いつだったか、
仕事中に母さんから電話があった。
おはようございます。
「ほい、わし、薬がどうかなってまってよ。
夕方に病院行って、聞いたろか思うんやけど。」
母さんは、滅多なことで、連絡はして来ない。
近所に住んでるくせに、自分からは頼ろうとしない。
自由を愛し束縛を嫌う、鼻っ柱の強い性格だ。
昔から、行きたい所は、いつだって一人で行く。
それが珍しく電話をよこすんだから、よほど不安になったんだろう。
どの薬を、いつ飲んでいいか、
ある日突然、分からなくなったんだから無理もない。
母さんは、軽いアレルギーがあるのだが、
それが季節によって、少し酷くなる。
そこで、病院の先生に鼻炎の薬を追加してもらったらしい。
ところが、その追加によって、頭が混乱してしまったようだ。
「今ね、わっかりやっすい表を作ってるから、
明日、それを見れば分かるでな、ちょっと待ってて。」
ということで、
急遽、これを作った。
それを持って実家へ行くと、母さんはえらく喜んだ。
「ほっほぉ。こりゃ凄い!
わし、これ病院に持って行って、先生に見せたろ。
きっと、先生びっくりするで~。」
パソコンのできる人なら、
これしき、作るのに難しい訳ではないことがバレちゃうから、
やめて欲しい訳だが、突然、母さんが真顔になった。
「ほい、おかっぱ!」
「なに?」
「ここ、字ぃ間違えとる。」
自分の飲む薬はこんがらがってるくせに、
誤字を目ざとく見つける訳だ。
ついでに、几帳面な父さんが追い込む。
「おい、ここの線が途切れちゃっとるな。」
ん?
うん・・・
わっ・・・わざとじゃーい!
気付いたんか?
気付けたんやな?
よし、だったら、まだまだ、あなた達は長生きする!
わーっはっはっはー。
そんな訳で、
絶対、病院の先生に見せんじゃねーぞっと
念を押したのだった。
おたま~!
よく、窓越しに、おたまが覗いてるのが見えるって、
母さんが言ってたぞ。
おたま「ばーちゃんは、あいつ、また洗濯物が2日続けて干してあるって、
ため息つきながら見上げてるぞ。」
わっ・・・わざとじゃーい!