3月2日付 読売新聞編集手帳
古代ローマには、
天井に薔薇(ばら)の花を飾った部屋で交わす会話は秘密にする
習わしがあったという。
英語の「アンダー・ザ・ローズ」(薔薇の下で)には
「内緒で、秘密に」の意味がある。
「薔薇」の濁点を取れば「腹」になる。
ヤジの濁りに邪魔されない場所で消費増税などをテーブルに載せ、
腹を割って話したのかどうか。
ご両人は否定しているが、
野田佳彦首相と谷垣禎一自民党総裁が先月25日、
極秘に会談したと報じられている。
フランスの元駐日大使で詩人のポール・クローデルに短い薔薇の詩がある。
〈薔薇曰(いわ)く
われをまもるもの
そは刺(とげ)にあらずして
匂(におい)〉(山内義雄訳)。
野党の協力なしに法案の成立は期しがたい。
谷垣氏は谷垣氏で、
政権の足を引っ張るだけでは
自民党への支持が広がらないのを承知しているはずである。
「刺」を不毛に刺し合う関係から、
手を携えて政策の花を咲かせ、
芳しい「匂」を共同制作する関係に移る兆しだとすれば、
極秘会談は咎(とが)めることでもない。
それにしても、
である。
薔薇の下で“竜虎”の巨頭が相まみえた…
という感じがいっこうにしないのは不思議である。