杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

クレマチスの丘探訪

2009-02-18 18:46:36 | アート・文化

 昨日(17日)は東京の某新聞社の仕事で、長泉町にある『クレマチスの丘』を取材しました。庭園、美術館、文学館、レストランが集まった複合施設で、大人の文化テーマパークといった趣き。富士山や箱根山麓、沼津~三島~駿河湾が望める絶景地にあり、天気の良かった昨日は蒼い空が高く清々しく、朝は雪が降っていたという2月らしい寒さが心地よいほどに感じました。先週末の異常な暑さには参ってしまいますよね。

Photo オフシーズンとあって、庭園には花がほとんどなく、主要施設も改修工事中でしたが、その分、室内で文学や芸術の粋をたっぷり味わうことができました。

 

 

 

 初めて訪れたヴァンジ彫刻庭園美術館。前日に訪ねた静岡県立美術館のロダン館のような雰囲気を想像していたのですが、明るい館内のもと迫力ある作品がゴソッと並ぶロダン館とは違い、室内はきわめてシック。彫刻作品のために計算し尽くされた上質な空間が広がり、「静岡にこんなクオリティの高いミュージアムがあったのか…!」と唸ってしまいました。

 

 

Photo_2  ジュリアーノ・ヴァンジは現代イタリアを代表する具象彫刻家で、人間の本質をテーマにした作品を発表し続けています。ここは、ヴァンジをとことん愛する日本人コレクターが創り上げた、世界でただ一つのヴァンジ個人美術館。作品の配置、照明などはすべてヴァンジ自身が担当したというだけあって、作品同士の空間がたっぷりとられ、ライティングによって作られた影さえも作品の一部に思えるほど。作品にはヴァンジ自身の意向で解説プレートなどは極力置かず、作品名も気がつかないくらい小さく紹介されています。「アタマで理解するのではなく、観たままを感じてほしい」というわけです。

 

 

ヴァンジがつくる人の顔は、どれも左右がちょっぴりいびつ。方向によPhoto_4って違う人間のように見えたりします。人の肉体のいびつさって生命体の証拠だって改めて気付かされました。 

個々の作品もさることながら、館内空間すべてが「作品」ともいえる空気に包まれ、サロンコンサートや結婚式も行われるそうです。なるほど、この空気が、人々の感性を掘り起こし、何か創造的な行動をとらせるんですね。美術館がただの鑑賞の場ではなく、人間を能動的にさせる力の源泉なんだって、ヴァンジ自身が訴えているような、そんな素敵な空間でした。(館内写真は事務所でお借りしたものです)。

 

 

 

 

 Photo_6昼は、かの料亭青柳の姉妹店として人気の『ガーデン・バサラ』で、自腹ランチ。取材なのに自腹なの?と思われるかもしれませんが、バブルのころは食事代や交通費や拘束費なんてのも原稿料にプラスしていただけた、い~い時代もありましたが、今はどの仕事も基本的に原稿料のみ。交通費も、県内移動ではほとんどナシ。もちろん条件のいいお仕事をたくさんしているライターさんや、話を聞いて資料をもらっただけで上手にまとめるライターさんもいますが、私は条件のいかんにかかわらず基本的に体験主義。納得のいく原稿を書き上げるのに、必要であれば自腹で買ったり食べたりするのもやむなしと思っています。

 

 

 ガーデン・バサラのオーナー小山裕久さんとは、2004年の浜名湖花博で庭文化創造館のキッチンガーデンでご一緒し、小山さんは秋の月見の庭のコンセプトにあった創作料理を実演披露し、静岡の蔵元を季節の庭ごとに招いてテイスティングを楽しむ企画を担当していた私は、静岡の酒と小山さんの料理の共演をお手伝いした、という縁。クレマチスの丘にバサラの姉妹店を出店したと聞いて、一度はうかがわねばと思いつつ、なかなか機会がなく、今日まで来てしまいました。

 

 

 今回の取材では、ガーデン・バサラを紹介するスペースは写真と数行のコメント枠しかなく、営業案内だけで終わってしまうので、わざわざ試食しなくてもよかったのですが、花博のご縁があったのと、やっぱり一般客としてテーブルに座り、外の景色を眺め、スタッフのサービスを受けてみて初めてわかる価値、というものがあるんですね。

 ランチコース2800円。もしかしたら沼津の港周辺ならもっと安くてボリュームのある新鮮な魚料理が食べられたかもしれませんが、ヴァンジ芸術の余韻をひきずりながらいただく食事とサービスは、かくあるべきだと思える上質な時間を過ごすことができました。優雅にランチするマダBasara_alcohol_001ムたちの隣で、いつもの取材スタイル(ほころびたダウンジャケットにすりきれジーンズ)がちょっと恥ずかしかったけど…。

