杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒サロン『英君』見学

2009-02-11 11:22:30 | しずおか地酒研究会

 ネタが多く、書く時間もなく、さらに風邪(気管支炎)がずーっと治らなくてしんどくて、数日遅れの報告が続いています。すみません。

 

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 6~7日の東京出張から戻って休む間もなく、8日(日)はしずおか地酒研究会の定例会・しずおか地酒サロン『英君酒造の吟醸造り見学&由比・駿河湾の味覚探訪』を開催しました。

 

 この時期の酒蔵見学は、蔵元のリスクになるので長い間避けていましたが、最近は「酒蔵が一年のうちで一番元気な姿を見てほしい」「蔵事情が分かっている人が案内役に付いてくれるなら安心」と受け入れOKの蔵元が増えてきて、昨年は白隠正宗(沼津)、一昨年は正雪(由比)、その前は高砂(富士宮)、若竹(島田)をこの時期に訪問し、ここ数年、地酒研の人気企画になっています。

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 ただ、一度に見学できるのが、多くても20人程度。毎回お断りする人がいて気が引けます。今回は当初15人定員で案内を出してほぼ即日一杯になり、蔵元に無理をお願いして5人追加したのですが、キャンセル待ちが10人ぐらい出てしまいました。なんやかんやでとにかく20人、東は伊豆の国市、西は浜松と、ほぼ静岡全県から集まり、にぎやかなサロンになりました。

 

 今回、英君見学を希望したのは、昨年3月の静岡県清酒鑑評会で上位に入った酒が素晴らしかったから。以前は県外の強カプロン酸系の酵母を使っていた時期もあったので、「英君、変わったな」と直感しました。

 その後、懇意にしている酒屋さんたちから「英君の評判がよくなった」と聞き、9月の静岡県地酒まつりin東京では、早々と酒がなくなるなど、英君の評価が確実に上がっているのを実感しました。今回のサロンの申込者の半数がプロ(酒屋&飲食店)だったのもうなずけます。

 私がブログ報告を怠けているうちに、参加した酒屋さんがご自身のブログでしっかり紹介してくれましたので、酒蔵見学の様子はこちらをご参照ください。

 

地酒イーハトーヴォ 後藤英和さん(旧岡部町)のブログはこちら

中屋酒店 片岡博さん(旧金谷町)のブログはこちら

英君酒造のホームページはこちら

 

 行きのタクシーの中で、運転手さんが「英君さんは息子さんが継いでから酒がよくなったよね~」と言っていたのが印象的でした。蔵元5代目の望月裕祐さんは、大学卒業後、酒蔵を継がず、大手菓子メーカーでチョコレートの研究開発をしていた人。「若いころは酒蔵に生まれたことの価値や意義に気付かなかった」と言います。

 

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 私も再三、いろんなところで書いたり言ったりしてきましたが、日本酒の蔵元というのは、ある意味、選ばれた特殊な人たちです。今もって、一般人が蔵元になろうったって、蔵元の娘さんと結婚して婿になるぐらいしか方法はなく、社員が出世して社長になったなんて例は、あり得ない閉鎖的な世界。ただ、日本酒が、昔のような呑まれ方・売られ方をしていた時代は、蔵元に生まれ育った若者が「後を継ぎたい!」と前向きに考えるのも難しかったろうと思います。

 

 家業を継ぐことになった裕祐さんも、いろいろと逡巡していたと思いますが、この20年ぐらいで静岡吟醸の酒質が向上し、評価が変わり、県内同業者の同世代の蔵元後継者たちが意欲的になり、互いに切磋琢磨しあうようになりました。

 

 まだまだマイノリティかもしれませんが、静岡の地酒ファンは確実に増えているし、「しかも静岡酒ファンになる人はものすごく熱があって、団結力もあって、こちらが気を抜けないほど」と裕祐さん。次第に自分に与えられた酒造家という職業の価値を認識するようになったといいます。

