劇作家クリフォード・オデッツが脚本をリライトした映画「成功の甘き香り」(1957年)は、忘れられないエピソードやセリフ満載だが、その中の一つはその後の僕の行動様式にまで影響を与えた。
いつも金欠のプレス・エージェント(トニー・カーティス)が狭く寒々しいオフィスから外出しようとすると、若い秘書にコートを持っていきなさい、と声を掛けられる。
するとカーティスは笑って言う、クローク代がかかるからいらないよ、と。
自分のネタを使ってくれない大物芸能コラムニスト(バート・ランカスター)を21クラブに訪ねたカーティスはさんざん愚弄された上がりに店の出口で皮肉られる。
「なんだ、コートを持ってきてないのか、おおかたクロークでのチップをケチってのことだろう。」
そう見られるのか。
田舎に行けば行くほど車社会で、ロングコートは無用の長物に等しいのだが、それでもなお、僕がしっかりコートを持ち歩くのは、この映画を十代の頃に深夜テレビで観たからだ。
でも、(これは言わない方がいいのだが)いいコートやいい車はいいところに置いてもらえるのも、長い経験上の厳然たる事実だ。
クロークのシーンは6分から。
現役の陸軍中将でもあるマクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官のNHK単独インタビューをニュース番組で観た。
カメラの前のイスに座るなり、ワシントン支局長へ「スーツはおかしくないですか?」と裾を引っ張ったりしながら尋ねる。
大丈夫ですよ、と支局長が答えると、「ヘアスタイルは?」と重ねて尋ねる。
返答に困っている相手を見ながら、スキンヘッドの補佐官は高笑いした。
たぶん、いつもこれをやっているのだろう。
彼のジョーク、というよりは先制パンチが見事にヒットした一瞬だった。
素敵なレジメンタル・ストライプのネクタイだが、アイビーリーガーではなく、ウエストポイント(陸軍士官学校)卒で、イラク戦争当時に連隊長(レジメンタル・コマンダー)だった彼の経歴からすると、本来の意味で締めているということか。
※長いけれど、ジョークです。(2017年11月)
個人的な感覚で言うと、日本国内でのレジメンタルストライプのネクタイの割合は、左下がり(ヨーロッパ風)が9割以上、右下がり(アメリカ風)が1割以下だ。
街を歩いていて、右下がりのひとに会うことはめったにない。
石津センセイ(旧VANの創業者)が提唱した、ライフスタイルとしてのアイビーが日本に根付かなかった、残念な証しの一つだ。
先日行われた野党の代表選候補者の面々の写真を見ていて、おや、と思った。
白髪のひとのネクタイが、息子と成人式用のスーツを購入しにブルックスブラザーズのブティックへ行った際、見立ててやったものと同じだった。
定番の、ミニBB#1である。
へええ、左のひとでも締めるんだ、今話題の文通費で購入したのか。
真ん中の左下がりの二人は、関西のアーケード商店街の店先ででも買ったのだろう、ネクタイもシャツも、柄・質感ともにひどい。
ところでこの白髪のひとは知っているだろうか、そのレップタイ、貴職たちが蛇蝎のごとく嫌っている下の方と、ブランドかぶりしていることを。
それとも、知っていての隠れ権力願望、隠れプチブル志向なのか。
BB#1
BB#3
BBジャパンのアンバサダーを務めている賀来賢人。
ブレザーにブルーのオックスフォードBDシャツ、チノパンツ、ネクタイはBB#4だ。
こういう素敵なスタイルの方に出くわすことも、ほぼなくなった。寂しい限りである。
僕自身は右でも左でもなく、十代から現在に至るまでノンポリで過ごしてきた。
唯一、6・3・3と先輩だった地元選出の小野寺五典代議士の大ファンだが、だからと言って特定の党に属したことは一度もない。
それを先に書いておいてから、今回の話を進めて行く。
さて、以下はブルックス・ブラザーズのHPからの引用である。
「レップタイは光沢ある畝織りの生地で作られたネクタイのことで、代表的な柄としてレジメンタルストライプの縞柄があります。そのルーツは19世紀の英国の連隊(レジメント)までさかのぼります。自分たちが所属する軍隊の証として締めていたレジメンタルストライプのタイにブルックス ブラザーズの社長が注目し、米国に紹介したのです。実はその際にひと工夫を社長は加えました。縞の向きを逆にしたのです。ですからブルックス ブラザーズのストライプは、縞が右下がりになっています。
英国の定番であるレジメンタルストライプのタイをアメリカ流にアレンジしたのですが、独創的な色使いと相まって紹介されると瞬く間に流行になりました。今でも各国の政治家やビジネスパーソンに愛用されるネクタイです。」
このエピソードは(今や絶滅危惧種となっている)アイビーボーイやトラッド好きの間ではよく知られている。
ブルックスの定番レップタイには番号もついているのだが、これに関して昨年ちょっとだけ話題になったことがあった。
アメリカ大統領選挙の第一回目の候補者討論会で二人の候補者がどちらもブルックスのレップタイを締めていたのだ。
トランプ前大統領は#3(バーストライプ)、バイデン現大統領は#5(ジョッキーストライプ)。それを双方ネイビー・スーツとワイドカラーのシャツに締めている。
ご存知の方も多いと思うが討論会でのテレビ映りは、かつてそれによりケネディ候補がニクソン候補を逆転したと言われるほど重要で、今回もお互いしっかりスタイリストがついてのカブりだったのだろう。
以前書いた通り、トランプ前大統領はペンシルベニア大卒=アイビーリーガーなのだが、だったらこんな大事な時くらい上着の前ボタンをしめていていただきたいし、対するバイデン現大統領はサイズの合わない吊るしのスーツなのか、年を取って痩せたのか、襟の後ろが余っていてみっともない。有権者としてはどちらにも投票したくなかっただろうな、と勝手に想像してしまう。
(この項つづく)
今年最後のニューフェイスが2台届きました。
ぽらんデイサービスとぽらん気仙沼デイサービスに、それぞれ配備しています。
お邪魔するお宅すべてに末広がりの幸いを運んでくれるといいですね!
※あまり大きな声では言えないのですが、活動車に入れる看板(ネーム)代、1台八千円(税別)なんです、、。