 

 

   日本酒メニューを見せてもらうと、2000円で3種類お好みをセレクトできるコースがあり、静岡の銘柄ではガーデン・バサラのオリジナル駿風(磯自慢)、喜久醉、開運が名を連ねていました。駿風はお土産にもできるそうですが、高騰しっぱなしの磯自慢人気のあおりか品切れ状態でした。(写真は事務所でお借りしたものです)

 

 

 

 

 

 

 

 食事の後は、バスでひと区間移動の距離にある井上文学館を訪ねました。作家井上靖氏が「あすなろ物語」の中で、“寒月ガカカレバ キミヲシヌブカナ 愛鷹山ノフモトニ住マウ”とうたわれたこの地に昭和48年、スルガ銀行頭取の岡野喜一郎氏が建てたもの。存命中の文学者の個人文学館は世界でも珍しいものでした。

 

 

 

Photo_5  館内には井上氏の全著作、生原稿、創作ノート、資料、文献、パネルなどが収蔵展示されています。1階フロアでは、少年期の自伝的小説「あすなろ物語」「しろばんば」「夏草冬濤」、東アジア~シルクロードを舞台にした「天平の甍」「敦煌」「楼蘭」「風濤」、登山者の滑落事故を通して企業の製造者責任を鋭く突いた「氷壁」、大河ドラマで再ブームとなった「風林火山」など、代表作品が由縁の品々や資料とともにブロックごとに展示。こうして全作品を俯瞰で眺めてみると、この作家には子どもから年配の読者まで、それぞれの年代に読める作品があり、一生涯かけて読み通せる稀有な作家であることに気づかされます。

 

 

 

 私個人でいえば、子どものころは教科書で当たり前のように「しろばんば」を読み、中学~高校時代は歴史、とくにNHKシルクロードの影響で西域小説にどっぷりはまり、大学ではその延長で東洋仏教美術を学び、ライターになってからは詩文・短編を文章読本のごとく読みあさり、「氷壁」のような長期の調査取材に基づく社会派エンターテイメントの面白さにも魅了されたものでした。

 

 

 

 ところが、文学館の松本亮三館長によると、10数年前から国語の教科書から井上作品が消え、若い教師の中にも井上作品を読んだことがないものがいる、と聞きました。「井上靖の詩文や散文叙事詩は、松本清張や宮本輝など多くの流行作家にも影響を与えた。井上クラスの高質な日本語の文章を携帯絵文字に慣れきっている今の子どもたちに触れる機会をつくりたい」と、松本館長は、心ある国語教育の先生たちと交流を重ね、読書感想文コンクールでは学校をあげて井上作品に取り組んだ高校も現れたほど。また「しろばんば」「夏草冬濤」の洪作少年が歩いた道を文学散歩コースとして広く紹介する活動も県東部~伊豆地区の人々と続けています。

 

 

 

 

クレマチスの丘のすぐ近くにある静岡県立がんセンターの山口建総長は、井上氏が築地の国立がんセンターに入院されていたとき、隣室の患者の担当だったとか。プライバシー尊重という医師の職業倫理から、氏に直接お目にかかることはなかったそうですが、数年後に縁あって静岡に赴任し、すぐ近くの文学館で氏の絶筆とされる「病床日誌」と出会い、その言葉を医師として重く受け止めた、と文学館会報誌につづっています。

 

 

Img_4118_01  がんセンターには入院患者さんのための図書館があり、「あすなろ図書館」の愛称で親しまれています。文学館には患者さんやその家族もよく訪れるそうですが、館内に展示された「病床日誌」をどんなふうに読まれるんでしょうね。

 

 

 

 

 それにしても、井上氏の手書き文字は、フォントの丸文字系のように親しみやすく読みやすいんですね。スタッフの德山加陽さんによると「修正や赤字を入れる時も、とても丁寧で読みやすいんです。井上先生が新聞記者の出身で、原稿を読む編集者や校正担当者の立場をよくおわかりだったから」だそうです

 

 

 

 すばる3月号(1991年)に掲載された「病床日誌」のコピーを目にしたときは、そうか、これが絶筆かと頭で受信するほうが先でしたが、手書きの生原稿を見たら、やっぱり頭ではなく、心臓のあたりにズンとくるものを感じました。過去の生原稿と変わらぬ端正な文字で、「私も亦、生きている」と結んだ最後の一行。…言葉をつむぐプロフェショナルはかくありたいと思えてきます。


