新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

1月26日 その3 Jobについて

2017-01-26 16:53:45 | コラム
strong>肝腎な点の補足:

アメリカの製造業で会社側(サラリー制)の社員またはマネージャーは先ずほとんどが中途入社で即戦力として他社から引き抜いてきたか、ヘッドハンティングで入社させたか、社内で欠員の公募に応じたか、他業界で腕を磨いて評判となって勧誘されたか、4年制大学在学中からかビジネススクールに在学中からその会社のその事業部を目指して本部長宛に履歴書を送ってあった中から選抜されて面接を受けて採用されたかという形で、自分から公募の行列に並んで受験したなどという話を聞いたとはなかった。大体からして、そういう公募はしない。

因みに、W社の東京事務所のマネージャーたちはほとんどが他社からそのjob(=仕事乃至は職)に勧誘されて転進してきた者たちだった。募集もされていなかったし、応募した訳ではなかった。本社でも同様だ。

労働組合は会社側とは別個の存在で法律で保護されたものであるし、組合員となる為にはその資格である「カード」を保持していなければならぬと聞いた。しかし、会社側とは別個の存在の存在樽以上、私にはこれ以上の組合員の募集であるとか、採用のことについては知識はないし、知り得る機会もなかった。この「別個の存在」という辺りが、我が国の社内の組合との大きな違いである。

1月26日 その2 札様へ

2017-01-26 16:06:16 | コラム
札様

コメントを有り難う御座いました。

私が長年論じて紹介してきた日米の企業社会の文化の違い論をお読み頂いていれば" job"と「雇用」と「職」乃至は「仕事」は別物だとお解り願えると思いましたが。アメリカはオバマ政権下で失業率が下がって今や好況に近い状態。慌てて雇用促進の時期ではないようですが。しかも、空洞化やデトロイトの惨敗で自動車産業に適した労働力が残っているのかという別の案件もあります。

彼らは会社側では雇うべき「職務」や「仕事」や「地位」を決めてから募集します。jobを決めてから募集します。労組は全く別の問題です。そこを混同されたくないのです。誰でも良いから何でも良いから雇うのではありません。私の趣旨は文化比較論で、そこをマスコミが勉強不足だと論じました。

トランプ大統領が声高に唱えるJobは雇用のことではない

2017-01-26 14:27:09 | コラム
マスコミは日米間の企業の文化の違いを知らない:

トランプ大統領はキャンペーン中から“job”を増やすことを強調してきたし、それが最大のスローガンの一つだった。しかし、ものを知らない我が親愛なるマスコミは、何としたことか“job”を「雇用」と訳してしまった。明らかにおかしい。「雇用」を和英辞典で見ると“employment”と出て来るのか普通だ。それではとjobをOxfordで引けば、“work for which you receive regular payment”となっている。何処にも「雇う」とは出ていない。そこで、事改めて日米間の企業の人事と採用の違いを述べていこう。

これまでに何度も解説してきたことで、アメリカの企業、特に大手の製造業などでは我が国のように始めに新卒者を雇って教育し、使い物になるようにしてから仕事というか職というかある組織に配属する慣行というか習慣はない。勿論、銀行・証券業界のように大量に大卒者を雇用する文化のある業種もあると言っておかないと片手落ちだろう。

既に営業(稼働)中の企業で新たに人を採用する場合はといえば(1)その組織の事業が成長し営業担当者の増員が必要になった時、(2)海外進出を実行するに当たって専門の担当者を雇い入れる、(3)新規の事業部門を設ける、(4)工場を新設する、(5)リタイヤーした者の補充をする、(6)転職者が出て欠員を生じた等のような場合に、即戦力となるべき者を会社の内外から調達する等々の場合のことと考えて置いて誤りではない。要するにある仕事、職務、乃至は地位に新規採用者を充てるのである。何の当てもなく人を雇用はしないのだ。

仕事即ちjobが先にあって雇用は後から発生するということだ。このjobの難しさは、その組織の好不調、景気の変動、会社自体の業績次第で常に改編(増減)されるということにある。即ち、新規事業が予定したほど伸びなければ、いともアッサリと撤退し、そこに充当されていた人員は“Your job is terminated as of today.”という一片の通告で解雇されるし、それが社会通念で受け入れられるのが彼らの企業社会の文化である。

換言すれば、jobは会社の経営方針または事業本部長の権限により、何時でも創り出されまた彼の決断で排除される性質なのである。繰り返し言うが先に「雇用」があるのではない。トランプ大統領の指先と口先介入によって自動車産業が新規の工場を設立するようだが、そこでどのようなjobが会社側に設けられるのか、製造現場には如何なる職種の組合員が必要になるかは「やってみなければ解らない」ことではないか。更に、既に指摘したが、アメリカの自動車産業はUAWの高賃金を回避する為にも人だけではなく、AIの導入を真剣に検討すべき時代ではないのかな。最初から具体的な計画もなく数百人を雇い入れる経営者などいる訳がないのがアメリカだ。

では、jobとはそも如何なるものを言うかを具体例を挙げて解説してみよう。何年前のことだったか、シアトルのNorthwest航空(現Delta)のチェックインカウンターの前に、預ける荷物を検査する台が置かれ、数名のアフリカ系の女性が配属された。記憶ではアメリカの何処かでテロの噂があった時だった。私がその一人に「何故、こんな検査をする?」と尋ねた見た。彼女は言った“They gave me this job. But I’m not sure how long this job will last.”と、明らかに不安そうだった。事実、その荷物検査は旬日を出でずして廃止された。そこで女性は職、即ち、雇用を失ったのだ。これはjobとはかくも不安定なものだという例だ。

私が度々採り上げてきたW社の技術サービスマネージャーのL氏の初期の任務は、諸般の事情があって多発した品質問題、回りくどいことを言わなければクレーム処理の担当だった。それは、組合員の意識改革が進み、業界最高の品質を達成するまでは多忙を極めた仕事で、年がら年中我が国を含めて世界中を飛び回っていた。ところが、品質が安定し、客先のとの間の信頼関係が確立されるや、彼は一転して暇な時が出て来るようになった。

その時彼が、勿論冗談だが、真顔で「どうもこれは好ましくない状態だ。ここまで品質問題が発生しないと私の“job security”が不安になってくる」と言ってのけた。これは確かに一理ある議論なのだ。製品の質が安定し、問題が発生しないのであれば彼のような「トラブル・シューター」は必要になってしまうかも知れないのだから。だが、勿論そんなことはなく、彼は常に得意先の現場を巡回訪問し、自社の製品に対する不平不満や改良等への要望を聞いて回るという重大な項目が“job description”には記載されているのだから。

何度でも言うが、人を雇うのではない、必要次第でその職務、仕事、地位に充てる人材を捜し求めて充当するのがアメリカの企業の文化であり、習慣であり、伝統なのだ。マスコミの方々がこれを読むかどうか知らないが、間違っても“job”を「雇用」などと言わないことだ。一つの職種に数名を必要とする現場だってあるのだ。何なら現場を訪れて見学してみれば如何か。