日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

からきつとめ

2014-11-01 12:30:00 | 編集手帳

10月29日 編集手帳

 

「素見(すけん)」は「ひやかし」とも読む。
遊女を見て歩くだけで登楼しないことを言う。
いまでもいろいろな業態で、
ひやかしの客などと使われる。
落語の五代目古今亭志ん生さんが噺(はなし)のマクラで語源を語ったことがある。

江戸の色街、
吉原のそばには紙漉(す)き場があり、
職人が紙を水に浸して冷やかす。
待ち時間に遊女を見て歩いたので“ひやかし”という言葉ができたそうな。

語源説の当否はともかくも、
木枯らしの便りが届く季節のせいか、
かじかむ手を吐息で温めながらひやかして回る職人の姿が目に浮かぶようである。
冬場はとくにつらい仕事だったろう。

吐く息よりも手の温まる知らせに違いない。
手漉きの技を磨き、
伝統を現代に受け継ぐ技術者の方々は、
水の冷たさをしばし忘れたことだろう。
「和紙」が国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになったという。

昭和天皇のお歌がある。
〈わが国の紙見てぞおもふ寒き日にいそしむ人のからきつと めを〉。
「からきつとめ」(つらい仕事)に精魂こめた過去の数限りない職人衆がいて、
美しい和紙を世界に誇れる今がある。

コメント