子供の頃、癌という病気の話しを親から聞かされたときは
「だけど大人になる頃にはきっと治る病気になってるから大丈夫」
と言われたのを覚えている。
ある意味では当たっているけど、
でも未だにとても死と近い感じがしてしまう。
塩田千春さんの展覧会は絶体に観なくてはと思い
雨の強い日、朝一で美術館に行った。
待たずに入れてじっくり鑑賞することができました。
観る、というよりは体験、追体験。
塩田さんの体験を追って体験する感じだった。
大がかりなインスタレーションの迫力に
人のいのちの壮大さそのものに入り込む思いで
自分の足の一歩一歩に力が入った。
痛くて美しい作品。ひもは針か棘のようにあちこちに突き刺さり、
あるいは見えない関係性が可視化された洞窟のようでもあり、
私は女性として強く共感もでき、また同時に小さな蜘蛛になったようでもあった。
翌日、故田中芳さんの遺作展に行った。
田中さんはちょうど今の私の年齢の時、癌で亡くなった。
当時この知らせは衝撃で、しばらく受け止められずにいた。
今年は7回忌になるのだそうだ。
亡くなる1年ほど前、個展に来て下さったときに
「何故日本画の作家は、作品を綺麗なまま残そうとするのか私には分からない。
この世界のものは当然時間とともに変化し、朽ちていくのに。」
と少し語気を強めて仰っていたのが忘れられない。
思えばこの時にはもう闘病されていたのだ。
この言葉はずっと私の頭にあって時折現れる。
画廊には芳さんのお姉様がいらしてお話しくださったが、
その人も病気を患っているようだった。
ある裸婦像を描いた作品を指さし
これは20代のころの自分だと嬉しそうに何度も繰り返し話された。
私はこの作品と目が合っていた。
「塵」田中芳 2009
購入。
つねに側に置いて共に時を過ごそうと思います。
この日は帰宅してから少し泣いた。
★田中芳