新菜の一家は「ま、いいかぞく」一家だ。
テレビ局のアナウンサーだった父は、単身赴任で全国を転々としていたが、家族そろって暮らしたいと仕事をやめ、森にあるペンションを買い、新しい生活をスタートさせる。その名も「ペンション・アニモー」。
新菜は、アルプスのハイジのような屋根裏部屋を自分の部屋としてもらう。
このプロローグで、子供たちはもううっとりと新菜の気分になるだろう。
光丘真理さんは、専門学校で若い人達に指導していらっしゃるほどの方。描写は押し付けることなく、説明することなく、読者に森の中に建つペンションを思い描かせる。
そして、最初のお客さんが来る。
でも、あれれ、このお客さん、どこか変。新菜には、最初その人がクマに見えたのだ。しかも・・・。「ま、いいかぞく」の両親は「考えすぎよ」と取り合わない。「生きているものは同じように命と心を持っている。みんな、地球の兄弟なんだよ」とまで言う。
でもでも、次々とくるお客さんは、やっぱり・・・。
中学年くらいの子供が、「あれー、このお客さんってもしかして?」「あ、でもそうじゃないのかな」なんて思いながら読む姿も想像できる。
読み終えたとき、森のすがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込んだような気持ちになる一冊だ。
光丘さんは、普段から童話の種を見つけては、ご自分のまわりの土に植え、大事に大事に育ててらっしゃるのだろうなあ。そして、育ったものを取り合わせてこのような一冊に仕上げてらっしゃるのだろうなあ。うん、童話における「緑の指」を持ってる方なのだ。