新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領と何を交渉すべきか

2017-01-31 07:48:38 | コラム
困ったことだ、難しい時代だと思う:

22年以上の間アメリカの対日輸出を経験して感じたことは「アメリカの製造業とその経営者たちは、自国の製品こそ世界最高であり、国際市場において十分な競争力を持っている」と確信しているようだという紛れもない事実だった。そして、確かにそう言っても良い時代があった。だが、私が対日輸出を担当するようになった1970年代後半辺りからは、徐々に大きな変化が生じてその態勢は崩れ始めていた。

理由は簡単なことで、私が何度か採り上げてきた(アメリカン)フットボールの世界で1990年頃まで黄金時代を謳歌していた日大フェニックスの故篠竹幹夫監督が優勝出来なくなってから言われた「我が方はずっと同じ所に止まっていた間に、他校が強くなっただけ」が当てはまると思う。より単純に言えば「赤ん坊だって3年経てば三つになる」と言うこと。アメリカを他の新興勢力が追い抜いただけのことだった。

そのアメリカの製造業の過剰とも言いたい自信の問題点を幾つか挙げてみれば「自国(自社でも良い)の製品こそ最高」と信じていれば、買い手(輸出相手国)の需要か要求に無理に合わせてまで買って貰おうという姿勢ではなく、自社の工場を最高の効率で回るように設定されたスペックで造ったものを買えか買うのが当然」という融通が利かないというべきか、柔軟性に乏しい製造・販売の姿勢が挙げられる。

次は世界の頭脳を集めたと言っても過言ではないような研究開発部門(R&D)に惜しみなく予算を注ぎ込んで、次々に想像される世界最高のアイデイア、新製品、新技術等の開発の能力は素晴らしいのである。だが、問題点はその技術を商業化するというか現実の生産現場に下ろした際に生じる。それは労働力の質が低いことで、その点は既に1994年のカーラ・ヒルズ大使の言を引用して解説済みだ。

私はこの2点だけで十分に説明になるとすら思っている。これらの問題点を解決出来ずにいる間に空洞化も発生したし、非耐久消費財を先頭に輸入依存態勢も進んでしまったし、今やしきりに言われている「ラストベルト」なる問題も生じてきた。合法・非合法の移民による安価な労働力が既存の少数民族との間で軋轢を起こした。

こういう問題を抱えたままに21世紀に入ってオバマ大統領は「誰がやっても上手く行くまい」と言われた経済を何とか失業率が4%台に止まっているところまで持ち直させた。ここから先をどうするのかと思っていたところに、強硬な政策を掲げたトランプ大統領が就任し、早速持論を現実のものにしようと動き出した。そして、その当否は別にして、我が国の自動車産業を標的になさるようだ。それが如何なる誤解と誤認識に基づいているのかを安倍総理以下は説得されねばなるまい。

だが、問題を単に自動車産業だけに絞って語っても、アメリカの産業界というか製造業の病巣を暴くことにはならないのではないかと危惧する。「多品種少量生産か、少品種大量生産か」という問題もあれば、先方の需要に柔軟に対応するとか、極限までの合理化を更に推し進めるべきかとか、AI的な技術の一層の開発を推進すべきか等々、世界はこれまでに想像も出来なかった「何でもありの時代」に向かって突き進んでいる。テスラ―などという自動車も瞬時に古物化されるかも知れない時代だ。輸出がどうの非関税障壁がどうの等という議論は前世紀の遺物かも知れない。

敢えて言えば「論争と対立」を恐れてはなるまいということ。「こんなことは先刻ご承知だろう」と勝手に考えて省略せずに言うべきことは全て主張すべきだ。