高学年以上向け
高田由紀子さんの新刊です。『まんぷく寺でまってます』(ポプラ社)でデビューされたのが、ついこの前のような気がするのに、あれよあれよと売れっ子作家になってらっしゃる高田さん。これまでは故郷佐渡を舞台とした作品でしたが、今回のは、場所は特定されていません。
大阪からおばあちゃんが引っ越してきて、いっしょに暮らし始めるという設定です。おばあちゃんは、おしゃれでかっこいい人だったのに、脳梗塞になり体に麻痺が残っています。
ああー。この状態。今、日本中いたるところで、起きていることでしょう。だからこそ、今回は、場所の特定ではなく、読者の身近なところでの物語になっているのです。
おばあちゃんは、鬼ババみたいに、意地の悪いことを言ったり、リハビリをさぼろうとしたり、夜中におねしょをしたり・・・。主人公あかりは、とまどい、腹を立て、悲しくなり・・・。
ビターステップというタイトルが、この家族の今後の有り様を示しています。
ちょっとおしゃれで、でも、ほろ苦いという意味があって・・・。いいタイトルです。タイトルは、大事。このタイトルは作者がおつけになったのか、編集者さんなのかはわかりませんが、もし編集者さんがおつけになったとしても、それを引き出す内容があったからこそ。高田さんご自身がつけたタイトルだとしたら、「さすが、売れっ子作家!」という感じ。
私自身、年齢的にはおばあちゃんに近づいているとも言えるし、まわりには親の介護を抱えている人達がたくさんいます。施設の急増は、この本のように家で介護というのが消えつつある現状でしょう。
でも児童文学は希望を語ってよいのです! 現実ではなかなかできない、家族の中に高齢者がいるという状況を、本の中だけでも残していき、子ども達に体験してもらえるんだなとも思いました。もちろん、あかりの家のように、お年寄りと暮らしている家庭もまだまだあるでしょう。子どもが、人が老いる姿に接することができるのは、幸せなことです。誰しも通る道なのですから。
高田さんの文章は丁寧で、すらすらと読むことができます。すらすらと読めすぎて、現実はもっと大変だよなと感じてもしまうのですが、いいえいいえ、ちゃんとその大変さも、書かれています。老いの負の部分を、軽いタッチで描けるから、子どもにも届く本になっているのだと思います。