 いろんな酵母に手を出して、あれこれ試行錯誤をしていた頃は、自分がどんな酒造家を目指せばいいのか迷っていた時期だったと思います。

 

Imgp0430_2 Imgp0432  サロンでは、「今期からは全量、静岡酵母だけで仕込んでいます。鑑評会も、全国で金を狙うより、静岡県でトップをとるほうが価値がある。狙うなら静岡県知事賞です」と力強く宣言しました。すでにその先陣を切っていた國香、満寿一、喜久醉の蔵元が聞いたら、「やっと目が覚めたか」と笑いそうですが、はなから迷わずその道に進んだ3蔵に比べ、回り道をした分、英君の“伸びしろ”も大きいのではないかと感じます。

 

Imgp0411  さてさて、今回の見学では、久しぶりに『吟醸麹ロボット』に再会しました。しずおか地酒研究会の第1回地酒塾(96年4月)で県沼津工業技術センターを視察した時以来です。県と英君酒造と富士錦酒造の共同研究で開発されたもので、数時間おきに手入れが必要で蔵人の重労働の一つだった麹の切り返し作業の無人機械化を実現しました。といっても、実際には麹造り2日目に部分的に稼働させるだけで、重要な作業はやっぱり職人の手にかなわないそうです。

 

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 屋外に設置された細長いタンクは、水質向上に努力を重ねた亡き4代目英之介社長の自家製ろ過機です。サロン初参加で酒蔵見学も初めてという工学博士の小池俊勝さんがさっそく興味を持ったようで、「ああいうこだわりが酒をうまくするとわかって技術屋として感動しました」と感想を寄せてくれました。

 

 ちょっと長くなりますが、11年前の拙文を再掲しますので、英之介社長の遺産と、裕祐さんに引き継がれたモノづくりの精神に思いをはせていただければ幸いです。

 

 

 しずおか酒と人 「たった一人の飲み手を裏切らない」  文・鈴木真弓

 (毎日新聞静岡版 朝刊 1998年5月28日)

 

 今年(1998年)の全国新酒鑑評会。金賞を受賞した静岡酒の中で、個人的に、ああ、よかったなあと思ったのが英君(由比町)でした。

 当主の望月英之介さんはとことんモノ造りが好きな人。今から70年前、良水を求めた望月さんの祖父・保策さんは由比川上流の桜野沢の湧水を発見し、これが欲しいばかりに山を一つ買ってしまいました。醸造用水を引くとき、パイプが他人の家の畑をまたいでしまったので、保策さんは周辺民家83戸に給水することにした。まだ雨水を使っていた時代。人々は大いに喜び感謝しました。

 湧水は雨水が染み込み地下水となり、それが湧き出たものです。この水をもう一度上空から降らせ、土に染み込ませたらもっといい水になるのではないか。そう考えた望月さんは、3年前、消防用ノズルを改良した霧吹き装置を考案し、高さ10メートルのタンクの上から湧水を降らせてみました。霧吹きの水は水滴が小さく、10メートルの高さからでも、上空1500メートルから降る雨粒と同じ。望月さんは地下に溜まったこの水をさらにヤシガラ炭でろ過しました。すると、酒造の大敵である鉄分が、通常の醸造用水の0.01ppmから、0.001ppmに。この水で仕込んだ平成9酒造年度の酒が見事金賞を受賞したのです。

 「静岡は水がいいと言われますが、今以上、水を良くしようと努力する蔵元は少ない。ろ過装置を買って満足するぐらいでしょう。しかし酒造家なら水質を定点観測するのは当然。水は酒の命ですから」。

 米は自家精米にこだわり、蒸し米放冷機は友人の機械部品メーカー会長からラジエーターの羽(不良品)を分けてもらい、自分で造ってしまった。

 肝心の杜氏は、今年(98年)で11年目になる南部杜氏が現役で活躍中ですが、後継者不足は目に見えている。そこで県沼津工業技術センターと共同で吟醸用麹ロボットを開発し、杜氏の過去10年間の製麹データをソフト化。杜氏の腕の動きを再現するロボットアームが、データをもとに昼夜問わず活躍しました。