『朝鮮王朝の絵画と日本』展

2009-02-17 00:16:25 | 朝鮮通信使

 今日(17日)から静岡県立美術館で、『朝鮮王朝の絵画と日本』が始まりました。静岡第一テレビが開局30周年記念事業で主催し、ニュースやCMでバンバン宣伝していますよね。昨日は関係者が集まっての開会式と内覧会が開かれ、私も一足先に鑑賞してきました。

 

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 この展覧会を担当する県美学芸員の福士雄也さんに、京都の高麗美術館で偶然お会いしたのが昨年4月。当時のブログにも書いたとおり、朝鮮の花文字クリムを一緒に体験しながら、来春、静岡空港開港に合わせて朝鮮絵画展を大々的に開催すると聞いて、「ぜひ話の種に観てください」と映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』DVDをお贈りし、ダメもとで、「静岡市が作った映画だけど、せっかくの機会なので展覧会開催中に上映していただけたら」とひと声添えてみました。

 

 

 

 その後しばらくこの件では連絡がなかったので、空港の開港が延期になったので展覧会も延期かしら?と思ったり、やっぱり県立の施設で市製作の映画上映は無理か…とあきらめていたところ、昨年末に「製作元に上映許可を取るにはどうしたらいいですか?」と嬉しいメールが。すぐさま、窓口のSCV(しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアム)に話を通し、静岡市の許可を取り付けてもらいました。この時点では、よく美術館や博物館の休憩コーナーに設置してあるテレビで随時流すような扱いかと思っていたのですが、福士さんからいただいた案内を見てビックリ。プログラムに3月14日13時30分から講堂(定員250名)にて特別映像上映会とあり、山本起也監督や林隆三さんの名前もちゃんとクレジットされていて、二重に感激しました。

 

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 実際の展示物の中に、我々が撮影した絵画類もいくつか含まれるとわかり、これは作品にとって願ってもいない上映会になると嬉しさ百倍! 一人ではしゃいでいるみたいですが、やっぱり苦労して書き上げた脚本だったし、ロケ地や絵画古文書類を探して撮影の段取りを取るのもすべて担当したので、ひとつひとつのシーンに深い思い入れがあります。映画もこうして美術品と同じように作品として大切に扱ってくれることに、無上の喜びを感じます。

 福士さんとの偶然の出会いも、何かのお導きのような気がします。本当に感謝します。

 

 

 

 

 

 

 映像作品『朝鮮通信使』のおかげで、朝鮮の絵画については多少の知識が持てましたが、それも朝鮮通信使の訪日以降のこと。朝鮮王朝は14世紀末に建国し、日本とは室町時代から深くかかわっていて、室町期の水墨画にも影響の跡が確かにあって、そこから江戸期の朝鮮通信使交流時代にかけ、日本の絵画に多大な影響を与え続けていたことを、今回、地球儀的史観で実感することができました。

 

 

 

 映像作品『朝鮮通信使』の脚本では当初、通信使一行の画員(絵師)を、日本の絵師たちが憧れのヒーローを迎えるような思いで待ちわび、画法について質問攻めにしたり指南を受けたりというエピソードを入れたものの、監督に却下されたことがありました。絵画に限らず、詩や書や音楽、医学、薬学などさまざまな分野で同じような現象が見られ、限られた尺の中で、いつの、どこの、どんなエピソードを入れるかは、撮影し終わった後でも最後の最後まで悩んだものでした。

 

 日本の絵師が、実際、どれほど朝鮮の影響を受けていたか、活字の史料や研究論文をめくっただけではピンとこなかったことも、こうして朝鮮と日本の作品を並べて比較して見て、本当によくわかりました。『朝鮮通信使』は約70分の作品。せっかくのハイビジョン作品、あと30分長くできたら、絵師同士の交流エピソードを美しい映像で残すこともできたのに…と思います。

 

 

 

 私的に見ごたえがあった展示品をいくつか挙げておきます。

 第1章「朝鮮絵画の流れ~山水画を中心に」のコーナーでは、「雲山図」(崔叔昌ほか・大和文華館蔵)。保存状態がよく、クリアに見ることができました。ちなみに大和文華館(奈良市)は私が大学時代に博物館学芸員資格を取るために実習を受けた美術館で、小規模ながら中国朝鮮の美術に特化した大好きな美術館のひとつです。

 「龍虎図」(李楨・高麗美術館)は朝鮮の民画につながるような迫力とユーモアあふれる虎や龍が魅力。

 

 

 第2章「仏画の美~高麗から朝鮮王朝へ」では、朱の地に金泥や白色系顔料で描かれた「阿弥陀如来図」(岡山県立美術館委託)に目がとまりました。如来様の表情のたおやかさはもちろん、作品全体の品格と、日本の仏画にはない朱で統一された世界観に惹かれました。

