私がプロフェショナルとして、また女性として憧れ、尊敬してやまない樹木医の塚本こなみさん(あしかがフラワーパーク園長)が、06年に出演した『プロフェショナル~仕事の流儀』に続き、NHKの番組に登場します。その道の達人が自分の母校の児童・生徒たちを訪ねる『課外授業~ようこそ先輩』。今週土曜、2月23日(土)9時30分からの放送です(24日深夜再放送)。
通常、この番組のロケは1~2日で終わるそうですが、こなみさんは子どもたちに樹木の観察日記を付けさせ、植物の成長に寄り添うことの大切さを教えようと、半年間かけて撮影したそうです。こなみさんがこの撮影に入っていた昨秋、私がこなみさんと出会うきっかけとなった(社)静岡県ニュービジネス協議会の西部部会(浜松)で『朝鮮通信使』の鑑賞会を開いてもらい、こなみさんにも観ていただくことができました。
実は、脚本執筆や撮影交渉で疲労困憊していた頃、こなみさんに「自分の能力以上のことを要求され、できて当たり前と思われ、誰にも助けてもらえず、どうしたらいいかわからない」と泣きついたことがあります。こなみさんは、自身が足利の大藤の移植を請負うとき葛藤した経験をふまえ、「能力以上だと思える仕事に挑戦することは、自分を必ず成長させるから」と私の背を力強く押してくれました。
そんな経緯もあって、こなみさんに『朝鮮通信使』を観ていただけた夜は感無量でした。そしてその夜、課外授業のロケ中だという話をうかがいました。
「ディレクターさんが在日の人なの。友人が朝鮮通信使の映画を作ったって話をしたら感心していたわよ」とこなみさん。調べてみると、金聖雄(キム・ソンウン)さんというフリーの映像作家で、2004年に在日コリアンのおばあちゃんたちの暮らしをつづった『花はんめ』というドキュメンタリー映画を自主制作しています。
こなみさんに「これも何かの縁ですから、ぜひ『花はんめ』を観てみたいですね」と話すと、こなみさんはさっそく金さんに頼んでDVDを送ってもらい、私に貸してくれました。
私が今まで観たことのある在日を扱った作品は、時代背景や人権・差別といった問題が色濃く反映された作品が多く、これもそうかな、と思って観たら、川崎の桜本という町で肩を寄せ合い、つつましく生きる在日一世の女性たちの青春グラフティー。作品全体のトーンは、陽だまりに咲いたたんぽぽのような温かさに満ち溢れていました。在日一世の両親の苦労を知って育った監督が撮る作品としては、ある意味、異色だったかもしれません。
金さんはこの作品に向き合った日々を、共著『ドキュメンタリーの力』(子どもの未来社・寺子屋新書)でこう振り返っています。
「映画[〈花はんめ〉が完成までに5年という時間がかかったのは、撮影がそれだけ楽しかったということでもある。はんめたちに寄り添ってともにした時間は、私にとって素敵な時間だった。いっしょに食べ、いっしょに歌い、いっしょに笑い、そして涙した。できることならもっといっしょにいたかった。
長く時間をかけさえすれば必ず良いものができるなんて思っていない。でもやっぱり時間をかければ、人や出来事とじっくり向き合える。迷うこともできる。撮影のたびに起こる思ってもいない偶然や出会いにゆっくり向き合える。これこそドキュメンタリーの醍醐味だろう。(中略) 花はんめが作品という形になりえたのは、私がこれまで経験したさまざまな出来事や人と人をつなぐ出会いなどが幾重にも重なったからこそだと思う。路地の片隅でそっと花を咲かせ、スクリーンの中で永遠の輝きを放つ花はんめたちを一人ひとりに届けたい。今はそんな思いでいっぱいだ」
私が『花はんめ』を観て、金さんのこの本を読んだのは、『吟醸王国しずおか』の企画や製作費の工面等で精神的に追い詰められていたときでした。この作品のおかげで、自分が、地酒と向き合ってきた20年を振り返り、これまでの出会いやつながりを大切にし、あせらず、じっくり、作ればいいんだ、と思えるようになりました。
『朝鮮通信使』の山本起也監督に、金さんのことを知っているか訊ねたら「すごい近い知り合い」という返事。人の縁って本当に不思議です。
そんな金さんが撮った塚本こなみさんの課外授業。ぜひ一人でも多くの方に観ていただきたいと思います。