昨日の朝、マンションのエントランスに、
蜂が巣を作り始めていた。
おはようございます。
あれは、アシナガバチか。
「そこではダメ。人間に見つかるぞ。」
まだ小さい巣だったから、今のうちに壊した方がいいだろうが、
私はせっせと巣作りに励む蜂を見過ごして、いつものように実家へ向かった。
寝起きのかずこさんは、食卓でお茶を飲んでいた。
そして、素晴らしく煌びやかな洋服を着ていた。
黒地にラメの柄が入った、かずこさんのお気に入りの服だ。
なんだか、女王バチを思わせる出で立ちだ。
「また、それ着て寝てたの?ダメじゃんか!それはお出かけ着だから。」
最近、かずこさんはどういう訳か、
その服を寝巻替わりにして就寝してしまうようになった。
「これ、さらっさらで気持ちええんや。」
「さらっさらの寝巻なら、この前買ってきたでしょうが。
それを着て寝てよ。」
私は、そう言い放ち、すぐさま、かずこさんの寝室へ向かった。
買った寝巻は、そうそう簡単には見つからない。
タンスの引き出しを片っ端から引くが、買ったばかりの寝巻は発掘できない。
「どこにしまい込んだ?ねえ、お願い。どうしてよ。」
私は、その寝巻を買うのに、
何軒も店を回り、いくつもの通販サイトに目を通し、
吟味に吟味を重ねて手に入れたのだ。
かずこさんに気に入ってもらえるように選び抜いた物だ。
自分の服に、そんな労力を使ったことなんてない。
それなのに・・・それなのに・・・。
台所へ戻ると、
女王バチみたいなかずこさんは、体温計を覗き込んでいた。
「35.8度。普通やな?」
「そうだね、平熱だから安心して。」
とりあえず、服を着替えさせようと思い付き、
また寝室へ行き、適当な部屋着を手にして戻ると、
女王バチは、また検温している。
「ほら、これに着替えて。」
部屋着を渡し、トイレへ行って、また戻ってくると、
女王バチは着替えもせず、3度目の検温中。
「もう何度測っとる?35.8度だから!」
「ほうやな。35.8なら、ええよな?」
その時、かずこさんは女王バチのくせに、控えめな笑みを浮かべた。
私は、ふと閃いた。
かずこさんは、検温したことを忘れ、
だから何度も繰り返しているだけではない。
緊張しているんだ。
私に緊張している。
検温するという行為に拘るのは、緊張のせいだ。
出で立ちは女王バチみたいだけれど、かずこさんの中身は猫みたいだ。
新品には、なかなか慣れないし、
叱られて居心地が悪くなると、
とたんに熱心に毛繕いをする猫みたいに、検温を繰り返しているのではないだろうか。
夕方、帰宅した頃には、
エントランスのハチの巣は壊されていた。
床には、粉々になった巣が残ったままだけれど、死んだ蜂は見当たらない。
「早いうちで良かったんだよな。」
早いうちの方がいい。
その方が痛手は小さくなる。
私は、今朝もこれから、実家へ向かう。
もし、かずこさんが女王バチの姿でいたら、それはそれでいいじゃないか。
そう思うことにする。
私の固定観念なんて、早いうちにぶっ壊しておいた方がいいんだ。
そのほうが、うんと愉快だ。
そして、
女王バチどころか、アゲハ蝶みたいな寝巻、探したろう、そうしよう。
さて、これはなんだ?
のん太「これは、なんなのら?」
のん太「これは・・・」
のん太「これは、なんら?」
これは・・・
あや「あたしでしたぁ~。うふふ、のんちゃん、楽しかった?」
のん太「かかぁ、のん、怖かったんら」
あや「ちょっとぉ?!」
早いうちに、ネタをばらさないからだぞ、あやさん?!