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総大将の視野

2012-03-02 12:13:47 | 編集手帳


  2月29日付 読売新聞編集手帳


  日露戦争で満州軍総司令官を務めた大山巌は、
  茫(ぼう)洋(よう)たる人格で知られた。
  「今日は大砲の音がしもうすが、
   どこぞで戦(いくさ)がごわすか」。
  参謀部にふらりと現れて、
  尋ねた逸話が残っている。

  ぼんやりした人ではない。
  幕末には自身で大砲を設計し、
  戊辰(ぼしん)戦争で各地を転戦した戦略・戦術のプロである。
  『戦場の名言』(草思社刊)によれば、
  のちに孫から総大将の心構えを聞かれ、
  「知っちょっても知らんふりすることよ」
  と答えている。

  言うべくして難しい。
  島の原発事故で独立検証委員会(民間事故調)が報告書をまとめた。

  「必要なバッテリーの大きさは? 
   縦横何メートル?」。
  菅直人首相(当時)は緊迫した修羅場で、
  みずから携帯電話で担当者に確認したという。
  官僚をもっとうまく使えなかったか。
  「首相がそんな細かいことを聞くのは、
   国としてどうなのかとゾッとした」。
  同席者は証言している。

  日露戦争で日本海海戦を勝利に導いた作戦参謀、
  秋山真之は戦闘のさなかも双眼鏡をのぞかなかった。
  「視野が狭くなる。
   自分は肉眼で大局を知ればよろしい」と。
  総大将が顕微鏡をのぞいてしまった不幸よ。
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