日暮しの種 

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「遅かりし由良之助!」「待ちかねたわやい」

2014-11-23 18:30:00 | 編集手帳

11月22日 編集手帳

 

宴席に遅れて参加したときなど、
「遅かりし由良之助!」という先着組の声に迎えられた経験のある方は多かろう。
歌舞伎の『忠臣蔵』にゆかりの深い言葉だが、
劇中にそういうセリフはない。

浅野内匠頭(たくみのかみ)がモデルの塩冶(えんや)判 官は、
大石内蔵助がモデルの大星由良之助に「待ちかねたわやい」と語るのみである。
おそらくは芝居好きの江戸庶民が生みの親だろう慣用句「遅かりし…」 は、
幻の名セリフに違いない。

衆院がきのう解散され、
総選挙に向けて政治の季節が始まった。
投開票日12月14日は赤穂浪士討ち入りの日である。

バンザイ のタイミングが早すぎてやりなおす珍妙な解散風景となった。
「早かりし議員諸氏」はご愛嬌(あいきょう)と しても、
解散という失職の手続きを経て信を問うところは、
身を捨てて志を遂げた四十七士に通じる部分がなくもない。
〈あらたのし思ひは晴るる身は捨つる浮世の月にかかる雲なし〉。
選挙戦に臨む与党、
野党双方の立候補予定者に、
内蔵助の辞世をはなむけとする。

多くの人が「待ちかねたわやい」と渇望する日本再生のプランを競う選挙である。
志の高い代“義”士はどこにいる。

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冬の夜空にかかる、男の星座のまぶしさよ

2014-11-23 18:00:00 | 編集手帳

11月19日 編集手帳

 

 「ナワナエ」競争が始まった。
おじいさん、
おばあさんが藁(わら)をよじり、
縄をなう。
15年前の沖縄・石垣島、富野(とみの)小中学校の運動会である。

お年寄りの真剣な表情に、
いつしか手をたたいていたと、
高倉健さんの随筆『沖縄の運動会』にある。
俳優は拍手をもらう仕事だが、
〈拍手するほうが、ずっと心がゆたかになる〉とも。

旅先でたまたま目にした光景という。
帰京後、
感謝の気持ちをこめてこの学校に望遠鏡を贈った。
そして悩む。
心の豊かなあの子供たちに贈り物など必要だったか。
〈少し後悔した〉と結ばれている。

行きずりの人に無心で拍手を送ることも、
受けた感銘を率直に伝え ることも、
その行為をしずかに省みることも、
いまの世が忘れかけた心だろう。
思えば、
その人が演じた不器用で温かく、
勁(つよ)く、
飾らぬ人間像も、
現代人の忘れ物に違いない。
銀幕という望遠鏡を通じ、
忘れ物の在処(ありか)を無言のうちに語り続けて、
高倉さんが83歳で亡くなった。

『網走番外地』の橘真一。
『昭和残侠(ざんきょう)伝』の花田秀次郎。
『鉄道員(ぽっぽや)』の佐藤乙松。
『あなたへ』の倉島英二。
冬の夜空にかかる、
男の星座の眩(まぶ)しさよ。

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