一年で最も太陽が長く留まっている日、
私は、猫ベッドをひとつ捨てた。
おはようございます。
いつ買ったのか覚えていないくらい、
うんと前から置いていたベッドだった。
鼻炎持ちの猫の鼻水で酷く汚れていたが、
いつからこんなに汚れが酷くなったのかも覚えていない。
けれど、これ以上鼻水が飛び散る心配は、
もうしなくていいということは、はっきりと分かっていた。
だから、私はそのベッドを捨てることにした。
ようやく、捨てることに成功した。
死んだはずの鼻炎持ちが、
呑気な帽子を被った姿で栞になってて、それを見たら笑っちゃったからだ。
「君は呑気だな」
そう思ったら、気持ちが楽になって、
部屋の隅っこに置き去りになっていた汚れたベッドの現実がはっきりと見えた。
「汚いなぁ」
本当に、哀れなほど汚れていた。
この、呑気な帽子を被った猫が、こんな汚いベッドで寝ていただなんて嘘みたいだ。
だいたい、なんという面白い帽子を被っているんだい?
誰が被せたの?
あっ、私だ・・・。
「うんこ、これ、もう捨てるね」
そう呟いて、ベッドをゴミ袋に押し込んだ。
私は、栞が好きだ。
自分でも、いくつか作ったことがある。
そして、それは大体、なにか願いのある時に作る。
四つ葉のクローバーを見つけて、それを栞にすれば、
願いが叶うような気がするからだ。
けれど、願いが叶った記憶は無い。
だから、猫が死んだのは、栞を作って願わなかったせいじゃない。
猫は死ぬものなのだ。
神仏に跪き、滝に打たれ、万策尽きて栞を何百枚も作りながら願ったって、
猫は死ぬ。
そして、私もいつか死ぬんだ。
だけど、私は呑気な栞に願う。
「あの子らを、どうか、最期まで私に守らせて。」と。
この願いは叶うだろうか。
私は運命をへし曲げたって生き続け、
また猫は死に、あり得ないぐらい泣き、
それでもまた猫が死んでも、私は生き続ける。
最後の猫が、呑気な姿の栞になって、思わず笑っちゃったら、
その時が大願成就なのだ。
大丈夫。
とりあえず働いて、飯食って、屁こいて、寝て、
その合間に猫の頭を撫ぜていれば、
この願いは叶うのさ。
呑気なのは、猫ばかりだ。
それでいいんだ。