 明治14年の創業。「117年間も酒造を続けてこられたのは、100人のうち、英君を飲む人が一人しかいなくても、その一人を裏切らない酒を造ろうと努力してきたから」と語る望月さん。その努力が、米へのこだわりであり、自家精米であり、杜氏ロボットだったわけです。

 モノ造りの好きな人は自分に妥協しない強さがある。とても頼もしく感じます。(了)


美味しい駿河湾in築地

2009-02-10 06:34:35 | 地酒

 7日(土)の昼1230分からは、築地市場で開かれた『美味しい駿河湾in築地』というイベントに参加しました。

 

 

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 新聞記事等で紹介されたとおり、静岡県水産加工業協同組合連合会が、世界一のフィッシュマーケット築地市場に乗り込んで、駿河湾の海の幸を集中アピールするトークセッション&試食会。パネリストは、築地市場の仲卸代表5名と、静岡から水産加工業者代表4名に磯自慢酒造の寺岡洋司社長の総勢10名。参加者は築地市場関係者をはじめ首都圏の流通業者、飲食店関係、料理学校生徒、フードジャーナリスト等で100名定員の会場が倍近い人数でごったがえしました。

 

 

 気がつくと、いつも静岡県地酒まつりin東京に来てくれるマスコミ関係の方など顔見知りもチラホラ。『吟醸王国しずおか』パイロット版東京試写にも来てくださった共同通信の二宮盛さん、dancyu編集部の里見美香さん、フードジャーナリストの山同敦子さんなど「磯自慢目当てImgp0389_2 に来ました~(笑)」と公言するお歴々に再会できて、心強かったです! 

 

 

  私ごときのブログのために、寺岡社長の両手の花になってくださった里見さん、山同さん、ありがとうございました~!!

 

 

 

 

 

 

 トークセッションでは、大手量販店グループが市場を通さず漁港で船まるごと買い!を始めたことが話題になり、改めて魚市場のあり方、仲買人の役割などについて興味深い意見が交わされました。静岡の業者さんたちは「市場は情報の宝庫。いくらネットが発達したといっても、仲買人から直接聞く生きた情報が貴重なんです」と仲買人への支持を熱く訴えていました。トークの中には、素人には貴重な情報だ、と思えるネタもたくさんありました。

 

 

しらすは太平洋側の暖流域21県で獲れるが、春ものでは静岡県産が品質日本一。これほど海岸線が長く、多くの一級河川が湾へ流れ込み、豊富な栄養(プランクトン)ももたらす海はない。

 

しらすの品質をみるときは、見た目の白さ、大きさ(中くらいがベスト)のほか、くの字に曲がっているものほど鮮度がいい。

 

釜揚げしらすは水分75%、塩分22.5%の状態。東京では水分65%、塩分3%ぐらいが好まれる。関西では水分40%ぐらいの常乾干タイプ(ちりめん)が好まれる。関東でちりめんといえば、水分30%ぐらいのかちかちタイプ(かちりぼし)が好まれる。

 

関西、とくに京都で消費されるしめさばの8割は焼津産の塩サバ。とくに102月に焼津で揚がる塩サバは脂のノリがよく、ばってらにすると旨みが引き立つ。

 

黒はんぺんは東京ではまだ通常の食材として認知イマイチだが、いわしやさばは最近特に人気が高まっているので、有望な加工食。

 

 

 続いて第2部では静岡市出身のミシュラン三ツ星料理人の奥田透さんが、魚市場や仲買人の存在意義について、ヨーロッパ各国の魚市場を訪ね歩いた経験をふまえ、「築地が世界一のフィッシュマーケットだといえるのは、規模や取扱量もさることながら、仲買人の目利きのレベル、加工業者の処理技術、どれをとってもこれほど高いスキルを持った市場は世界にないから」とエールを送りました。

 

 

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 「まかないでいただくが、上質の干物は炭火でじっくり焼くと最高にうまい」「静岡出身の弟子には帰郷のたびに黒はんぺんを買ってこさせる」「懇意のお客さんに、忘年会で静岡おでんをお出しし、大喜びされた」などなど三ツ星店の裏ネタも披露してくれました。銀座の小十で静岡おでんを食べられるなんて、すんごい贅沢ですね!

