いい降りだ、いよいよしぐれ始めたか、二ー三日しぐれるような予報だがこれから初冬と云う事か、もみじに音を立てて降り注ぐ何ともうすら寒い日曜日だ。
こいう時季に成ると想いだす、平維盛が鹿狩りに信濃の国の戸隠山へ、しぐれて来たので急いで下山と言う時に侍女を伴う上臈に逢い、酒宴に誘われて上臈の舞と酒に酔いしれて寝込んだしまう、夢中に神のお告げで鬼女と知り戴いた神剣で、目覚めて鬼女を退治すると言う物語りを、 これは有名な紅葉狩りと言う能の話だ。
今から五十年ほど昔三十歳そこそこの若造が、母校伊工の恩師亀井先生などに誘われ五雲(蘊)会なる宝生流の謡の会に入り、以後数年夢中なってウナッタ時期が在った。
その時鶴亀から始り二ー三十冊上げたが、若さからかどちらかと云えば上品な幽玄な物より元気な切り能の方が好きで、その中でも紅葉狩は今でもこの時季に成ると想いだす謡曲である。「時雨をいそーぐもみじーがり」で始まる冒頭の一節や、「下もみじーよのーまのつゆーやそめつらーんー」で始まる小謡一節など、口をつきそうになる。
ちょうど椎間板ヘルニアのオペが終わり、好きなバスケットなど運動が出来なくなったことも影響したのか、とに角青春真っ只中の習い事にしては老け込んでいたようだ。