9日午後から10日朝にかけ、『開運』の醸造元・土井酒造場(掛川市大東町)で開催された「花の香楽会~蔵見学&日本酒講座」に飛び入り参加してきました。
『花の香』という酒は、明治初期まで旧大東町土方で造られていた地酒で、醸造元の子孫である鷲山恭彦さん(東京学芸大学学長)が、土井酒造場に依頼して昨年、復活させたもの。静岡県の新しい酒米・誉富士と地元産コシヒカリを原料に、地域の有志を中心とした楽会員が、田植えや稲刈りや酒の仕込みや酒器の製作などを体験し、地域の酒文化を再認識する活動をしています。
会員は、東京学芸大の学生やOBをはじめ、遠州全域から集まる地域おこしや地場産品づ くりの担い手たち。私は事務局杉村政廣さん(酒のすぎむら)から誘われてのオブザーバー参加でしたが、県中遠農林事務所所長の松本芳廣さん、地酒コーディネーター寺田好文さん、掛川駅これっしか処店長の中田繁之さん、旭屋酒店(浜松市)の小林秀俊さんなど顔なじみの面々もいて、すっかりくつろいで楽しく過ごせました。
古民家のモデルルームのような立派な鷲山家の囲炉裏部屋で、手打ちそばや自然薯、かまど炊きの麦飯に採れたて野菜などを肴に、鷲山さん、土井酒造場の土井清幌社長、杜氏の波瀬正吉さんらを囲み、車座になって夜通し呑んで語り合いました。
とりわけ、鷲山さんの教え子でソプラノ歌手として活躍する小田麻子さんが即興で歌ってくれた「ふるさと」に、鷲山さん(真ん中)、土井社長(左)も立ち上がって一緒に歌いだし、波瀬さんが目を閉じてじっと聞き入る姿は、滅多に見られないお宝光景でした。
この時期に蔵の外で、社長と一緒にこんなふうに呑んで過ごせるなんて、「そう滅多にはないよ」と波瀬さんも嬉しそう。土井さんとは40年来の名コンビで「社長とは裸のつきあいができる」と明言します。「真弓ちゃんがうちの蔵に初めて来たのは何年になるね?」と聞かれ、「平成元年の春です」と応えると、「わしは昭和43年だよ」としみじみ。土井社長はこの年に結婚し、当主として蔵を継ぎました。現在の『開運』の名声は、社長と杜氏の二人三脚の努力の賜物に他ありません。
現在、波瀬さんは75歳。静岡県の杜氏では、『初亀』の滝上秀三さんと並んで最高齢。「能登杜氏には自分より年上の現役がいるし、まだまだ新しい道具や機械も試してみたいし、もっといい方法はないかいつも考えているからなぁ」とツヤツヤした顔で応える姿に、過酷な酒造りの労働がすっかり板につき、身体の一部と化したような職人の背筋の通った生き方を感じました。
波瀬さんのような造り手と向き合うと、日本酒が、いや日本のモノづくりが、労働を尊び、何歳になっても向上しようとする職人の精神に支えられていることを、『吟醸王国しずおか』の映像でぜひ伝え、残さねばと痛切に思います。
「花の香楽会」の雰囲気は申し分ありませんでしたが、私にとって、この夜は、波瀬さんと『開運』を酌み交わせたことが何よりの贅沢であり、波瀬さんの現場の姿や、ふるさと能登での暮らしをぜひ映像に収めたいとお願いして快諾をいただけたことが、何よりの収穫でした。