このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。
大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。
また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。
売れない画家のNにもやっと陽の目が当たってきたらしい、先日、地方の美術館から比較的大きな作品の購入の申し出があり、もう何点か追加で検討中だとの連絡が画廊を通じて届いていた。
Nは画商から代金の一部を前借りすると、祝杯をあげる代わりにスケッチ箱(木製の画材入れ)を新調した。
包装を解くと、濃い木の香が部屋を満たした。
細かく仕切られた内側の一番良い場所に、彼はいつもメインに使っている絵筆を真っ先に置いた。
ほっそりと長い柄と黒々とした豊かな筆毛のコントラストがいつ見ても美しく、彼にはいささか高価すぎるスケッチ箱も、よく似合っていた。
アルバイトでたまたま訪問した先の老婦人から譲り受けて、ちょうど10年になる。
この筆とともに彼は自身の代表作と内心自負している作品を次々と描いた。
初めの頃は、この絵筆は前の持ち主といったいどんな傑作を描いてきたのだろう、と想像して焦りを覚えることもあったが、今は気にならなくなっていた。
「これからも僕は僕でいい絵を描いて行く、それだけさ。」
Nが独り言を口にすると、スケッチ箱の中でコトリと音がした。