第4章「民画誕生」のコーナーでは、現代感覚にも通じる文房図屏風(日本民藝館、静岡市立芹沢銈介美術館など)に魅了されました。朝鮮民画はいつ見ても絵ごころがくすぐられる楽しさがあります。

 

 

 

 お目当ての朝鮮通信使関連では、清見寺の「山水花鳥図押絵貼屏風」を久しぶりにご拝謁。『朝鮮通信使』で林隆三さんに清見寺の住職と通信使のやりとりを一人芝居で演じていただいた“洛山寺の絵を描いてほしい”の屏風絵です。思えば、最初のロケハンでわけもわからずにこの絵をいきなり見せられ、北村欣哉先生の解説も馬耳東風状態でしたっけ。

 

 

 

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 ホンモノが撮影できず、ポジ写真を借りて代用した辛基秀コレクション(大阪歴史博物館蔵)の「正徳度朝鮮通信使行列図巻」にも再会できました。展示されていた場面が国書や正使や小童などおなじみの行列シーンではなく、判事、書記など地味な?随行員の行列シーンだったので、福士さんをつかまえて「なんでここ?」と訊ねたところ、「ほら、ここに画員(絵師)がいるでしょう?画員が主役の展覧会ですからね」とニッコリ。なるほどと思い、隣の「東照社縁起絵巻」(日光東照宮宝物館蔵)に目を移すと、おなじみ清道の旗を先頭に正使や副使が端正に描かれています。

 

 正使の前に、本来なら国書を納めた御輿が描かれるはずですが、日光詣では、江戸で将軍に国書を渡した後の出来事なので、なるほど、国書の御輿はなかったわけです。この絵巻は初めて見るもので、さすが東照宮宝物館蔵の重要文化財だけあって、保存状態のよさに感心しました。

 

 

 

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 一番気に入ったのは、白隠禅師が描いた「曲馬(乗)図」。沼津の地酒・白隠正宗の大吟醸ラベルの原型になったような作品で、通信使の馬上才(馬乗りサーカス)が漫画チックに描かれていて、白隠さんの遊び心が伝わってきます。絵葉書になっていたので10枚も買いこんでしまいました。

 

 

 

 他に、映画の中で使った高麗美術館蔵の「馬上才之図」や、英一蝶の「馬上揮毫図」、葛飾北斎の「東海道五十三次・原」「同・由比」など、『朝鮮通信使』をご覧になった方には見覚えのある作品が次々と登場します。1週間ごとに展示替えするので、一度に見られないのが残念ですが、中国~朝鮮半島~日本と、絵画の世界でも大陸的なつながりがあって、アジアは一つの大きな文化圏であることを如実に実感できると思います。

 こんなに近くて影響し合っているのに、まったく異なる言語や独自の風土を堅持し、1300年代~1800年代の約500年間、大きな戦争をしなかったというのは、世界史的に見て本当に珍しい文化圏なんですね。

 

 

 静岡県立美術館の「朝鮮の絵画と日本」展は2月17日から3月29日まで。映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』の特別上映会は3月14日(土)13時30分から美術館1階講堂にて。入場無料です。未見のかたはこの機会にぜひご覧くださいまし!


男前の女性

2009-02-16 10:08:01 | NPO

 昨日(15日)は静岡県NPO情報誌ぱれっとコミュニケーションの取材で、久しぶりに熱海を訪れました。ポカポカ陽気の日曜日、しかも熱海梅園の見頃のピークとあって、大勢の人で賑わっていました。これまで熱海に取材に来ても平日やオフシーズンだったせいか、街中は閑散としていて、観光不況の代名詞みたいな空気に包まれていたのですが、昨日はホント、久しぶりに活気のある観光都市熱海の“象徴”に出会うことができました。それは、ひとりの“男前”の女性でした。

 

 

Imgp0493  お会いしたのは“スポーツを通して熱海を元気にしよう!”と活動するNPO法人熱海人倶楽部(あたみんちゅくらぶ)理事長の杉山ちなみさん。日本でも数少ない、全米アスレティックトレーナー協会(NATA)と全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)の2団体の公認資格を持つスポーツトレーナーのスペシャリストです。

 

 JOC日本オリンピック委員会本部のメディカルスタッフとして、釜山アジア大会(02年)、アテネ五輪(04年)、ドーハアジア大会(06年)、北京五輪(08年)に帯同し、女子レスリングの伊調馨選手や吉田選手を担当するなど、この世界の女性第一人者として活躍中。

 

