規模サービスエリアで、入浴・宿泊施設まである。
 が、高速バスは10分だけ休憩。
 路線バス停車帯は他のJRバスなどで埋まっていた為、本当のバス専用駐車場に駐車する。
 もっとも、上り線の場合はむしろこっちに止めてくれた方がトイレの場所が近かったりする。

 稲生:「どれ、ちょっと降りてみますか」
 マリア:「私も行く」
 稲生:「先生は……」
 イリーナ:「ZZZ……」
 マリア:「邪魔してやるな」
 稲生:「そ、そうですね」

 稲生とマリアは他の乗客と一緒にバスを降りた。
 運転手は降りる乗客の数を数えていた。
 そうすることで、後で戻って来る数と照合する為である。
 カチカチとカウンターを押していた。が!

 ミク人形:「バイバイ」
 ハク人形:「バイバイ」
 運転手:「はいはい」

 カチッ、カチッ!(いつもの調子でカウンターを押す)

 運転手:「ん!?」

 そこで異変に気付いた運転手。

 稲生:「こら、勝手に降りたらダメだよ!」
 マリア:「ユウタの方がトイレ先に出るだろう?このコ達にアイス買ってやって」
 稲生:「この期に及んで……」

 列車の車販だけでなく、高速道路のサービスエリアで売っているアイスクリームもマイブームになりつつあるミク人形とハク人形だった。
コメント (2)
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