私だって、女ですもの。
髪を切りに行く日は、
胸が躍るのです。
おはようございます。
私は、美容院でのシャンプーに懲りていた。
家から最も近い美容院では、
シャンプーをしてくれるお嬢さんが、面白すぎたんだ。
「このぉ、ゴワゴワの髪にはぁ」と、
私の髪を触りながら何度も言う事で、
シャンプーを販売しようと頑張っていた。
「お客様の、このゴワゴワな髪」
お嬢さんったら、これを少なくとも5回は言った。
2回目までは、ゴワゴワと言われるたび、赤面したもんだか、
3回目聞いた辺りから、
お嬢さん?一つだけでいいから。
せめて、一つだけ、私のいいとこ言ってくれ~。
さもないと、この場で泣いちゃうぞ~って思ったら、
笑いが止まらなくなったんだ。
新しく出来た美容院は、シャンプーしてくれる男性が、凄すぎた。
Mr.シャンプーだった。
おそらく、30分以上は掛かっただろうか。
初めに、強めの指圧で、頭皮を刺激して来る。
私は思わず、こんな気持ちいいシャンプー、初めてですって、
口をついてしまった。
この言葉で、Mr.シャンプーのスイッチが入った。
顔にタオルが掛けられて見えずとも、
彼がノリにノッテいる事が、頭部からビンビン伝わった。
時には、活魚を抱きかかえるように、
時には、まるで頭部だけがトルネードに巻き込まれた様に、
時には、赤子を優しく撫ぜる様に。
こうして長い時間、いじくり倒された頭部の皮膚感覚は
完全に、おかしくなっていた。
もう、うんざりだ、やめてくれ!と心で叫びながら堪えていると、
それでも頭部が揺れている状況に、笑いが止まらなくなったんだ。
そんな訳で、土曜日に行った美容院は
基本シャンプーをしない代わりに、ちょっとお値打ちな美容院。
予約や美容師さんの指名もできない。
ついでに、大型ショッピングセンターの2階の奥にある。
予約の出来ぬ、お値打ちな店がゆえ、土日は混んでいる。
少しでも遅れて行けば、待ち時間はゆうに1時間を超えてしまう。
~ショッピングセンター、開店5分前~
私は、正面玄関に陣取って、待った。
ドアが開いたら、そくスタートだ。
胸の鼓動が聞こえる程に静寂だ。
~ショッピングセンター、開店~
店員さんが開けている最中からドアを滑り抜け、もちろん歩き出した。
店内を走ってはマナー違反だから、歩く。
所々で立って挨拶をして下さる店員さんに、
軽く会釈をしながらも、顔は真剣だ。
歩くフォームは、当然競歩のフォームを取り入れている。
競歩に勝る、早歩きは無いと確信して歩いていると、
右横から誰かが、小走りで私を抜き去っていった。
おい、待て!
店内で走ってはいけませんから~!!
そう、心で叫びながら、その後ろ姿を捉えて足を速めた。
正直言って、私も小走りしたかった。
悪魔は私に囁く。
(お前も、小走っちゃいなよ)って。
そんな悪魔の囁きを振り払うように、
私はさらに腕を大きく振りながら、ウォーキングフォームを整えた。
必死に追いかける、小走りの後ろ姿は、明らかに美容院へ向かっている。
こいつもか、やっぱり!
チックショー、
足腰よ、今こそ全力で立ち向かえ~!
そうシフトチェンジをした私は、
エスカレーターを1段飛ばしで上って、そいつに追いついたんだ。
横に並んだそいつも、さらに小走りが加速。
私だって負けちゃいない、合間にスキップ程度の跳ねをプラスして
必死に歩いた。
ついに、美容院が見えてきた。
その頃には、私のスネの疲労が限界だった。
早歩きってのは、スネに効いてくる。
こいつ、結構やるじゃねーか?!
少し弱気になった私の心を見抜いたのか、
そいつは、ついに仕掛けてきた。
こ・これが小走り?
これは、もう小走りのスピードではない!
負ける・・・私、負けちゃう・・・
~美容院、到着~
ドアのノブは、我々のゴールテープだ。
そのテープを握り締めたのは・・・
もちろん、そいつだった。
私は、無念の2着。
ぜーぜー息を吐きながら、
厳かに、そいつの後ろに並んだ。
負けたよ、完璧な負けだ。
私の顔は、まるで敗者の乾いた笑みのように見えたが、
実際は、前歯に上唇が張り付いて離れないからだった。
その時だ。
勝者が振り向いて私に、こう言ったんだ。
「あの、先にどうぞ。僕はその後でいいから。」
私は、思わず膝から崩れ落ちて泣きそうになった。
あんた、ええ人やなぁって。
この感動的な光景を前に、察しのいい店長は、
「あっ、受付はどちらからでもいいですが、
お二人とも、同時にカットして頂けますから大丈夫ですよ。」と。
そりゃそうだ。
美容師さん、たくさん居るものね。
ただ、私達、カップルだと思われてないか?
何も、隣合わせに座らせる事ないじゃん。
白いケープを被らされた・・・
伸びかけの・・・
おかっぱヘアーの・・・
男と・・・
女をさぁ・・・。
純粋に、恥かしかったです。
我が家も、駆け引きは繰り返されている。
あやが、おたまの座布団を狙ってる。
こう見せかて、狙ってる。
あや、ロックオン!
足をコチョコチョ!
しながらの、パンチ!
と見せかけて、おちょくる!
おたま、泣く。「ふぇ~ふぇ~」
なんだかんだ、
やっぱり仲がよろしいですな!
あや・おたま「だからぁ、仲良くないってば」
そなのね、ヒッヒッヒ。