今年は珍しく年末年始に少し時間が空いたので、「モンテ・クリスト伯」の映像作品を何本かまとめて観た。
1988年のロシア映画は初見だったが、意外にも拾いものだった。
モンテ・クリスト伯=エドモン・ダンテス役は背が高いだけで、それこそドストエフスキーの小説にでも出てきそうな陰気で古色蒼然たる男優だったが、ヒロインのメルセデスと太守アリ・パシャの娘エデを演じている女優がどちらも適役で、最後までそれなりに面白く観れた。
やはり名作のヒロインは立派でないと、と単純に思う。
(イザベル・アジャーニ似のメルセデス役の女優は若くして世を去っているのだそう。)
フランスとハリウッドを行ったり来たりした男優ルイ・ジュールダンがダンテスを演じたフランス映画(1961年)は逆に恋人メルセデス役の女優が美しくなくて、かなりの驚きだった。これでは無実のダンテスが14年に渡るシャトー・ディフでの獄中生活に耐えられそうもない。というか、ニヤけ顔のジュールダンは軽薄なピアニストを演じた「忘れ時の面影」が出演作では最も良かったが、線が細すぎて復讐に燃えるダンテスにはだいぶ迫力不足だ。
名場面、息子アルベールを決闘で殺さないでと懇願しに現れるメルセデス(3:06:50)
BBCのテレビドラマシリーズ(1964年)から、同じ場面(18:14)
1998年のミニ・テレビ・シリーズ。ジェラ―ル・ドパルデューと名花オルネラ・ムーティ
同じ場面(16:13)
好きな女優を尋ねられると10回に8回はマリー・ラフォレと答える。(残りの2回はバルドーとジーン・セバーグだ。)
「太陽がいっぱい」(1960年)で鮮烈なデビューを果たしたマリー・ラフォレだが、彼女はもともと歌手志望だったためか、女優としてのキャリアを築くことにあまり欲を持っていなかったように見える。どこかいつもなげやりで、そこも大きな魅力なのだが。
「マンチェスターとリバプール」(1968年)は「恋はみずいろ」などで有名なアンドレ・ポップの作品で、マリー・ラフォレ最大のヒットとなった失恋の歌だ。
「太陽がいっぱい」の初登場シーン。フラ・アンジェリコ(宗教画家)、ギター、ラフォレ、押しの強いモーリス・ロネ。最高だ。
マンチェスターとリバプール
マンチェスターとリバプール
私は思い出多い名の通りを歩いている
この雑踏の中
見知らぬひとたちの中を
マンチェスターとリバプール
私はずっと旅してきた
失くした美しい愛を求めて
私の知っていたあなたを求めて
愛してる、愛してる
独り言のようなあなたの声
愛してる、愛してる
私は何度も繰り返し思ったの
マンチェスターは悲しみにくれ
リバプールは海の上で泣いている
どうしていいか分らないの
白い船は冬を恐れている
マンチェスターは雨の中
そしてリバプールはもう見つからない
今日の霧の中で
愛も失くしてしまった
愛してる、愛してる
あなたの独り言に耳を傾ける
愛してる、愛してる
あなたがもういないのは分っているけど
ラララ…
もうずいぶん前の話だ、赤日新聞の第一面に、二基の深海探査船ジュールス号とジム号を搭載したフランスの海洋調査船が来日した、というニュースが掲載された。それを見て、たぶん10万人くらいの日本人がツッコミを入れただろう、それは英語読みせず、ジュールとジムー「突然炎のごとく」の原題で、そのネーミングこそフランスのエスプリを感じさせるものではないか、と。文化部もあるのに、大新聞社も縦割りか。
テレビ放映された「突然炎のごとく」の日本語吹替版がある。ジュールは富山敬、ジムが堀勝之祐。堀は同じトリュフォーの「隣の女」で主人公ベルナール(ジェラール・ドパルデユー)の声を当てている。隣家に越してきた昔の彼女マチルドへ次第に妄執し狂って行く凄みをよく表していた。マチルドは田島玲子だった。(以前も書いたが、この録画テープだけは捨てられないでいる。)