 

 

 

 最後にコーディネーターの濱永さんが、「農水省で現在、フードアクションジャパンと称して食糧自給率を40%から41%に上げようと呼びかけているが、1%上げるのは至難の業。東京ではシングル世帯の60%にまな板と包丁がない」「望みがあるとしたら水産加工品。コンビニの人気おにぎりランキングで上位3つ(おかか・塩しゃけ・明太子)を見ても、水産物への希望の兆しを感じる」とデータを示し、力強いメッセージで締めくくりました。

 

 

 

 

Imgp0386  第3部はお待ちかねの試飲試食タイム。寺岡さんが紹介したJALファーストクラス搭載の磯自慢純米大吟醸50は、気がついたら空瓶ばかり。この日ばかりは静岡人たる自分が出しゃばって呑むわけにもいかず、試飲をあきらめ、試食コーナーを回遊し、静岡うなぎ漁業協同組合が出品した新商品・うなかまぼこや、焼津水産加工業協同組合のなまり節の味に舌鼓。

 

 

 

 

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  冬にさっぱり売れないうなぎを正月料理にしようと鰻屋さんのノウハウを生かして開発したといううなぎのかまぼこは、築地の仲買人からも「ヒットするかも」と太鼓判を押されていました。

 

 

 

 

 

 静岡県地酒まつりin東京では、いつも寺岡さんの配慮で黒はんぺんがおつまみに出されますが、基本的に料理は会場の宴会料理を使わないと会場が借りられないため、キラ星のような静岡吟醸のつまみが、どこにでもある宴会バイキングで、しかもすぐになくなってお客さんからクレーム殺到。つまみ、もっとなんとかならんかな~と思っていました。

Imgp0388  今回の水産加工品と磯自慢のコラボは、ともに消費人口が減っているといわれる魚と日本酒の魅力再発見に、ひとつの道筋をつけたのではないでしょうか。

 

 

 

 帰り際、静岡県水産加工業協同組合のスタッフに「ぜひ一緒に大消費地での広報活動をやりませんか」と、酒造業者代表でもないのに生意気に声をかけてしまいました。さしあたり、今年のin東京に、静岡の水産加工業者さんも招待し、「俺らのつまみを出してやろうじゃないか」という気にさせてみたら、なんて思います。


テーブルウェアフェスティバル

2009-02-09 12:23:50 | アート・文化

 7日(土)は、午前中、東京ドームで開催中のテーブルウェア・フェスティバル2009~暮らしを彩る器展を視察しました。

 

 京都で過ごした学生時代、アルバイト先の料亭で料理や器の魅力に出会い、20代の駆け出しライターだったころ、ライター稼業では食べられなくてアルバイトしていた喫茶店のオーナーが民芸陶器のコレクターだった影響で、全国の窯元のことを勉強したり、地酒に出会ってからは酒器にも凝りだしたりで、若いころは陶磁器に目がない時期がありました。

 

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 当時の自分が、こういうイベントに来たら、丸一日会場に張り付いていたでしょう。全国の主要陶磁器産地や、ガラス、漆器、クロスなど、食卓を飾るあらゆるアイテムがドームいっぱいにそろっていました。

 

 年齢を重ねるうちに、器よりも中身だろうと思い始め、この手の世界への興味がだんだん薄れていったのですが、会場を回遊しているうちに、たんに器を眺めるだけでなく、今、食卓に求められているもの…たとえば、自宅なら誰とどんなふうに過ごしたいのか、料理名人やきき酒名人なら料理や酒をどんなふうに表現したいのか、ホームパーティーなら主人が客をどんなふうにもてなしたいのか…食卓を舞台にしたコミュニケーションの在り方が見えてくるような気がして、とても見ごたえがありました。