 横浜の出身ですが、アスリートのリハビリや合宿、またご家族の治療養生などで縁のあった熱海市に居を構え、熱海の地の利を生かしたトレーニングやリハビリ合宿の企画をサポートしたり、(財)日本体育協会公認アスレティックトレーナーとして国内トップアスリートを担当し、大学や専門学校で教鞭もとっています。

 

 

 

 NPO法人熱海人倶楽部は、現役アスリートやコーチ、トレーナーなど幅広い人脈を持つ杉山さんが同志とともに08年10月に立ち上げた組織。熱海に移住してから、「温泉があって、きれいな砂浜があって、坂道や階段も多く、アスリートには理想的な環境」と熱海をスポーツ合宿やリハビリのメッカとしてアピールし続けてきた活動を、より強化し、市民、自治体、観光協会など地元に知らしめ、協働の輪を広げようとスタートしました。

 

 認証前の07年から開催し、08年秋の2回目も大好評だった体験イベント『熱海サンビーチスポーツフェスタ』には、日本代表クラスの選手や大相撲力士など70人のトップアスリートが参加し、市民とアスリートがピーチバレー、セパタクロー、シーカヤック、ビーチテニス、相撲などで汗を流し、「熱海とスポーツはこんなに深い縁があったんだ!」と多くの市民に知らしめました。

 

Imgp0492  そして昨日。熱海市観光協会が1月から3月まで展開中の“熱海温泉玉手箱=オンたま”のイベントに指定され、多くの市民ボランティアも参加した『お相撲さんと相撲体操&ちゃんこ鍋』は、過去スポーツフェスタにも協賛した千賀ノ浦部屋の親方と力士たちが、地元の子どもたちや熱海で合宿中の愛知学泉大女子バスケ部の選手たちと砂浜でシコを踏んだり走り回ったり。お昼は市民にちゃんこ鍋をふるまうなど、にぎやかな交流を行いました。千賀ノ浦部屋も熱海で治療やリハビリを行った縁で、おつきあいがあるそうです。

 

Imgp0489  イベントの責任者として走り回る杉山さんをあちこちでつかまえてはインタビュー。多忙な中でも、嫌な顔一つせず、ハキハキと明るく答えてくれる杉山さんと、サポートする副理事長の青木晋平さん(プロビーチバレー選手)の爽やかな応対に、「スポーツをやっている人、しかも世界を究めるレベルの人は、人間が出来ているなぁ」としみじみ実感しました。

 

Imgp0495  「選手の力を借りて市民参加のスポーツイベントを開き、市民の力を借りてチームの希望に応じた熱海合宿やリハビリのメニューを充実させる。そういう活動を通し、熱海がスポーツトレーニングの好適地であると認識され、多くのアスリートがトレーニングと仕事を両立できるまちにしていけたら…」と語る杉山さん。

 

 

 

 まだ自治体の補助や民間企業の強力なスポンサードがない中でも、持ち前の企画力や持てる人脈を活かして、多くの市民を動かし、熱海をスポーツで元気にするという新しい概念をカタチにして見せた杉山さんのパワー。年齢をうかがったら私と同い年。いやぁ~、久しぶりにカッコいい同世代の同性に出会えて、大いに刺激を受けました!

 


テレビ夕刊の反響

2009-02-14 11:59:55 | 吟醸王国しずおか

 今日はバレンタインデーですが、一日おこもり原稿書きで、外に出て(公私ともに)男性に会う予定もありません。ちょっと前なら、そんなバレンタインデーの過ごし方をわびしいなぁと感じたものですが、今日がバレンタインデーだということもさっきまで気づかずにいて、あ、今日は外出しないからチョコで散財せずに済むと安堵した自分に、「これが年を取って開き直るオバサン化現象か」と笑えてきます。

 

 先月24日の静岡経済同友会新年会で風邪をこじらせて以来、3週間経って、昨日やっと病院へ行きました。先生は私の年齢を見て当然のように「お子さんや旦那さんや職場の人から感染した?または感染させた?」と聞きます。「独り暮らしで個人事業者です」と答えたとき、あぁ自分のような生き方というのは、やっぱりマイノリティなんだとちょっぴり痛く感じました。

 

 バレンタインデーに贈る相手がいないことよりも、お医者さんからそういう質問をされるほうが堪えるものですね。何も好んで独りでいるわけではなく、ライターという職業で自立するために必死にもがいて気がついたら20数年経ってしまったわけですが…お医者さんの悪気のない問いに傷つくあたり、まだまともかな(苦笑)。こういうことにも不感症になったら、おひとりさま人生を全うするしかない!?