堀は僕らの世代だと電線マンの声。「隣の女」の吹替版を観るまでこのひとにあまりいい印象を持っていなかったのは、たぶん、スコット・ウイルソンの声を担当していたからだ。旧版「華麗なるギャツビー」の修理工、「傷だらけの挽歌」の強盗団員、「冷血」の殺人犯。
そういえば、「さらば友よ」では堀がアラン・ドロンを当てているバージョンがある。野沢那智版の方が先で有名だし、ブロンソンは大塚周夫と最強なのだが、堀のドロンに、ブロンソンが森川公也なのもなかなかいい。森川は「ゴッドファーザー」正続編でトム・ヘイゲンことロバート・デュバルを担当した渋い声の持ち主だ。
僕にはセバスチャン・ジャプリゾのマイ・ブームが二度あった。
最初は映画化作品「さらば友よ」や「雨の訪問者」をテレビで観た後、邦訳本を探して読み漁った中学時代。
次はイザベル・アジャーニ主演で映画化された「殺意の夏」(1983年)が日本でも公開され、大きな話題を呼んでいた20代前半。
今思い返すと笑ってしまうのだけれど、そのどちらも、いっときの間、寝ても覚めてもジャプリゾのことを考えていた。
「殺意の夏」公開時はお金がなくて、五反田の二番館で観た記憶がある。
パンフレット、というよりは大判二つ折りのリーフレットは200円だった。たぶん家のどこかにまだある。原作本もある。ビデオテープは捨てた。
アジャーニはセザール賞主演女優賞に輝き、本作が代表作と言われているが、当時も今もちょっと首をかしげる。
僕は原作小説の方を先に読み、魅了されていた。
それだけに、カーリーヘアに褐色の肌の19歳のヒロインを、なにもアジャーニが演じなくても、と思った。
その前年の、「死の逃避行」での彼女がとてもよかったから、なおさらだった。
目が完全にイっている殺人鬼(アジャーニ)を追いかけながらその後始末を買って出る中年探偵(ミシェル・セロー)の奇妙なロードムービー。
のちにアシュレイ・ジャドとユアン・マクレガー主演で「氷の接吻」(1999年)として再映画化されている。さほど評価は高くないが、個人的にはこちらも繰り返し観たくなる作品だ。
公開当時のリーフレット
エヴァ・グリーンはデビュー作の「ドリーマーズ」(2003年)の印象が鮮烈だったことからプロフィールを調べたところ、母親がマルレーヌ・ジョベールだと知り心底驚いた。
日本では「雨の訪問者」(1969年)のヒロインとして知られている。
「雨の訪問者」とその前年の「さらば友よ」は、僕にとっては好き過ぎていくら語っても語り尽くせない作品だ。
どちらも脚本セバスチャン・ジャプリゾ、主演ブロンソン。
「雨の訪問者」はそれに加えて監督ルネ・クレマン、音楽フランシス・レイで、しかもジョベールの義妹にあたるマリカ・グリーン(ロベール・ブレッソン監督の「スリ」のヒロイン)がカメオ出演していた。
こういったところは、プロデューサー(セルジュ・シルベルマン)のいい仕事だ。
ご存知のとおり、エヴァ・グリーンはそのあと「007カジノ・ロワイヤル」(2006年)に出演している。
アルマーニやグッチのパンツスーツを知的に美しく着こなし、粗野なボンドを一流の男に引き上げる、歴代最高のボンド・ガールだ。
でも、どう考えてもエヴァ・グリーンとショートカットのそばかす美人ジョベールの雰囲気と容姿が重ならないのだけれど、マリカ・グリーンの姪と言われれば、なんとなく納得する。
ブロンソンの役名が「ドブス」なのが笑える
アルマーニの衣裳で同じポーズ
「スリ」(1959年)のマリカ・グリーン