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 酒器集めに熱中していた過去を思い起こさせたのが、長崎の波佐見焼。静岡吟醸のようなデリケートな酒を呑む時は、杯が唇に当たるとき、唇のカーブに沿ったやわらかい曲線と、器の存在感を感じさせない薄さ・軽さが欲しいんですね。

 

 有田焼や清水焼の薄い白磁の酒器をいくつか持っていますが、私が小遣いで買える程度のものなので、プロのきき酒師やテーブルコーディネーターが見たら笑われると思います。

 

 

 今回出会った波佐見焼の窯元・嘉久房窯は、自分が持っている白磁杯よりもさらに軽くて薄くて、「うわぁ、これで喜久醉松下米40が呑めたら最高だ~」と溜息をついてしまいました。窯元の娘さんに聞いたら「お酒が大好きな父が作った杯なので、お酒が好きな人にはわかってもらえると思います」とのこと。娘さんも陶芸作家で、ご自身は焼酎の酒器が自慢だとか。「薄い白磁なので、氷がゆれるといい音がするんです。お酒好きの人は、音でも呑めるっていいます」。

 

 波佐見焼といえば、秀吉の朝鮮侵略で被虜人となった朝鮮の陶工・李祐慶らが始祖となった焼き物。朝鮮通信使の歴史をかじった者として、忘れてはいけない史実であり、日本の陶芸文化と、それに支えられた日本の食文化の礎となった朝鮮文化の価値を改めて実感します。

 

 芸術作品ともいえる嘉久房窯の酒器は、その場で衝動買いできる価格ではありませんでしたが、いつかはこういう酒器が日用使いできる呑み手になりたいなぁと思いました。

 

 

 

Imgp0371  さて、今回の視察の目的は、過去ブログでも紹介した、静岡市ホテル旅館協同組合女将の会が出展した『新茶のころ 静岡のおもてなし』。展示されていたのは、My Styleセレクション~創り手からの提案というコーナーで、産地発の食卓提案が楽しめました。

 

 漆器や千筋細工や指物といった伝統工芸品は、アースカラーがベースなので、見た目はちょっと地味。その中でImgp0372 も、富士山マークがデザインされた金剛石目塗りの酒器にお客さんの目が集まっていました。やっぱり静岡って富士山なんですねぇ・・・。

 ブースに女将の会の方が誰もいなかったので、お話が聞けなかったのが残念でした。

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 いずれにしても、旅館の女将さんたちがこういうコーディネートに挑戦し、全国のトレンドに触れて何かを吸収するということに価値があったはず。女将さんたちに後日談が聞けたらいいなと思います。


いつかちゃんが現れた!

2009-02-08 22:23:22 | 社会・経済

 2月6日(金)は東京ビッグサイトで開かれたグルメ&ダイニングスタイリングショー春2009で、静岡県商工会連合会の出展ブースでキャンガル?もとい、キャンオバさんを務めました。

 

Imgp0362  いよいよお披露目となった『しずおかフルーツ100%ゼリー~ふじやまさんちのいつかちゃん』。昨年、紹介した酒と肴のギフトセットつまんでごろーじよりも、ブースに立ち寄るお客さんは女性が圧倒的に多く、声もかけやすかったですね。商工会スタッフも、昨年は男性オンリーでしたが、今年は女性が大勢助っ人に来てくれて、華やいだ雰囲気。もっとも、風邪が治らないマスク姿の私は、バックヤードから試食用小皿をブースへ運ぶ裏方役に徹していましたが。

 

Imgp0359_2  気になるお客さんの反応ですが、味のほうはおおむねバッチリ。常温だったので甘さが強く感じた人も多かったようです。

 

