11月22日 編集手帳
宴席に遅れて参加したときなど、
「遅かりし由良之助!」という先着組の声に迎えられた経験のある方は多かろう。
歌舞伎の『忠臣蔵』にゆかりの深い言葉だが、
劇中にそういうセリフはない。
浅野内匠頭(たくみのかみ)がモデルの塩冶(えんや)判 官は、
大石内蔵助がモデルの大星由良之助に「待ちかねたわやい」と語るのみである。
おそらくは芝居好きの江戸庶民が生みの親だろう慣用句「遅かりし…」 は、
幻の名セリフに違いない。
衆院がきのう解散され、
総選挙に向けて政治の季節が始まった。
投開票日12月14日は赤穂浪士討ち入りの日である。
バンザイ のタイミングが早すぎてやりなおす珍妙な解散風景となった。
「早かりし議員諸氏」はご愛嬌(あいきょう)と しても、
解散という失職の手続きを経て信を問うところは、
身を捨てて志を遂げた四十七士に通じる部分がなくもない。
〈あらたのし思ひは晴るる身は捨つる浮世の月にかかる雲なし〉。
選挙戦に臨む与党、
野党双方の立候補予定者に、
内蔵助の辞世をはなむけとする。
多くの人が「待ちかねたわやい」と渇望する日本再生のプランを競う選挙である。
志の高い代“義”士はどこにいる。