このところ、学校を舞台に、誠実な作品を立て続けに出されている工藤純子さんの新刊です。
冒頭、放課後で起きた事件。仲が良かったはずの男子グループの一人颯人が、その場にいなかった清也のランドセルに金魚のエサを入れます。
「それ、持ってこいよ」「それ、開けてくれる」「早く閉じろ」颯人に言われ、そこにいた連たちは、その「いじめ」をしたグループとなってしまう。このやり方、直接相手を傷つけることなく、素早くでき、陰湿です。
清也の家で、母が先にランドセルを開け、このいじめはすぐに発覚。学校に知らされ、担任は、彼らを呼んで問いただしますが、軽く仲直りをさせ、事を終わらせました。でも……。
颯人、連、清也、それぞれの視点で物語は語られます。担任の原島先生もまた、かつていじめをしていた側だったという過去があり、その事実を否応なくつきつけられます。
クラスメートの女子は、何か起きそうだったのを察知して逃げ、傍観者になった自分を責めます。
それぞれが、悩み苦しみ、立ち向かう。
そのそれぞれを、工藤さんはしっかり支え、書いています。
見えないところで行われているかもしれないいじめ。たいしたことではないと片付けられたり、形式的に謝って終わりにされたり。
今もどこかで、ある出来事なのではないでしょうか。
楽しいだけの学校生活なんてない。生きていれば、いろんなことがある。人間関係は難しい。難しいからこそ、逃げずに・・。ああ、でも逃げることも時には大事。
いろんなことを考えさせられます。
この本を読んだ大人も子どもも、みんながそうだと思います。
表紙は、ミニチュア作家田中達也さんの造形。ガラスの水槽の中の教室で、一人たたずむ少年がいます。
工藤さんの渾身作、ぜひお読みください。
私ももう一度読み返します。
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