昨日の夜は、新月だったらしい。
おはようございます。
月のない夜だ。
新月には願い事を叶える力があるという。
夜中に目が覚めた時、私はそれを思い出した。
白い紙に、願い事を2個以上10個以内書くといいらしい。
私は慌てて、引き出しから白い付箋紙を取り出した。
夜中にぼんやり目覚めた人間など、そんな物しか思いつかない。
書こうにも、月が無い夜は暗い。
ましてや、ぼんやり目覚めた人間に、
2個以上の願い事など思いもつかないし、そもそも付箋紙だ。
願い事の代わりに思い出した、『テッシュ』と書くのがやっとだった。
ということで、
5月最後の新月に、私が願ったことは、
今日、『テッシュ』を忘れずに買うこと!と相成った。
いわゆる箱ティッシュだ。
できれば5個パックのエリエールの箱ティッシュが欲しい。
でも、ちょっと待って!
あたし、『テッシュ』って書いちゃった。
ティッシュでなくテッシュとだけ書いちゃった。
新月は、私の脱字と思惑を『テッシュ』の文字からくみ取ってくれるだろうか?
そういえば、まだ新月の願いなど知らなかった頃、
私はある夜、まん丸い月に本気で願ったことがあった。
チビと名付けた、大きなキジトラの猫のことだ。
勤め先の倉庫に、段ボールに入れられて3匹で捨てられていた。
それは19歳の時で、その3匹は私が産まれて初めて抱いた猫だった。
家には猫が大っ嫌いな母が居り、連れ帰ることは叶わなかった。
私は、あの猫らのおかげで、
その日から無遅刻無欠勤の模範社員となり、おまけに休日も通う羽目となった。
当時付き合っていた男もいたが、休日のデートは午後4時までだ。
午後4時には、会社の倉庫で待つチビらにご飯をやらなければならない。
食べさせたら、膝に乗せて、充分に撫ぜて安心させてやると決めていた。
そんな当時の私は、いわゆる『けばい女』だった。
マイクロミニスカートにハイヒールを履き、
口紅は赤いどころか、もはやシルバーだった。
ラメラメのシルバーの口紅だ。
今思えば、口元がシルバーだなんて、信じられない!
だから男も、私の門限が4時だなどと、信じられない訳だ。
「スカートからパンツ見えるのカッコ悪いから、あたし、ノーパン!」
と豪語するシルバーの女を信じられる訳ないのだ。
「どうせ、他にも男がいて、遊びまわってんだよな、おかっぱは」
と言われるのが常だった。
しかし、男の発言は、ある意味間違っていない。
チビを含む3匹とも、オスだったのだから。
その後、2匹は貰われていったが、
どういう訳か、一番小さくて泣き虫のチビは、残ってしまった。
それでも、私は相変わらず無遅刻無欠勤で通った。
けれど、ある日、チビは忽然と姿を消した。
大きさは、生後4~5か月に育っていただろうか。
周りの人は
「懐っこいから、誰かに拾ってもらえたんだよ」
と言ったが、私は狼狽えた。
探し回ってから、呆然としたまま帰宅した頃、窓からはまん丸い月が昇っていて、
私は窓辺にうな垂れ、月を見上げた。
「お願い。お願いします。チビを返して。」
私にとって、チビはかけがえのない存在になっていたことを
あの時、改めて思い知った。
お化粧も派手な洋服もブランド物のバッグも、もうどうでもよかった。
あんなに本気で、何かを願ったことも、あれが初めてだった。
その後、満月はどんどん欠けていき、月は消え、
そして再び、まん丸に戻った頃、
なんと、チビは、まるで月のようにまん丸に太って帰ってきた。
シャンプーの香りをプンプン漂わせていた。
それを機に、私は家へ連れ帰った。
チビは晴れて、我が家の猫となったのだ。
満月の願いは、あの猫が大っ嫌いな母の気持ちをも動かしてしまった訳だ。
しかし、一つだけ、後悔が残っている。
あの夜、チビにシャンプーをしてくれていた人は、
月にチビのことを願っていたかもしれないということだ。
チビは、13歳までのんびりと飼い猫として生きた。
そのことを、その人に、知らせたい。
だから、満月になると、私はたまに、ふと思い出すのだ。
さて、我が家の猫達は
前の記事で、この状況を心配してくださっていた皆さん。
「そこ、あやさんの場所だけど、その後大丈夫だったかしら?」
そう心配くださった皆さんに、その後をお伝えします。
はい、こうなりましたよ~。
たれ蔵は、眼を閉じたまま、闇雲に反撃してたけど、遅いよね。
慰めの撫ぜ撫ぜ、しておきました!