5月9日 編集手帳
運動会の華、
綱引きのかけ声では「オーエス」が知られている。
諸説ある語源のうち、
「旗を揚げよ」という意味のフランス語「オー・イス」(Oh hisse)が有力だという。
欧州の安定が損なわれるのを恐れていた国際世論は、
揚がった“旗”に安堵(あんど)の息をついている。
フランス大統領選の決選投票で、
親・欧州連合(EU)派のマクロン前経済相が当選した。
「自国第一」主義という内向きの世界的な潮流はひとまずくい止められたが、
EU離脱論者で極右・国民戦線のルペン氏が約34%もの票を集めた衝撃は小さくない。
雇用や生活をめぐる不満と怒りがもたらした亀裂は深刻である。
分断された国民のあいだに、
いかにして融和の“橋”を架けるか。
39歳の若さと、
恋愛伝説が物語る情熱と、
「財務のモーツァルト」とも称賛された頭脳と――そのすべてが試されよう。
詩人アポリネールは歌っている。
〈わたしは思い出す/悩みのあとには楽しみが来ると〉(『ミラボー橋』、堀口大学訳)。
悩みは深かろうとも、
未来の楽しみを信じて渡らねばならぬ橋である。
その人に「オーエス」の一語を贈る。