8月26日 NHKBS1「国際報道2019」
エチオピアは
1970年代半ばから15年以上
社会主義を掲げる軍事独裁政権が統治した歴史がある。
軍事費が膨らみ
数十万人の国民が“反体制派”とみなされて政権側から殺害されるなど
国は混乱を極め
飢餓へとつながったのである。
首都中心部には軍事政権時代に作られた銅像が今も残されている。
実は銅像はエチオピアが社会主義だったころに北朝鮮が製作したものである。
飢餓にまで至った混迷から30年ほどが経ち
いまエチオピアはナイジェリアに次いでアフリカで2番目に人口が多い国となり
若い世代が急速な発展を支えている。
(市民)
「この変化に乗り遅れないようにしないと。
もちろん未来は明るいよ。」
「仕事のなかった人たちも今は働いています。
教育や経済が良くなっていると感じます。」
インフラの整備も着々と進んでいる。
電車もエチオピアの経済発展を象徴する存在と言える。
4年前に開通した首都を走る電車は
日本円で10円程度から乗車できるとあって大勢の市民が利用している。
(利用客)
「いつも利用しています。」
「早いし涼しくて快適です。」
去年開通した貨物鉄道。
エチオピアは内陸国のため港がないが
アディスアベバから隣国ジブチの港を結ぶ全長750kmが中国の資本で作られた。
新たなインフラを活用して輸出を拡大しようとする企業がある。
エチオピアは世界有数の花の生産大国で
アディスアベバも現地の言葉で“新しい花”という意味である。
エチオピアは日照時間が長くバラの栽培に適している。
ひと月100万本を生産するという農園。
農薬を使わず
品質も高いことから
ヨーロッパや中東
アジアにも輸出している。
鉄道ができると輸送コストを大幅に削減できると期待を寄せている。
(バラ農園 栽培責任者)
「オーストラリア人や日本人も我々の花を買っています。
我々の会社をさらに成長させたい。」
アディスアベバの郊外にある工業団地。
ここには中国を始め世界各国の衣料品メーカーが進出している。
その1つ インドのメーカー。
世界的なファストファッションのシャツをアメリカの店舗向けに製造している。
タグはMADE IN ETHIOPIA。
エチオピアは“世界の縫製工場”と呼ばれるバングラデシュよりもさらに賃金が低いため
世界中の衣料品メーカーが注目している。
(インドの衣料品メーカー デバラジ副工場長)
「インドのイメージは大きく変わりました。
当初は“大変なところに来た”と感じたが
実際には難しいことはありませんでした。」
一方で課題もある。
生産性の低さである。
進出した繊維業界の関係者は
同じ人数や時間だとエチオピアではバングラデシュの4分の1程度の量しか作れないと言う。
(インドの衣料品メーカー デバラジ副工場長)
「エチオピア人は基本的にとてものんびりしています。
世界のどこよりも賃金が低い一方
作業効率が非常に悪い。
だから低賃金が強みにならないのです。」
エチオピアでいま求められているのは
作業員を効率よく配置するといった
能力を持った現場責任者の育成である。
こうしたなか日本企業による生産性向上への取り組みが始まっている。
8月中旬
日本の大手商社が地元の繊維業界の団体と
産業育成と振興に関する覚書を締結した。
日本のものづくりのノウハウで生産性や品質を向上させようという狙いである。
(伊藤忠商事 アディスアベバ事務所所長)
「エチオピアは本当にポテンシャルがある。
繊維産業だけでなく
いろんなところに成長の芽があると考える。」
エチオピアの投資委員会は
高い技術力を持つ日本企業の進出に大きな期待を寄せている。
(エチオピア投資委員会 ハナ副委員長)
「直接投資の8割以上が製造業につぎ込まれています。
製造業の拠点を目指す国として
日本からの投資の増加を強く希望します。」
一方 地方の農村部では法律整備の遅れなど経済発展から取り残された地域も多くある。
首都から車で1時間ほどの農村。
小麦などを栽培する農家のウォルクさん。
エチオピアの今の法律では
土地は国が所有し農家は借りるだけとされ
国の決定には従わざるを得ない仕組みである。
15年前ウォルクさんの一族は国の決定で突然 大農園に農地を奪われ
何の保証も受けられないまま苦しい生活を余儀なくされている。
現在の政府はこうした問題に取り組む姿勢も見せているが
ウォルクさんらは未だに救済されないままである。
(農家 ウォルクさん)
「なんと説明すればいいか
私だけでなく多くの人がしかるべき回答を求めています。
我々のような農家はないがしろにされているのです。」
村では日中にもかかわらず仕事がなくたむろする若者が多く目についた。
「仕事がない。」
「毎日村をうろついているよ。」
去年41歳で就任したアビー首相は
こうした農村部の若者に雇用を生み出すことが喫緊の課題だとしている。
(エチオピア アビー首相)
「エチオピア人はマラソンが得意な生まれながらのランナー。
これはやる気と責務とスタミナの証だ。
教育水準を上げ
若者のやる気を生む投資を行い
新たな雇用の機会を生まねばならない。」