口汚く罵り合う様子は、
世にも醜い有様だ。
おはようございます。
まるで、小川の岸に溜まるゴミを眺めているみたい。
私は、両親の言い争う姿を前に、そう感じた。
「わしは、もうあんたとなんか離婚して出てく」
「だったら出ていけばいいだろうが。とろくっさい」
母が認知症になったって、この類の言い争いは絶賛継続中だ。
何十年も続いている。
呆然自失だ。
私は、自分の精力を奪われないように、窓の外に目を移した。
月は見えない。
鮮やかな草木も、雨夜の闇に覆い隠されいる。
それもまた、美しい。
そのことを確認して、次はスマホ画面に視線を落とし
保存した画像を次々と見ていく。
淡く赤らむ空。
可憐に咲くぺんぺん草。
完璧に丸い、タンポポの綿毛。
子猫を抱く母親。
「ねえ、これ見て。これ、3年前のかずこさん」
「この頃はまだ、ババァもここまでボケとらんかったな」
父はそう言って笑った。
「ねえ、かずこさん?
この世はね、美しいもので溢れているんだよ」
それを聞いて、素っ頓狂な表情を浮かべた母に、ハッとした。
「わかった!入れ歯だわ。
そうだ、入れ歯を装着しているからだ!」
入れ歯を装着したかずこさんは、可愛くない。
俺が俺がと主張する父さんにも呆れる。
だから、こんなに醜く見えるんだ。
「そういうことなんだぁ」
私は、独りで深く納得して、
「うん、よし!ほい、喧嘩続けて。
あっ、かずこさん、入れ歯を外してから、続けてみて。」
私は、入れ歯有り無しを、検証したくなった。
入れ歯のないかずこさんは、もう何言ってるか分からない。
そうなれば、さすがの父さんも、俺が俺がと被せることは不可能だ。
「早く入れ歯を外しなさい!早く!!」
戸惑うばかりの母の口をこじ開ける勢いの私に、父も狼狽え、
気が付けば、喧嘩どころではなくなっていた。
結局、雨夜にもっとも醜く狂気じみたのは、私であった訳だけれど、
私は、可愛いと美しいは、この世の正義だと思っている。
だから、可愛いもの、美しいものを守っていれば、
この世の大方の問題は解決すると信じている。
それだけは、ブレずに主張したい。
歯の抜け落ちた老人が懸命に訴える様は、内容はどうであれ、
可愛らしくも切なく、そして美しい。
それはまるで、
ボロボロになりながら懸命に生きる野良猫みたいだ。
我が家にも、美しいものが溢れている。
そして私は、そんな美しいものに囲まれて気が気ではない。
美しいものは正義だから。
この正義を前に、私は常に試されている気分になる。
私に向けられた宝石みたいな瞳は、私の真価を問うてくる。
美しいものは守りたい。
折れるなよ、私め。
のんちゃん、なにして欲しいの?
ん?
撫ぜる?
ん?
のん太「うんとね、えっとねぇ。どうちようかな~?」
君は、本当に美しいな。
ちょっと鬱陶しいけど正義だもんな。頑張る。