[期日不明 時刻不明 場所不明 井辺翔太]
「う……」
井辺はまた意識を失っていたようだ。
目が覚めると、再び牢屋の中に入れられていた。
そのベッド(壁からチェーンで吊っている粗末なものだが)の上に寝かされていた。
起き上がって、自分の体を見てみたが、特に機械化された様子は無い。
確かエリオットに連行されて地下へのエレベーターを降りた時、突然眠くなったのだ。
催眠ガスが噴き出ていたらしい。
エリオットは人間ではないのか、一緒にいても大丈夫だったようだ。
最初の地下牢とはまた違った構造をしているので、別にまた地下牢があったのだろう。
因みに、今度は扉に鍵が掛けられていた。
「シー君?シー君、いるかい?」
しかし、シーの声はしなかった。
一緒に捕まってしまったのか?それとも……。
「ん?」
廊下は薄暗い。
だが、ドアの開く音がしてその時だけ明るくなる。
何やら足音が聞こえて来た。
「あっ!?」
それはバージョン3.0だった。
両目をライトのように光らせて、自分の進行方向を照らしている。
そして、手には金属バットのような鉄パイプを持っていた。
「オヤ、気ガツイタノカイ」
「喋れるのか?すると、キミは46号機ではないな?」
「アア。アノぽんこつネ。ボクハ50号。エリオット様ノ忠実ナ下僕サ」
「ということは、キミの任務は……」
「ソノ通リ。キミヲ、ココカラ出サナイコトダ」
「ううっ……!」
「今、エリオット様ハ色々ト準備デ忙シイ。ソレガ終ワルマデ、ココデオトナシクシテルンダヨ?サモナイト……」
3.0は太い鉄パイプを振り上げた。
「ロボットに命令される人間か……。なるほど。鷲田警視の懸念が、ここで当たってしまったわけか」
「鷲田警視?」
「ちくしょうっ!!」
クールな井辺もついに爆発し、粗末なベッドを蹴り上げて八つ当たりした。
「オイ、ヤメロヨ!ベッドガ壊レルダロ!!」
「うるさい!」
もう1回蹴り上げる。
甲高い金属音がし、眩い光に照らされた。
50号が鉄パイプで牢屋の鉄格子を叩き、両目をハイビームにして井辺を照らした。
「ココノ設備ヲ壊シタラ、ボクガ怒ラレルンダゾ!イイ加減ニシロ!!」
「……銃火器も装備できない旧型ロボットが!」
「何カ言ッタカ?」
「……銃火器か……。なあ、ちょっと」
「何ダ?」
「外部から、色々と電波が入っていないか?……マルチタイプの姉妹さんからとか?」
「1回アッタンダケドネ、エリオット様ガ遮断シテクレタヨ」
「やっぱりか……!」
エミリーとシンディによる『呼び掛け』はあったらしい。
だが、いち早く気づいたエリオットがこの洋館のロボット達に対し、彼女らの命令が聞けないよう、シャットアウト措置をしてしまったようだ。
「マルチタイプはキミ達の上位機種だろ?逆らったら、マズいんじゃないのかい?」
「大丈夫。ボク達ニハ、エリオット様ガ付イテル」
「その権限か……」
井辺も詳しいことは知らないが、アクセス権限がどうの……というシステムの流用だろうか。
「どうせそこにいるんなら、このドアの鍵を掛けてても無意味なんじゃないの?」
「オートロック、サ。外側カラハ、ボクノ手デシカ開カナイケド、閉メレバ何モシナクテモ、ロックガ掛カルンダ」
「ああ、そう」
「……オット。ソロソロ、バッテリーガ切レチャウ」
50号は立ち去ろうとする直前、井辺の方を向いた。
「イイカイ?ボクハコレカラ、バッテリーヲ交換シテクルケド、戻ルマデオトナシクシテルンダヨ?」
「はいはい」
片言の機械喋りをする50号機は鉄パイプを持って、さっき来た道を戻って行った。
閉まった途端、電子ロックの掛かる音がしたので、例えこの牢屋から脱出しても、結局あのドアを開けなければならないだろう。
出て右側はそうなっているが、左側にも通路が続いている。
左側はどうなっているのだろうか。
井辺は何とか格子の隙間から顔を出して、左を見てみた。
すると、向こう側にもドアがあるようだ。
右のドアは赤ランプが点いていて、いかにも電子ロックされてますよといった感じ。
しかし、左側は普通の鍵なのだろうか。
電子ロックらしい機器は見受けられなかった。
(まずは何とかしてここを脱出しないと……。そうだ!)
