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人と馬が心を通わせる過程「薪を積む」

2012-03-09 11:29:31 | 編集手帳


  3月6日付 読売新聞編集手帳


  〈見事に正しく薪(まき)が積まれているのですね〉。
  戯曲『夕鶴』の主人公つう役で知られた女優の山本安英さんは、
  初めて馬場馬術の競技を見て、
  感想を述べたという。

  劇作家の木下順二さんが
  随筆集『ぜんぶ馬の話』(文芸春秋刊)に書き留めている。
  〈(薪が)一本一本、
   正確に。
   それでなかったら、
   あの馬がどうしてあんなに燃えるものですか〉
  と。

  「薪を積む」とは、
  人と馬が心を通わせる過程を指すらしい。
  雑に積めば炎は乱れ、
  首の動きも足の運びもままならない。
  人馬一体はなるほど、
  薪と炎の理想型にもたとえられる。

  法華津(ほけつ)寛さん(70)と愛馬ウイスパー号の間柄もそうだろう。
  法華津さんがロンドン五輪・馬場馬術個人の代表に決まった。
  東京、北京に続く3度目の五輪出場で、
  自身のもつ五輪「日本人最年長」記録を更新する。
  北京五輪では“爺(じじ)の星”を自称なさったが、
  何をおっしゃる。
  日本人みんなの星でありましょう。

  「健闘を祈る」といった音量の高い声援は、
  薪の炎を乱してしまうようで、
  少々はばかられる。
  いまは朗報の暖炉に遠くから凍えた手をかざしつつ、
  晴れの舞台を待つとする。
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