8月28日 NHKBS1「国際報道2019」
アフリカでは今
スマートフォンや携帯電話などの情報通信機器が爆発的に広がっている。
先進国が段階的に長年かけて積み上げてきた技術の進歩を一気に飛び越えて最新の技術が普及することを
“リープフロッグ(カエル跳び)現象”と呼ぶが
アフリカではまさにリープフロッグが起きている。
こうした新しい技術を使ってアフリカにある長年の課題を解決しようと
アフリカの若者たちが次々と新しいビジネスを起ち上げている。
そのことに日本を含めた世界中の投資家たちが熱い視線を送っている。
アフリカンイノベーションの中心地の1つ ケニア。
広いサバンナに建つ質素な家。
電線も水道もガスも通っていないこの場所。
しかしここに暮らす遊牧民のマサイの男性の手にはスマートフォンが。
牛の売り買いの情報を集めるため今では手放せない道具となっている。
「毎日情報が入ってきて役立つし
うれしい。」
充電は太陽光発電を利用している。
ケニアでは中国やインドから手ごろな価格のスマートフォンが出回り
携帯電話の普及率は100%以上。
1人1台以上持っている計算である。
誰もがインターネットにアクセスできるようになったことで
新たなビジネスが次々に起ち上がっている。
その1つがスマホを使った“郵便革命”をもたらしている。
ケニアではほとんどの建物で詳しい番地が割り振られていないことから
多くの人が郵便物を郵便局まで取りに行っていた。
新たなサービスでは郵便物にQRコードを貼り付ける。
読み取ると
受取人の携帯電話に届け物があることが通知される。
受取人が今いる場所に届けてほしいと希望すれば
配達人は携帯電話のGPS機能を使って場所を特定する。
その場所めがけてバイクを走らせる。
携帯電話があればどこででも荷物が受け取れるのである。
このサービスは人気を呼んで利用者が急拡大し
現在4万人が登録している。
(サービスを利用した人)
「ネットで購入すると通知や追跡など
携帯電話1台で何でもできるようになった。」
このサービスを始めた起業家のアブドゥルアジズさん。
アイデアのきっかけは自分自身の苦い経験だった。
アブドゥルアジズさんはかつて公務員試験の合格通知を期限内に受け取れず
就職のチャンスを逃してしまったのである。
(起業家 アブドゥルアジズさん)
「“必要はイノベーションの母”
職には就けなかったが
おかげでこの会社が生まれた。」
この企業を支援している日本人の若者がいる。
寺久保拓磨さん(28)。
去年 アフリカに特化したベンチャーキャピタルを設立。
アフリカに関心を持つ日本企業などから出資を受け
現地のスタートアップ企業に投資している。
寺久保さんはアブドゥルアジズさんの考えたサービスでケニアの物流は一変すると考え
今年1月 約1千万円を投資。
サービスの実用化を後押しした。
(寺久保さん)
「物流のインパクトってすごく大きいので
そこのインパクトによって経済が一気に加速するので
可能性しか感じない。」
寺久保さんはケニアで起きている変化をさらに大きくするために
日本企業との連携にも力を入れている。
現地に進出している大手バイクメーカー ホンダ。
物流が拡大すれば配達用のバイクの需要が急増すると期待するこのメーカー。
貧しい人でも元手なしでバイクを使った仕事を始め
ゆくゆくはバイクを自分のものにできる仕組みを作ろうとしている。
(ホンダ プロジェクトリーダー)
「先進国や今あるビジネスに凝り固まっている僕らにとって
非常に刺激を受け
かつ可能性が見いだせる土地だと思う。
会社として何か発展するチャンスが見えてくるのではないかと考えている。」
寺久保さんは大学生のとき
貧しい人たちに小口の投資をするバングラデシュのグラミン銀行でインターンシップを経験。
企業がたちがビジネスの力で課題を解決していく姿に感銘を受けたことが投資家を目指すきっかけとなった。
アフリカ各地を飛び回り有望な起業家を探す。
(寺久保さん)
「アフリカは世界で一番課題を抱えているところが大きい。
ここで解決出来たら世界中どこでも解決できるだけのノウハウを得られると思ったので
それを一緒に起業家と作りたい。」
寺久保さんはアイデアを競い合うコンテストも行っている。
7月に開かれたコンテストには11人の起業家が参加した。
漁業や農業に携わる人たちの急な出費に対応する保険を提供する事業。
AIを使ってビジネス情報を交換し合うサービスなど
さまざまな計画が披露された。
(起業家)
「魚を冷蔵保存ボックスに入れます。
その場で販売もできますし
トラックに積んで遠くに運ぶこともできます。」
優勝したのはケニアの起業家。
冷蔵庫や保冷車が発達していないため
取った魚の40%が無駄になってしまっていることに目をつけた。
太陽電池を使って冷蔵配達する仕組みを作り
地方から都市部まで新鮮な魚を運べるというアイデアを披露。
10万ドルの融資を獲得した。
(寺久保さん)
「ビジネスとして実態が全然ない状態なので
それが形になり大きくなるか見極めるのが怖さでもあり面白さでもある。
起業家が一番大変なのが創業期なので
しっかり支援するのが僕の役割。」