 こういう展示会で、短時間で商品のコンセプトや特徴を伝えるのは難しく、なんといっても試食の評価がすべてです。6日は袋井浅羽マスクメロンゼリーを作ったどんどこあさばの戸塚さん、三ケ日青島みかんゼリーを作った入河屋の松嵜さんも会場へ駆けつけ、お客さんの反応を直接確かめていました。

 

 

Imgp0367  おいしいと感じてくれれば、次に商品を手に取って、パッケージを確かめ、アンケートに協力してくれて、運が良ければ詳しい資料をくれ、という流れに持って行けます。新商品を世に出すって手間がかかるけど刺激的で面白い!ってつくづく感じました。

 

 

 プロのバイヤーからは、「名前が長ったらしい」「パッケージが軽い」「価格設定が高い」などなど手厳しい意見もあり、アンケートを集計した上で改良すべき点は改良することになると思います。

 

 

 

 16時の終了直前、最終日ということで他のブースに出展していた業者さんもかけこみ試食にやってきました。

 Imgp0369 その中に2歳前の子どもを連れた女性がいて、子どもがみかんゼリーを手に取ってぱくつきはじめます。残さずたいらげてしまった子どもに「ふだん食べない子なのに、どうしちゃったの~」とビックリした様子。男の子でしたが、まさに目の前に「いつかちゃん」が現れた!と、私も、他のスタッフも感激してしまいました。お母さんとおじいちゃんらしき男性が、喜んで資料を持って帰る姿に、今日一番の感動をもらいました。

 

 いつかちゃんが、どんな形で正式デビュー(発売)になるのか、まだ最終決定までには紆余曲折もあろうかと思います。私がかかわれる部分は、この先、ブログ等でPRすることぐらいですが、自分が考えた「子どもがスイーツデビューするときに、両親や祖父母が安心して食べさせられるホンモノの味」というコンセプトが、くどくどとした説明も要らずに消費者に伝わったことを、あの男の子の食べっぷりを通して実感できた…そのことを自信に、いつかちゃんのデビューを支えていきたいと思います。


若竹の立春朝搾り

2009-02-04 14:28:49 | 吟醸王国しずおか

 立春の今朝、『若竹』『おんな泣かせ』の蔵元・大村屋酒造場(島田市)に、“立春朝搾り”の撮影に行きました。

 

Dsc_0024  立春朝搾りというのは、全国有数の酒卸問屋・岡永が運営する日本名門酒会加盟の蔵元とその取引先小売店が、平成10年から始めたイベント。2月4日、立春の早朝に搾ったばかりの新酒を、その日のうちに消費者のもとへ届け、春の始まりを祝おうというわけです。

 

 2月3日の節分は、各地で豆まき行事などが行われ、賑やかに過ごしますが、豆まきで邪気を祓って迎える立春4日は、本来であれば正月と同様に大切にされる日なのに、季節感がなくなった今では普通の日として過ぎてしまいますね。日本酒の伝統を、立春を祝う日本古来の伝統に結びつけて、春の到来をお祝いし、日本酒の価値を見直してもらいたい、というのが趣旨のようです。

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 全国の名門酒会加盟の蔵元で、今朝は一斉にこの行事が行われました。昨年は37蔵が参加し、全体で13万5千本(4合瓶)が出荷され、今年は39蔵で14万本は突破したよう。低迷する日本酒業界において、1日だけの出荷数としては驚愕の数字です。業界活性化の刺激になっていることは確かなようですね。

 

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 朝5時前に蔵に着くと、すでに社員総出で準備にとりかかっていました。瓶洗いは前日から、酒は午前零時に搾り始め、仕込み真っ最中の蔵人も交代で瓶詰作業を手伝います。瓶詰ラインの出口で酒を箱詰めしているのは菅原杜氏。副杜氏の日比野さんもケース箱の間を縫うように飛び回っていました。

 

 

 

 

 5時45分に『若竹』を取り扱う静岡・神奈川・愛知の酒小売店主たちが集まり、“立春朝搾り”と書かれた肩ラベルを手分けして貼り、箱詰めをスタート。集まったのは115名。今年で12回目とあって、みなさん手慣れたものです。

