杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

日本で一番美しい米

2008-02-06 21:06:00 | しずおか地酒研究会

 朝一番で、磯自慢酒造の大吟醸麹造りの追加撮影に行ってきました。杜氏・多田信男さんの〈神業〉をトコトン追いかけたいという私の思いに、カメラマンの成岡正之さんが応えてくれて、45%精米の米数粒まで接写できる凄いレンズと、熱を出さないLED源ライト、タバコほどの大きさながら丸1日保つ高性能バッテリーを装填したハイビジョンカメラで撮ってくれました。

Dsc_0055

  高温多湿の麹室の中、レンズの曇りに悪戦苦闘しながらも、カメラは、多田さんの手元から放たれる種麹が、わずかな気流に泳がされ、スーッと流れ、ある高さで粉雪が溶けるように、蒸し米の上でフワッと消える、その幻想的な光景を見事に映し出します。

  磯自慢大吟醸に使われる米は、酒米の王者・山田錦の中でも最高級とされる兵庫県東条町秋津=特A地区特等米です。ゴマ粒ほどに精米されたこの米が、丁寧に洗われ、外硬内柔の理想的な蒸し米になり、多田さんの神業によって究極の突き破精麹になる・・・アタマでは理解していたつもりですが、このカメラで、クリスタルのように透きとおって輝く蒸し米のアップを見たときは言葉が出ませんでした。さすがの多田さんも思わず「河村先生が言ってたとおりだな」と唸り、麹屋の今野さんは「真珠みたいだなぁ」と感激していました。

  

  蒸してもなお、丸く、きれいに整い、表面にぬめりも凹凸もなく、まさに麹の菌糸が1本だけ、根をスーッと下ろすことのできる状態にするには、その前段階の蒸し加減、その前の吸水加減、さらにその前の洗米加減、精米の完成度・・・どの工程も完璧でなければ不可能だという、河村傳兵衛先生の教えが、この美しい米の映像一つでスーッと胸に入ってきました。

  レンズを覗きながら、自らの仕事に手ごたえを感じているような多田さんたちを見ていたら、無理をしてでも撮影を始めてよかった、と嬉しくなり、最高の道具を用意してくれた成岡さんに感謝の気持ちで一杯になりました。優れた酒も映像も、技能(職人の技)と技術(テクノロジー)の融合の上に成り立つんだと実感します。

  今朝、カメラに収めた映像は、日本で一番美しい米の姿である、と自信を持って言いたい。早くこの感動を多くの方に伝えたいのですが、映像完成までの道は遥か遠く、ゴールはまったく見えていません…。