5月13日 編集手帳
真夏の燃える暑さを「炎熱」といい、
仰ぎ見るのさえためらう灼(や)けついた空を「炎天」という。
どちらも夏の季語だが、
暑さを嘆くのではなく、
生命を輝かせる熱源としてとらえた句に名吟が多い。
〈炎熱や勝利の如(ごと)き地の明るさ〉(中村草田男)。
あるいは〈炎天の坂や怒(いかり)を力とし〉(西東三鬼(さいとうさんき))。
感嘆符を添えてみたいような躍動感にあふれている。
俳句ではないが、
これも一種の名文句だろう。
〈あついぞ! 熊谷〉。
埼玉県熊谷市の名物「大温度計」(高さ4メートル)が、
今年も市内の八木橋百貨店前に設置されたという。
名文句はこの夏が見納めらしい。
「住みにくさをアピールするのも、どうか」といった声を受けて、
来年からは別の文句に変わるとか。
真夏のニュースにその温度計が映るたび、
感嘆符から元気の素(もと)をもらってきた身にはちょっと名残惜しくもある。
群馬県の館林市も最高気温の常連として知られる。
何年か前、
「読売歌壇」に載った歌を覚えている。
〈また勝つた全国トップ館林妻に告げたり 返事はあらず〉(熊沢峻)。
勇み立つ気持ちも分かる。
返事をしない奥さんの気持ちも分かる。