8月16日 読売新聞「編集手帳」
サンディという名のハリケーンが米北東部を痛撃したのは2012年の秋だった。
大潮と重なり、
ニューヨークでは地下鉄が浸水し、
証券取引所さえ閉鎖された。
注目されたのが先手先手の計画で被害の拡大を防いだことだった。
「Last Wake Up Call!!(目を覚ませ、次はない)」。
早期の避難により、
数千戸が全半壊した沿岸で犠牲者はいなかった。
地下鉄は3日前から運行停止を予告、
車両を退避させて短時間での再開を果たした。
お盆休みの西日本を台風10号が縦断した。
新幹線を始め、
数々の交通機関の計画運休で難渋した方は多かろう。
ただ、
案内板を前に途方に暮れる、
そんな風景は減っただろうか。
「命は自分で守る」。
昨年の豪雨を体験したお年寄りは早々に身を寄せた避難所でそう話していた。
昔、
詩人の長田弘さんが語った台風一過の思想、
という言葉を思い出す。
たたかうのでなく、
なんとかしのげば、
後には必ず朝(あした)が来る。
日本には風にしなう生き方、
考えが根強くあるのではないか…。
過ぎるほど備えを重ねじっとやり過ごす。
個々人の心構えが無事な朝を連れてくる。