 

 

 昨夜は、6日(金)にSBSテレビ夕刊Eニュースで放送された「静岡の酒を映画に」を、1週間遅れでやっと観ました。仕事の都合でオンタイムに観られず、ビデオで留守録をセットしておいたのですが、20年も使っている故障持ちのビデオで、案の定留守録に失敗し、この1週間の間にいろんな人から反響をいただいたのに空返事をするしかなく、水野涼子さんに泣きついたら録画コピーを送ってくださったのでした。

 

Dsc_0004  まず驚いたのは時間。この時期は各局のニュースで「新酒の仕込み真っ最中」といった話題が流れるので、日本酒が季節的に旬だからその一環のニュースとして取り上げてくれたのかなと思ってました。ところが放送を観た地酒研の会員から「すごい特集だったよ。あんなに時間をかけて取り上げるなんてローカルニュースでも珍しい」と言われてびっくり。実際に観てさらにびっくり。5分近い特集で、最後には資金カンパまでアナウンスしてくれて、公共の電波を使わせてもらって申し訳ないやら恥ずかしいやらでした。

 

 内容は、我々の磯自慢酒造での撮影を、SBSのカメラが追うとともに、静岡の酒がサミットの晩さん会の酒に選ばれたほどレベルの高い酒であることを、磯自慢を通して伝えようとしたもの。さすがニュース番組、洞爺湖サミット晩さん会でブッシュ大統領がおいしそうに呑んでいる表情が冒頭に使われ、「静岡酒の話題に世界の首脳の顔が使われるようになったのか…」とジーンとしてしまいました。

 

 続いて、磯自慢の洗米作業の実写映像に移り、そこでカメラを回している成岡さんと私の画に移り、長年この世界を取材しているライターが映像で記録することに挑戦しているという流れに。とくにこの蔵では、多田信男杜氏の麹造りが比類なき神業であるという点に焦点を置いて撮っていることを、私のインタビューをかぶせながら紹介してくれました。

 

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 パイロット版の映像では、成岡さんと私が「サーカスだ!」と目を見張った上半身を使った酛造りと、蒸し米を運ぶ寺岡社長や蔵人さんたちの映像が使われました。

 

 寺岡さんが収録現場で、「一麹、二酛、三造りと言われる重要な酒造工程は本来非公開だが、鈴木さんだから、各蔵とも信頼して撮ってもらっている」というコメントをしてくださったのには、多少のリップサービスがあったとしても感激でした。

 

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 この特集は、涼子さんがご自分で企画し、台本を書き、まとめてくれたものです。もし『吟醸王国しずおか』制作のことをまったく知らなかったディレクターが作ったとしたら、サミット酒で話題になった磯自慢の酒造りだからとか、テレビの取材ではカンタンには撮れない麹室内の貴重な映像があるからニュースにする、という作り方をしたかもしれません。

 

 ブログにも書きましたが、収録当日、蔵人の待井さんに前夜第一子が生まれたばかりですごく幸せそうな顔をしていた、その彼が実際にインタビューを受け、「子どもが大きくなったら、“お前が産まれたとき親父はこういうふうに頑張っていた”と話せます」とコメント。それもちゃんと使われていました。

 

 寺岡さんも私もインタビューではいろんな話をしましたが、どのコメントを使うかでニュースのトーンはガラッと変わります。この作品が挑戦しているものや目的を、涼子さんがちゃんと理解しているからこそ、そういうコメントを使ってくれたのだと思います。

 

 ニュース特集をキャスター自身が考えて作るということは今回初めて知りました。そしてこの特集が、静岡酒のファンで、『吟醸王国しずおか』の制作を最初から応援してくれた涼子さんの手で作ってもらえたことは、本当に幸せだったと思います。この場を借りて、涼子さんとSBSテレビ夕刊スタッフの皆様に心からお礼申し上げます。

 

 

 さて、放送後の反響ですが、せっかく連絡先の案内アナウンスをしてくださったのに、残念ながら一般視聴者から「応援する」のメッセージはゼロ。仕方ありません、酒屋や飲食店など実際に酒を商売にしている人からも十分な理解や協力がないんですもの。放送時間帯(18時30分)からして、酒飲みが見られる時間じゃありませんでしたし…。

 留守番電話には2件、一般視聴者と思われる人からメッセージが入っていて、1件は「劇団をやっているが俳優を使ってくれ」というもの、もう1件は「口に入るものを作るのに帽子やマスクもしないなんて不衛生だ、あんな映像を見せられると酒を飲みたくなくなる」というクレーム?でした。

 

 …杜氏や蔵人が体を張って造る姿は尊く美しいと、我々地酒ファンは当たり前のように思っていたのですが、一般の人は必ずしもそうじゃないんですね。初めて気付かされました。「テレビってどんな見方をされるかわからない、こわいですねぇ」と涼子さんに伝えたところ、「クレームの類はタイヘンなもので、我々は慣れていますが、真弓さんにはかえってご迷惑をかけてしまって…」と気を遣ってくださいました。