 

Dsc_0027  瓶詰したのは、純米吟醸生原酒。菅原杜氏が故郷の岩手県で自ら栽培した酒造好適米・吟ぎんが55%精米で、マスカットの香りで知られる静岡酵母CA-50で仕込んだそうです。日比野さんいわく「上品でやさしくて、綿菓子みたいにフワッとした甘み。それでいて搾りたてのフレッシュ感が楽しめます」とのこと。

 ちなみにCA-50を使っている蔵は、今ではここだけ。立春朝搾りの酒は、毎年必ずCA-50で仕込むのだそうです。熟成させない鮮度が勝負!の酒だけに、少し落ち着いたほうが持ち味が生きる静岡酵母の定番・NEW-5やHD-1よりも向いているのかもしれません。

 

 

 蔵のスタッフを合わせ、約130名が早朝から瓶詰~ラベル貼り~梱包に一斉集中するのです。小1時間で4合瓶約6000本、一升瓶700本が詰め終わりました。

 

Dsc_0031 Dsc_0033  母屋では社長夫人の松永馨さんが、130人分の朝食を用意し、作業の合間に交代でいただきます。

 用意されたのは、炊きたての白いご飯、味噌汁、沼津の業者から取り寄せたひもの、松永社長の出身地長野県から取り寄せた野沢菜、馨さんお手製の奈良漬など。以前は節分にちなんで恵方巻を用意したこともあるそうですが、「白いご飯と奥さんの漬物がいい」という参加者の熱いリクエストで、シンプルな和定食メニューに落ち着いたとか。社長は「ラベル貼りよりも朝飯が楽しみで来る人もいるんだよ」と苦笑いします。

 私と成岡さんも、おこぼれを頂戴し、奈良漬の品の良い味わいに舌鼓を打ちました!

 

 

 7時35分からは、すぐ近くにある大井神社で全員参加のお祓い。儀式が終わった後、宮司さんが、「私も地元の住人として、地域に酒蔵があって、こういう伝統を大事にしてくれるというのが、何よりの誇りです」と語ったのが印象的でした。

 

Dsc_0043  『吟醸王国しずおか』では、日本酒と日本人の信仰心や神社・祭りとの結びつきを、大切なテーマの一つとして丁寧に描こうと思っていたので、今朝の神事と搾りたてのお神酒を味わう人々の表情が撮れたのは得難い経験でした。

 そして、吟醸仕込みの最盛期に、蔵に100人以上の取引先を集めてその日のうちに7000本近い酒を一気に搾り・瓶詰・出荷するという大変な行事を、12年も続けている松永社長。

 7月に七夕酒蔵コンサートを撮影した時も思いましたが、街の中心地にある酒蔵を活かす術をよく理解しておられ、社員や蔵人にも認識させ、会社をあげて、蔵の中と外の距離を縮める努力をされている。本当に得難い蔵元です。今朝もそのことを改めて実感しました。

 

 

 朝8時過ぎ。115名の酒屋さんが、一斉に自家用車に酒を詰め込んで帰路につきます。車のナンバーを見ると、浜松、沼津、湘南などずいぶん遠くからも集まってきたのがわかります。「毎年この酒を楽しみに待っているお客さんがいるんで」と、弾んだ声の酒屋さんたち。

 

Dsc_0058  ただ残念なのは、私たちが『吟醸王国しずおか』というドキュメンタリー映画を撮っているのを知っている酒屋さんが、一人もいなかったこと。声をかけてきた数人の質問はいずれも「どこのテレビ局ですか?」でした。

 

 

 

 地元の酒屋さんの認知度がこれほど低いのか~とガックリしてしまいましたが、唯一、湘南ナンバーの酒屋さんが関心を示し、「詳しく教えてください」と名刺交換してくれました。このブログ、読んでくれるといいんですけどね。・・・映画『吟醸王国しずおか』の“立春”は、いつやってくるんでしょうか。