ここで井辺は一計を案じた。
(なるほど。これはもしかしたら、上手く行くかもしれない……)
まずは井辺、粗末なベッドを壊した。
何回か蹴っていたら、鎖が外れて床に落ちたのである。
「あとは……」
それから30分後。
ずんぐりむっくりした体型の50号機が、バージョン3.0の短所である、のっそりとした足取りでやってきた。
「ン?」
すると50号機は、牢内の異変にすぐに気づいた。
両目をギラリと光らせ、壊れたベッドを直視する。
「アアッ!?ベッドヲ壊シタァ〜!」
そして、扉を開けて中に入って来る。
「直サナキャ!エリオット様ニ怒ラレル!!」
井辺のことはそっちのけで、急いでベッドの修理を始めた。
井辺の作戦は、見事成功した。
ベッドに気を取られ、ドアを開けっ放しにしている。
井辺は急いで牢屋から出ると、ドアを閉めたw
「ン?……ン?……ンンっ?!」
最初、50号は何が起きたのか分からなかったようだ。
だが、首を360度横に回転させて、やっと気づいたようだ。
「アアッ!サテハ逃ゲル気ダナ!?ソウハサセナイゾ!!」
50号機は手持ちの鉄パイプで思いっ切り、何度もドアを叩いた。
その間に井辺は左のドアに向かう。
さすがに右側のドアは、相変わらず電子ロックの赤ランプが点いていたからだ。
だが、ここも鍵が掛かっていた。
が、よくドアノブを引っ張ってみると、鍵が掛かっているのではなく、ただ単に立て付けが悪くなって、ドア枠に引っ掛かっているだけのようだ。
「開け!開いてくれ!!」
そうしているうちに、牢屋のドアが壊された。
「ハハハハハハハ!ソノドアハ壊レテルンダ!逃ガシハシナイゾ!」
だが、井辺とて小柄な体型ではない。
持ち前の腕力で、何とかこじ開けることに成功した。
ドアの向こうはちょっとした資材置き場になっていた。
更に向こうにはドアがある。
そのドアも鍵は掛かっておらず、素直に開いた。
「!?」
その先は素掘りの洞窟のような空間になっている。
そして、水の流れる音がした。
地下水脈に繋がっていたのだ。
その手前にはフェンスと、水路の所まで直接行く木製のドアがあった。
井辺はフェンスを乗り越えて、水路の所まで行く。
「ハハハハハハハハ!ソコハ行キ止マリダヨ!」
だから鍵が掛かっていなかったのか。
この木製のドアにも、よく見たら鍵は掛かっていなかった。
「ううっ……」
50号機は近づいてくると、手持ちの鉄パイプでドアを何回か殴り付けた。
が、先ほど牢屋のドアを壊すのに使ったせいで、折れ曲がっていた。
「コウナッタラ……!」
50号機は鉄パイプを捨てると、大きく後ろに下がり、
「ウオオオオオオオ!!」
一気にドアに体当たりした。
ドアはメチャクチャに壊れ、50号機は井辺のいる縁まで来た……かに見えた。
「ワアアアアッ!?」
勢い余って、そのまま水脈に転落した。
「……え?」
多くのバージョン・シリーズは生活防水しか施されていないと井辺は聞いたことがある。
実験用として海水にも耐えられるように施された4.0は一部存在するものの、本格的に潜水までできるようになったのは、最新モデルの5.0である“マリオ”と“ルイージ”だけだそうだ。
ということは……。
50号機は水脈に流されて行き、そして沈んだ後、2度と上がって来ることはなかった。
「御愁傷様です」
井辺は50号機が流されていった方向に向かって一礼すると、しょうがないので牢屋に戻って来た。
「!」
と、同時に電子ロックされていたドアが開いた。
「!?」
そのドアの向こうから来たのは……。
「う……」
井辺はまた意識を失っていたようだ。
目が覚めると、再び牢屋の中に入れられていた。
そのベッド(壁からチェーンで吊っている粗末なものだが)の上に寝かされていた。
起き上がって、自分の体を見てみたが、特に機械化された様子は無い。