 

Dsc_0030  カメラマンの成岡さんがちゃんと紹介されなかったことに、成岡さんの周辺からは不満があったようです。

 中には「鈴木ばかりがなぜ目立つ」「鈴木は成岡への感謝のひと言もない」「成岡は鈴木にいいように利用されている」という辛辣な声もあったとか。成岡さんは「いや、真弓さんは会報誌やブログで自分のことをたててくれているよ」と答えたそうですが、活字媒体でいくらアピールしても、映像業界の人には伝わらないんでしょう。

 

 収録前には「2人で一緒に作っているので成岡さんにもインタビューを」とお願いし、当日も「風邪で体調が悪いから寺岡社長や成岡さんへのインタビューを中心に」とお願いしたのですが、「限られた時間内では難しい」と言われました。もともと涼子さんが考えていた構成に口をはさむつもりはなかったし、成岡さんの会社はSBS番組の制作を請け負う立場でもあったので、私が強要して何か支障があってもと思い、おまかせしました。

 

 それでも、成岡さんびいきの人が見たら面白くなかったんでしょう。ただでさえ、作品の内容に対する批判やクレーム、撮影・制作の段取り、資金集めの矢面に立って眠れない日が続いているのに、こういう反響が来るとは・・・はぁ~と脱力。社員や身内や仲間にそういう心配をしてもらえる成岡さんに比べ、独り身で個人事業者の自分には味方がいない…なんてひがんだりして。

 

 冷静になって考えれば、成岡さんがそれだけこの作品に一生懸命力を注いでいる姿を、周囲が認めているという証拠でもあるわけで、その努力にちゃんと報いてやってくれ、というメッセージだと受け止めました。

 

 涼子さんには「成岡さんサイドからこういう反響があった」と報告し、想像したとおり「SBSでお願いしている制作会社の社長さんをニュースで取り上げることに、社内でコンセンサスが得られませんでした。真弓さんのお気持ちに応えられず申し訳ありませんでした」と丁寧なお返事をいただきました。

 

 この作品の作り方は、従来の映像制作の常識とは違うと思いますし、成岡さんも、今までの下請け業務とはまったく異なるやり方に、戸惑い、手探りながらも、被写体である酒蔵の世界に魅力を感じ、映像に残す価値を実感して果敢に挑戦してくれています。

 このブログをご覧の成岡ファンのみなさま、どうかその点をご理解いただき、成岡さんの意欲を削ぐのではなく、背中を押すメッセージをくださいまし。

 

 

 涼子さんからは「あの特集のとき視聴率がピンと上がり、終わったら下がり、同時間帯の各局視聴率ではナンバーワンでした。山になったグラフを見て嬉しくなりました」という報告もあったことを、付け加えておきます。

 


パソコンの墓場と再生の地

2009-02-13 10:41:39 | ニュービジネス協議会

 我が家には、使わなくなったパソコン(デスクトップ)が1台、ノートが2台、プリンターが2台、事業所用のコピー機(契約切れのリース品)が1台、無用の長物のまんま、狭いリビングを占領しています。お金を払って業者に引き取ってもらえば済む話なんでしょうが、ふつうの家電と違って、仕事に関するいろんな情報が往来したOA機器を、ゴミだからといって第三者に託すことに、どうも心理的な不安もあって(たんに面倒くさいだけなんですが)、あぁ~こういうときって個人事業者って不便だなぁと実感します。

 

 昨日(12日)は、知っているようで知らない、パソコン・OA機器の“墓場”と“再生”の現場を、初めて、まざまざと見学しました。

 

 

 

Imgp0473  (社)静岡県ニュービジネス協議会東部部会のトップセミナーで、訪れたのは愛知県三好町にあるシーピーセンター㈱。パソコン・OA機器を中心とした産業廃棄物処理の会社で、先日、2009愛知環境賞優秀賞施設に選ばれた会社です。

 東名高速三好ICのすぐ近くにある、一見、ふつうのプレハブの物流センターみたいな社屋。1階には粉砕機や圧縮機と、解体・分別されたコンピュータやプリンター・コピー機などの“屍”が山積みされています。

 

 

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 こういう基盤に使われているレアメタルってバカにできないそうです。昔、コンピュータが1台何百万もしたのは、こういうところに金なんかを使っていたからで、パソコンが低価格になった一因とは、金に替って銅メッキなどで対応できる技術が発達したおかげ。とはいえ、日本国内でこういう形で眠っているレアメタルの量は、アフリカの鉱物埋蔵量よりも多いんですって!

