澄んだ声が響く朝は、
消えた。
おはようございます。
この季節になると、朝は決まって、
澄んだ声が響いていた。
声が響く時刻はとても正確で、それを見計らって、
ベランダからひっそり、小川を見張っていると、
澄んだ声を響かせながら水上を走る青い光が見えた。
カワセミだ。
小川の流れを伝って行けば、
広い川へとたどり着く。
たどり着けば、休む間もなく、
その日の糧を得るために川へ飛び込む。
腹が満たされたら、ようやく羽根を休めるのだ。
水の流れる音の中、小枝に佇んでいると、
風に吹かれて草木の擦れる音がして、
一旦、あたりを見回した。
いつもの事かと安堵して、羽根の手入れをしていると、
今度は、川沿いの細道に近づく人の気配に気づき、
小枝から飛び立つ。
そして、カワセミは、小川を伝って帰って行った。
川の向こうに広がる原っぱには、
シロツメクサが咲き始め、
色とりどりの虫たちが集まってきた。
毎年変わらぬ、この風景に、
今年、カワセミの姿は登場しない。
カワセミの棲み処だった場所は、
あっという間に、人間の住処になっていた。
澄んだ声が響く朝は、消えてしまった。
川沿いの原っぱも、車の通れぬ細道も、
いずれは無くなる予定だそうだ。
シロツメクサが咲く朝も、
草木の擦れる音も、集う虫たちの姿も、
いつかは消えてなくなっていく。
この土地は、人しか住めぬ土地になる。
私は、何年も「カワセミの姿をカメラに収めるぞ」と試みてきた。
ますます開発が盛んになる中、祈りながら試みてきたが、
とうとう、それは叶わなかった。
せめて、あの青い鳥が見てきただろう風景を、
撮っておきたくなったのだ。
ついでに、いつ撮っても、
絶対こっちを見てくれない、亀たちは・・・
やっぱり、こっちは見てくれないんだよね~。
私達は、この星を守ってなどいない。
守られているのは、私達なのだという事を、
決して、忘れてはいけない。