確かエリオットに連行されて地下へのエレベーターを降りた時、突然眠くなったのだ。
催眠ガスが噴き出ていたらしい。
エリオットは人間ではないのか、一緒にいても大丈夫だったようだ。
最初の地下牢とはまた違った構造をしているので、別にまた地下牢があったのだろう。
因みに、今度は扉に鍵が掛けられていた。
「シー君?シー君、いるかい?」
しかし、シーの声はしなかった。
一緒に捕まってしまったのか?それとも……。
「ん?」
廊下は薄暗い。
だが、ドアの開く音がしてその時だけ明るくなる。
何やら足音が聞こえて来た。
「あっ!?」
それはバージョン3.0だった。
両目をライトのように光らせて、自分の進行方向を照らしている。
そして、手には金属バットのような鉄パイプを持っていた。
「オヤ、気ガツイタノカイ」
「喋れるのか?すると、キミは46号機ではないな?」
「アア。アノぽんこつネ。ボクハ50号。エリオット様ノ忠実ナ下僕サ」
「ということは、キミの任務は……」
「ソノ通リ。キミヲ、ココカラ出サナイコトダ」
「ううっ……!」
「今、エリオット様ハ色々ト準備デ忙シイ。ソレガ終ワルマデ、ココデオトナシクシテルンダヨ?サモナイト……」
3.0は太い鉄パイプを振り上げた。
「ロボットに命令される人間か……。なるほど。鷲田警視の懸念が、ここで当たってしまったわけか」
「鷲田警視?」
「ちくしょうっ!!」
クールな井辺もついに爆発し、粗末なベッドを蹴り上げて八つ当たりした。
「オイ、ヤメロヨ!ベッドガ壊レルダロ!!」
「うるさい!」
もう1回蹴り上げる。
甲高い金属音がし、眩い光に照らされた。
50号が鉄パイプで牢屋の鉄格子を叩き、両目をハイビームにして井辺を照らした。
「ココノ設備ヲ壊シタラ、ボクガ怒ラレルンダゾ!イイ加減ニシロ!!」
「……銃火器も装備できない旧型ロボットが!」
「何カ言ッタカ?」
「……銃火器か……。なあ、ちょっと」
「何ダ?」
「外部から、色々と電波が入っていないか?……マルチタイプの姉妹さんからとか?」
「1回アッタンダケドネ、エリオット様ガ遮断シテクレタヨ」
「やっぱりか……!」
エミリーとシンディによる『呼び掛け』はあったらしい。
だが、いち早く気づいたエリオットがこの洋館のロボット達に対し、彼女らの命令が聞けないよう、シャットアウト措置をしてしまったようだ。
「マルチタイプはキミ達の上位機種だろ?逆らったら、マズいんじゃないのかい?」
「大丈夫。ボク達ニハ、エリオット様ガ付イテル」
「その権限か……」
井辺も詳しいことは知らないが、アクセス権限がどうの……というシステムの流用だろうか。
「どうせそこにいるんなら、このドアの鍵を掛けてても無意味なんじゃないの?」
「オートロック、サ。外側カラハ、ボクノ手デシカ開カナイケド、閉メレバ何モシナクテモ、ロックガ掛カルンダ」
「ああ、そう」
「……オット。ソロソロ、バッテリーガ切レチャウ」
50号は立ち去ろうとする直前、井辺の方を向いた。
「イイカイ?ボクハコレカラ、バッテリーヲ交換シテクルケド、戻ルマデオトナシクシテルンダヨ?」
「はいはい」
片言の機械喋りをする50号機は鉄パイプを持って、さっき来た道を戻って行った。
閉まった途端、電子ロックの掛かる音がしたので、例えこの牢屋から脱出しても、結局あのドアを開けなければならないだろう。
出て右側はそうなっているが、左側にも通路が続いている。
左側はどうなっているのだろうか。
井辺は何とか格子の隙間から顔を出して、左を見てみた。
すると、向こう側にもドアがあるようだ。
右のドアは赤ランプが点いていて、いかにも電子ロックされてますよといった感じ。
しかし、左側は普通の鍵なのだろうか。
電子ロックらしい機器は見受けられなかった。
(まずは何とかしてここを脱出しないと……。そうだ!)
