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埃及(エジプト)市民の声に耳をすます

2011-02-09 22:40:47 | 編集手帳
  2月2日 読売新聞編集手帳


  明治の中頃に渡米した画家の丸山晩霞(ばんか)に挿話がある。
  ブドウを買おうとして「ポルトをくれ」と店員に伝えたが、
  理解してもらえずに憤慨した。
  ポルトガル(葡萄牙)のポルトで通じると思ったらしい。

  ことほどさように、国名の漢字表記は字義にあまりとらわれないのがいいようだが、
  ぴったりくるときもないではない。
  大規模な反政府デモがつづくエジプトは、
  漢字で〈埃及〉と書く。

  埃(ほこり)が及ぶ――
  高い失業率や貧富の差、権力層の腐敗など、
  30年にわたってムバラク独裁政権がこしらえてきた不満の苗床に、
  同じ北アフリカの国チュニジアで
  独裁政権を打ち倒した民衆運動の砂塵(さじん)が及んだ結果だろう。

  イスラエルとも国交があり、
  中東和平の仲介役を務めてきたエジプトで混乱が長引くことを、
  国際社会の誰も望んでいない。
  かといって強権をもって鎮圧すれば、イスラム過激派への共感者を増やすことになる。
  流血を避けて民主化を急ぐしかない。

  地名の漢字表記では、
  エジプト北東部に位置する交通の要衝〈蘇素〉(スエズ)がいい。
  国家が“蘇(よみがえ)る素(もと)”は、
  市民の声に耳をすます中から見つかるはずである。

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