8月23日 NHKBS1「国際報道2019」
首都メキシコシティーから車で5時間走ったところにあるベラクルス州の農村。
ここに地元の主婦たちが運営する施設がある。
名前は「パトロナス(守護聖女)」。
パトロナス代表 ノルマ・ロメロさん(49)。
壁に描かれたメキシコの地図には
赤い線で
メキシコからアメリカに向かう貨物列車が通過するルートが示されている。
(ノルマ・ロメロさん)
「ここから皆アメリカンドリームを目指すのよ。
休みの無い長旅で疲れ果てて列車から落ちる人もいるわ。」
雨露をしのぐこともできない貨車にしがみついて命がけで国境を目指す人たち。
その命だけは守ってあげたいと
ロメロさんは地元の女性たちに呼びかけて
水や食料を手渡す活動を始めた。
(ノルマ・ロメロさん)
「彼らには誰かが手を差し伸べなければならなかったの。
女性だけで始めたのは女性の方が慈悲深いからよ。
命がけで生き延びようとしている人々を愛情ややさしさで助けたかった。」
しかし活動を始めた20年余前は周囲からの理解が得られず強く非難されたという。
(ノルマ・ロメロさん)
「こんなふうに言われたわ。
“あの女性たちは頭がどうかしている”
“人に危害を加え泥棒するような連中になぜ食べ物を上げるのか”ってね。」
それでもロメロさんたちは人々に命の尊さを訴え続けた。
その結果 次第に支援の輪が広がり始め
近くの人や店が協力を申し出るようになった。
食料を袋詰めする作業は結構な重労働である。
1日1,000袋以上準備することもある。
貨物列車は不定期なのでいつ来るのか分からない。
来ることがわかるとロメロさんは猛ダッシュする。
でもこの日は貨物列車に乗り込んでいる移民の姿は見えなかった。
そのときロメロさんは男性に気づいた。
差し出した水をキャッチ!
「1人だけだったわね。
でも運転士が速度を落としてくれた。」
(ノルマ・ロメロさん)
「これが毎日続くのよ。
1歩ずつしか進めないけど毎日頑張るしかないわ。
幸せになる権利は誰にでもあるの。」
ロメロさんたちも決して不法な移住を奨励しているわけではなく
移民の人たちが危険にさらされている状況を目の当たりにして自発的に始めた。
さらにいま危機感を強めているのが
女性と子どもたちだけでアメリカに向かおうと列車に乗っているケースが増えていることである。
こうした女性や子どもたちがアメリカに行かずとも
メキシコで安定した生活が送ることができるよう女性たちが立ち上げた施設がある。
アメリカを目指してやってきた女性たちを支援する施設。
壁には女性たちの笑顔が生き生きと描かれている。
「移民女性の教育と自立の家 CAFEMIN」。
5人の女性によって運営されている。
施設には70人ほどが滞在している。
そのほとんどはパスポートやお金を持たず近隣の国々からメキシコへ逃れてきた女性や子どもたちである。
「私は4月にエルサルバドルからここに来ました。」
エルサルバドルで教師をしていた女性はギャングに狙われて逃げてきたと言う。
「エルサルバドルでは教師は高給だと思われ
ギャングに狙われます。
私も脅かされて娘2人を連れて国を出るしかありませんでした。」
施設の担当者は
女性たちは豊かさを求めるより自らの身を守るため祖国から逃げてきていると言う。
(CAFEMIN副代表 エルナンデスさん)
「彼女たちは暴力から逃れてきています。
移民の女性は深い問題を抱えているから
施設を作ったのです。」
身寄りのない女性たちがこの先どう生きていくのか。
施設に常駐する弁護士が相談に乗っている。
(弁護士)
「カナダもあなたのように安全を確保できない人の受け入れ国の1つね。」
不法移民としてアメリカを目指すのではなく
合法的にメキシコに定住することも勧めている。
(弁護士)
「彼女たちに現状を伝え話を重ねながら
定住してもらいたいと思っています。」
定住の1歩として女性たちの自立を支援する場が併設されているカフェ。
接客や調理のノウハウを学びながら報酬を得ることができる。
「とても感謝しています。
来てまだわずかですが助けようとしてくれています。」
(CAFEMIN副代表 エルナンデスさん)
「ここで女性としての誇りをもって
これからの人生に立ち向かえる人になってほしいのです。」