ここで井辺は一計を案じた。
(なるほど。これはもしかしたら、上手く行くかもしれない……)
まずは井辺、粗末なベッドを壊した。
何回か蹴っていたら、鎖が外れて床に落ちたのである。
「あとは……」
それから30分後。
ずんぐりむっくりした体型の50号機が、バージョン3.0の短所である、のっそりとした足取りでやってきた。
「ン?」
すると50号機は、牢内の異変にすぐに気づいた。
両目をギラリと光らせ、壊れたベッドを直視する。
「アアッ!?ベッドヲ壊シタァ〜!」
そして、扉を開けて中に入って来る。
「直サナキャ!エリオット様ニ怒ラレル!!」
井辺のことはそっちのけで、急いでベッドの修理を始めた。
井辺の作戦は、見事成功した。
ベッドに気を取られ、ドアを開けっ放しにしている。
井辺は急いで牢屋から出ると、ドアを閉めたw
「ン?……ン?……ンンっ?!」
最初、50号は何が起きたのか分からなかったようだ。
だが、首を360度横に回転させて、やっと気づいたようだ。
「アアッ!サテハ逃ゲル気ダナ!?ソウハサセナイゾ!!」
50号機は手持ちの鉄パイプで思いっ切り、何度もドアを叩いた。
その間に井辺は左のドアに向かう。
さすがに右側のドアは、相変わらず電子ロックの赤ランプが点いていたからだ。
だが、ここも鍵が掛かっていた。
が、よくドアノブを引っ張ってみると、鍵が掛かっているのではなく、ただ単に立て付けが悪くなって、ドア枠に引っ掛かっているだけのようだ。
「開け!開いてくれ!!」
そうしているうちに、牢屋のドアが壊された。
「ハハハハハハハ!ソノドアハ壊レテルンダ!逃ガシハシナイゾ!」
だが、井辺とて小柄な体型ではない。
持ち前の腕力で、何とかこじ開けることに成功した。
ドアの向こうはちょっとした資材置き場になっていた。
更に向こうにはドアがある。
そのドアも鍵は掛かっておらず、素直に開いた。
「!?」
その先は素掘りの洞窟のような空間になっている。
そして、水の流れる音がした。
地下水脈に繋がっていたのだ。
その手前にはフェンスと、水路の所まで直接行く木製のドアがあった。
井辺はフェンスを乗り越えて、水路の所まで行く。
「ハハハハハハハハ!ソコハ行キ止マリダヨ!」
だから鍵が掛かっていなかったのか。
この木製のドアにも、よく見たら鍵は掛かっていなかった。
「ううっ……」
50号機は近づいてくると、手持ちの鉄パイプでドアを何回か殴り付けた。
が、先ほど牢屋のドアを壊すのに使ったせいで、折れ曲がっていた。
「コウナッタラ……!」
50号機は鉄パイプを捨てると、大きく後ろに下がり、
「ウオオオオオオオ!!」
一気にドアに体当たりした。
ドアはメチャクチャに壊れ、50号機は井辺のいる縁まで来た……かに見えた。
「ワアアアアッ!?」
勢い余って、そのまま水脈に転落した。
「……え?」
多くのバージョン・シリーズは生活防水しか施されていないと井辺は聞いたことがある。
実験用として海水にも耐えられるように施された4.0は一部存在するものの、本格的に潜水までできるようになったのは、最新モデルの5.0である“マリオ”と“ルイージ”だけだそうだ。
ということは……。
50号機は水脈に流されて行き、そして沈んだ後、2度と上がって来ることはなかった。
「御愁傷様です」
井辺は50号機が流されていった方向に向かって一礼すると、しょうがないので牢屋に戻って来た。
「!」
と、同時に電子ロックされていたドアが開いた。
「!?」
そのドアの向こうから来たのは……。