新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

近頃一寸気になった話題を

2023-09-27 08:10:34 | コラム
「全ての硬貨には裏と表がある」と認識しておく方が:

わが国の報道機関は兎角この裏面に生じるような事態を取り上げない傾向があると思っている。そこで、今回は私が見た裏面を取り上げてみようと思う

中国のEVの墓場:
昨日だったか、例によって何処の局だったか定かではないが、一寸面白いEV先進国・中国で起きている思いがけない現象を報じていた。それは、引き取り手がなかった新車を含めて、広い野原を埋め尽くした中古のEV車の大群だった。確か充電の設備が追いついていないことの他に、価格的に軽自動車に依存する低所得層には無理な価格設定であること等が主たる原因であるようだった。間違っていたらご免。

解説ではさらに「本来ならば潰してしまうべき性質なのだが、搭載されているリチューム電池が産廃の範疇に入るので、取り出して廃棄するなり何なりの処置に費用も手間がかかるので放置されている」とあった。私はこの方面にはまるで疎いのだが、ガソリン車からEVに移行するとこういう問題が生じるのかと思って聞いていた。このような問題が我が国でも生じる可能性があるのかどうかも知らないが、先進国・中国では既に「EVという硬貨の裏面」が見えていると受け止めた。

処理水放出の後に:
これはYahooニュースで見たと思う件。それは「放出した後に残るタンクの始末と、ALPSが分離処理した放射能を含む残渣の処分法が、未定ではないのか」となっていたと思う。そう言われてみれば、タンクの数や残渣の量も問題になるだろうが、何処で誰がどのように処理するかは、容易ではない案件ではないかと思わせられた。今日までに使用済み核燃料の処理に苦労してきたことを考えれば、処分には同様な難しさが生じるのではないかと考えた。

処理水の放出には中国の支離滅裂な反対を覗けば、現在の所までは恙なく進行しているのは大変結構だと思う。政府も東京電力もこのタンクと残渣の処理という硬貨の裏面にも充分に考慮した放出だったと希望的に受け止めて、ニュースを見ていた。充分に処理していないかもしれない「水」を放出している他国はどのような姿勢で対処しているのだろう。彼らとても「硬貨の裏面」を知らないはずはないだろう。

余計なことかもしれないが:
我が国は世界で最高の古紙の回収と再生の率を記録している環境保護の優等生なのだ。製紙業界の方でなくても新聞や段ボール箱の回収率が高いことはご存じだろうと思う。だが、我が国とアメリカの紙パルプ業界で40年も過ごしてきた私が言いにくいことを言えば、「全ての硬貨には裏と表がある」のであって、古紙回収から再生にも一般的には見えてこない裏面があるのだ。

その辺りを武田邦彦教授の言葉を借りれば「業者は古紙を回収してエネルギーを消費して処分場に運び、そこで分別し梱包する。そして古紙を集めて再生する設備がある製紙工場に納入する輸送費が生じる。ここまでで人件費、輸送費、人件費を含めた分別の費用に加えて、業者の利益が上乗せされる。製紙工場では古紙を処理する設備を365日24時間稼働させないとコストを回収できない性質。そこには燃料代と人件費がかかるのは当然。故に、古紙を再生して作るパルプは「タダ」ではないどころか、かなりなコストがかかっている」となるのだ。

ではあっても、使用済みの紙・板紙は、可能な限り回収して再生する必要があるのは(何も環境の保護の必要性からだけではなく)疑いもないことなのだ。だが、トラック業界の「24年問題」が大きな話題になっていることが示すように、輸送費を押さえ込んでいてはならない時が来ているのだ。だから、古紙を回収して処理して輸送するコストも上昇せねばならないのだ。だが、その値上げがすんなりと受け入れられる経済情勢かどうかも考慮せねばなるまい。

製紙業界にいた身から言わせて貰えば、古紙再生設備を365日フル稼働させるだけの古紙を回収する為にはその組織も必要だが、それにかかるコストも計算しておかないことには利益など出てこない危険性がある。我が事業部では使用済み牛乳パックと紙カップの回収再生をワシントン州知事に要請されたことがあった。副社長は「採算が取れない」と承知で受け入れて、プロジェクトを開始した。

だが、古紙再生機(パルパー)をフル稼働させる為には遙か南部のカリフォルニア州までトラックを走らせねばならなかった。結果を言えば「大赤字」だった。そこで州知事に「我が社は結果的にトラック運賃を再生していたことになりました」と報告して「古紙回収再生という硬貨の裏面には何があったか」を詳細に解説して納得して貰った。

要するに副社長は「使用済みの如何なる材料でも回収して再生する為には、コストがかかるものであるので、そこまで考慮して取り組むべきである」と説明して「使用済み製品の回収と再生という硬貨の表面にはメリット(誤ったカタカナ語で価値乃至は長所の意味)があるようだが、そこにはコスト上昇の裏面がある」と報告してプロジェクトを止めさせたのだった。