 

 

 

 

 Imgp04592階はトイレ以外はすべての部屋の扉にセキュリティがかかっています。運び込まれたパソコンは、まず2階の専用ルームでデータの消去作業を行います。顧客(おもにOA機器リース会社、金融、メーカーなど)から依頼があると、自社トラックで引き取りに行き、1台ごとにバーコードを貼り付けて積み荷をし、ここへ持ち込みます。最初から自社トラックで完全管理をするというのが、セキュリティの第一歩なんですね。

 

 

 

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 データ消去の方法は2つあって、ひとつはハードディスクに穴をあけてマテリアル(鉄やプラスチック)に戻すというもの。穴をあける機械は可動式で、顧客のオフィスに持ち込んで目の前で穴をあけるなんてサービスもするそうです。

 

 もうひとつはハードディスクに専用ソフトによる上書き消去。米国国家安全保障局準拠(NSA方式)の3回上書きで、機密データを完全に抹消し、パソコンとして再利用の道を図ります。

 どちらの方法を取るかは顧客の希望(コストがかからない消去再利用のほうが多い)で、どちらにしても作業完了証明書を発行します。バーコードリーダとサーバをリンクさせているので、顧客は最新の処理状況を確認できます。

 

 

 

 

 

 …と、まぁ、ここまでは、OA機器の処理方法としては至極真っ当かなと想像できましたが、この会社が素晴らしいのは、ハードディスクに穴をあけて素材化=リサイクルと、データ消去で再利用=リユースを徹底させ、リサイクル率98%を実現させたこと。デスクトップパソコンのCO2排出量を換算すると1台当たり120kg、ノートでは80kgだそうで、リサイクル率98%にすると約369haの森林保護に相当するとか。こういうふうに、可視化できる数値で地球環境保護意識を共有しているというのは、企業姿勢として清々しく思います。

 

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 もうひとつ素晴らしいと思ったのは、解体分解セクションでシルバー人材と障害者の若者と積極登用している点。社会経験豊富で人望のあるベテランのシルバーさんが、知的障害者を上手に指導しています。障害者といっても一つの作業への集中力は極めて高く、「まじめで能力が高く、健常者とまったく変わらないか、それ以上」と鈴木社長は言います。

 

 

 訪問をコーディネートしてくれた旅行会社レイラインの小松みゆきさんが、後で、「あの社長は、障害者を健常者と同じ賃金で雇っている。障害者年金がもらえないから減らしてくれという親もいるそうだが、“あんたたちのほうが先に死ぬんだから、子どもに自活する力を付けさせるべきだろう”と説得し、家族の納得が得られた子を採用しているそうだよ」と教えてくれました。

 

 

 視察の途中で、鈴木社長が「養護学校に通う障害者のうち、重度の知的障害者は5割ぐらい。残りは、家族が本気で支える気持があれば自立も不可能ではない子たち。家族が出資してNPOを作ってこういう作業所をあちこちで作れば、彼らが働き、自立できるチャンスはもっともっと生まれるのに…」と本音を漏らしていたのが印象的でした。

 

 

 

Imgp0471  2011年の地デジ放送完全移行で、まもなく、不要になったブラウン管テレビが大量に産廃市場に流れ込んできます。一方で地球温暖化対策が叫ばれ、産廃処理場のリサイクル率向上が急務とされている中、不要テレビの処理はどうなるんでしょう。地デジ対応のテレビの買い替えを叫ぶボリュームと同じぐらい、鈴木社長のような事業者を一人でも多く支援することにも力を投入すべきではないでしょうか。

 

 

 鈴木社長は、「家電リサイクル法が施行され、新しい商品を買うとき、消費者はリサイクル料金を上乗せされた金額を払わされるが、その料金がどういう使われ方をしているのか、消費者には知らされていない」といいます。

 

 

 

 リサイクル事業を始めてから、産廃処理のあり方、高齢者や障害者雇用のあり方、障害者を持つ家庭のあり方など、陽の当たらない社会のはざまにある問題が、いろいろと見えてきたと語る鈴木社長。

 

 

 ニュービジネス協議会では、これまで、どちらかというと、IT企業の最先端インテリジェントオフィスやら最新機器の展示会といった、陽の当たるところへの視察や見学が多かったのですが、今回の視察は、参加者が経営者として、さらには一個人、一家庭人として、考えさせられるものも多かったのでは、と思いました。

 

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 もっとも、遅いお昼をいただいた、あつた蓬莱軒本店のひつまぶしで、重い気分も吹き飛んでしまいましたが(苦笑)。